目覚ノ漆 drink

「「乾杯」」

 カンッと容器のぶつかる音と共に飲み会が始まった。


「それにしても最初に貴女を見つけた時には驚きましたよ」

「ああ、ドクトルから聞いた。血溜まりにのさばっていたらしいな」

「そうですよ。簡易カプセルを持っていって正解だった……貴女の損傷具合は酷かったですからね」

「確かに今の今まで目覚めない程にはやられてたらしい。素直に負けを認めるしかないか」

「……その戦いに勝ち負けはあったんでしょうかね?」

「どういう事だ?」

「あれは貴女を目覚めさせる戦い、であった筈です。ビールの栓を抜くのにあまり優劣はないでしょう? Kは無理矢理貴女の栓を抜き、貴女は貴女で四苦八苦しながら栓を抜いた、それだけの話では?」

「……」

 言われてみればそうかもしれない。あの戦いは苦しい時もあったが楽しかった、それこそ勝ち負けもデータも何もどうでもよくなる位には。

「変な言い方かもしれませんが共同作業だったんじゃないですかね? 栓を抜く為の」

「共同作業か、なるほど。確かにそれなら勝ち負けは無いな」

「何か負けると都合が悪かったので?」

「いや、負けた方が酒を奢れと言われてな」

「ははは、Kらしい。その条件に『本気で戦って』とでもついていましたか?」

 ヴェインの言葉にハッとする。そういえばそうだ。

「! 確かにその条件はあったな。何故分かった?」

「いやなに、私もそんな条件で手合わせする事がよくありまして」

「そうなのか。で、勝てているのか?」

「いーえ、全く敵いませんね。ただ、毎回ポーカーで私が勝つのでおあいこですが」

「ははは、なんだそれは」

 Kとヴェインのおかしなやり取りについ笑いが漏れる。これもまた今までの私とは違う反応だ。

「おっと、ビールがなくなりましたね。はい、どうぞ」

「ああ、すまないな」

「そうだ、確か冷蔵庫にライムがあった筈、カットしてボトルに差し込みましょうか?」

「ん? 聞いたことのない飲み方だな」

「結構美味しいんですよ」

「ではお願いしようか」

「はい。少々お待ちを」

 ヴェインがライムを切っている間に肴を食べるがどれもこれも美味い。

 なんでもKが世界中を回っている時に買ってきたものらしい。Kはグルメなのだろうか?

「切ってきました。さっそく差し込んで……はい、完成です」

「ありがとう」

 グイッといってみる。おお、確かに美味い。もともと爽やかな風合いのビールが柑橘の香りで更に爽やかになった様だ。これはいける。

「ぷはぁ。これはいいな」

「一気飲みですか……まぁまだまだビールもライムもあるのでお好きなだけどうぞ〜」

「お言葉に甘えるよ」


 美味い酒に美味い肴。

 ああ、初めてだ……





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