武器をあらってやり直し!

ちびまるフォイ

強くなるための最短ルート

「ぐはぁ! や、やられたーー!」


「愚かなり勇者よ! その程度ではまだまだ我を倒せんぞ!

 装備を整えて来るが良い!!」


「装備を……整える……!?」


勇者はそれきり意識を失った。

セーブポイントの公衆トイレから復活したときには次の目標が見えていた。


「よし、装備を整えなくちゃな。実力があっても装備が貧弱じゃ話にならない。

 思えば俺は近くの武器屋さんでワゴンセールされているものか、

 お母さんが買ってきてくれたデザインがアレな装備しかなかった」


勇者はこれまでの自分の行いを深く反省し、

優秀な冒険者がこぞって訪れる武器屋さんへやってきた。


「いらっしゃい。どんな装備が必要かな?」


「魔王を倒せるようなそんな武器がほしいです。私は」


「倒置法を使うくらい追い込まれてるんだねぇ。

 いいぜ、準備してやるよ。ただその前に加工素材はあるかい?」


「加工素材?」


「装備を強化するには曜日ごとに出たり消えたりする

 "曜日ダンジョン"というのに入って、

 0.2%の確率でドロップする装備強化石を集める必要があるんだ。

 石を集めて、1000億マネーで加工してやるよ」


「え……いやいや! その石がどこに必要なんですか!?」


「あの石があるとモチベーションが上がるんだよ」

「装備関係ないじゃないか!」


とはいえ勇者もしがない魔王討伐を請け負うサラリーマン。

賽の河原の石を積むように、装備強化石を揃えて装備を強化した。


「おお、これはすごい。これなら勝てる!」

「頑張ってきな」


勇者は強化された武器防具を身につけて再度魔王へと挑戦した。

くだけちった。


「ハハハ! よもや我の言葉を鵜呑みにするなど笑止千万!

 貴様に足りないものは装備以外だけではない!

 お前そのものの力もまだまだ不足していることを知れ!」


「ち、ちくしょーー!」


勇者は自分自身の力もまだまだ足りていなかったことを自覚した。

けれどいくらモンスターを倒しても一行に上達した気がしない。


「もし、旅の人や。あなた自分の実力が頭打ちになっていることに悩んでおられるようですな」


「どうしてそれを!?」

「展開の都合上、私はわかるんじゃ」


「教えてください! 私はこれ以上どうすれば強くなるんですか!

 このままでは魔王を倒すことができません!」


「これを引きなせぇ」

「これは……!?」


「ガチャじゃ」


「ガチャ……!」


「ここから自分自身のドッペルゲンガーが出てきたら、

 それを容赦なく食べるんじゃ。むしゃむしゃと。

 さすればお前さんは自分の限界を越えて強くなれるじゃろう」


「あの、このガチャ。取っ手が回りませんけど?」


「1回1000億マネーじゃ。10連だと1回オトク」

「ええ……」


勇者は必死にガチャを回して、出てきた自分を食べて強くなった。

大量に使われるお金も強くなるためなら気にならない。


「よし! これで十分強くなった! これで勝てる!!」


勇者は今度こそと決意を固めて魔王に挑んで、くだけちった。


「な、なんでだぁーー!!」


「グッハハハ!! 実に浅い考えだなぁ勇者よ!

 体を鍛えれば我を倒せると思ったか!

 貴様はまだまだ我を倒せるだけの精神力が足りていない!!」


「精神力だと……!?」


「筋肉だけ強化しただけでは我には勝てん!」


勇者は復活した直後にその足で精神修行へと乗り出した。

人里離れた山に一人住むという精神仙人に会いに行った。


「精神仙人、どうか俺の精神を鍛えてください!

 魔王を倒すためには自分の精神の強化が必要なんです!」


「よかろう。して、お前さんはそのためにどんな努力が必要かわかっているかな?」


「いえ、わかりません。どうすれば精神が強くなるんですか!」


「精神とは言い換えればスキル。お前さんのスキルを強化するためには

 同じスキルを持つ人間を倒しまくって、スキルパワーを貯めて、

 1回1000億マネーでスキル強化を繰り返すしか無い」


「同じスキルを……倒す……!?」


勇者はそれからやってくる同じ勇者を奇襲して倒した。

同じスキルを持つ勇者から得られたスキルパワーが貯まると、

お金を払って精神仙人に強化してもらう日々を過ごした。


「これで……これでもう負けない!!」


勇者は同じ間違いをしないように改めて装備を強化し、

自分を強化し精神面を強化して前日は早めに寝て朝ごはんを食べて万全を期した。


固い決意を胸に勇者は魔王の根城へと切り込んでいった。





やがて、魔王が去ったという速報がトレンド入りするころ勇者が戻ってきた。


「勇者様! よくぞ魔王を倒してくれました!」


「これも俺の優れた武器防具のおかげだな!」

「いいえ、勇者さまがガチャを引いて強くなったからですじゃ」

「何を言う。精神面の貢献こそ最大の勝因じゃ」


「「「 勇者様、いったいどうやって魔王に勝ちましたか!? 」」」


3人はお互いの貢献度を競って勇者に答えを求めた。

勇者は答えた。




「魔王に1000億マネー払ったら、普通に帰ってくれた」

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