目覚ノ捌 after

 ん、ここはベッドか。そういえばあれからどれだけ飲んだ? 記憶がないぞ……

 そうだ、ヴェインはどこに?

 ん?

「ようやくお目覚めですか。あいたたた」

「ヴェイン、お前なぜ私の隣で」

「覚えてないんです? お楽しみだったんですよ、貴女は」

「なっ、それはどういう……」

 不意に出た「お楽しみ」という言葉。まさか……

「私だって抵抗しましたよ。でも貴女のパワーはK並、その上誘引フェロモンまで使われたらどうしようもないです。いてて」

「いや、なんだかすまないな……」

 どうやら私は酒の勢いでやらかしたらしい。何がとは言わないが乱れに乱れていたようでベッドのシーツはグチャグチャだ。

「酔っ払った貴女は凄かったですよ。喜怒哀楽の塊の様になってたんですから。それまでの貴女とはまるで別な存在に思えました」

「そうか……いや、本当にすまない。酒にダメにされたか、私は」

 なんとも情けない。と、思っていればヴェインから意外な言葉が出てきた。

「いえ、酒は誰かをダメにするのではなく、ダメな部分を出してくれるんです。きっとまだ貴女は喜怒哀楽を上手く掴めていないんでしょう。特に『喜』と『楽』をね」

「……」

 喜怒哀楽か。そういえば苦手だな。これから掴めていけるのだろうか。

「とりあえずお風呂にしましょうか」

「あ、ああ、そうだな」

 

 何かよく分からない空気がその場を支配した。


――


「本当に片付けを任せて良いのか?」

「ええ、構いません。そのかわり、また手合わせ願います」

「それは約束する。ああ、そうだ。あの事は内密にしておいて欲しいんだが……」

「もちろんです。誰にも言いませんよ」

「そうか、ありがとう。あの、だな……」

「なんです?」

 少し言いにくいが言ってしまおう。もう後には退けないしな。

「また、相手してくれ。その、酒とかアレとか」

「……いいですよ。私なんかで良ければ、いつでも」

 そう言ってはにかむヴェインを私は何故か直視出来なかった。

 カップに入ったコーヒーが静かに揺れているのを見るよりなかったのだ。

 一体これは何だろうか?


――


「それじゃあまた」

「ええ。なにかあれば連絡を下さい」

「ああ」

 とりあえずヴェインの部屋を後にして自室へと向かう。身体は昨日より更に軽く感じる。少し頬が熱い様な気もする。

 私は今、自分の感情がよく分かっていない。だが悪い気はしない。


「分からない事が多いな」


 これから学ぶより他はない。

 そしてそれもまた悪くない。


 そう思っている私が、確かにいる。

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