ガーディナー

空雪

序章

誰かの為に生きたい。

呆然とそんな夢を持っていた。

誰かに夢を与える仕事の様に、与える側の負担というのは計り知れないもの。

それでも私は、そんな夢に少なからず憧れていた。

だから、その機会が来たとき、私は神様がチャンスをくれたのだと思った。


「きみにまほうをつかえるちからをあげる。そのかわり―――。」

続きはよく覚えてない。ただ覚えているのは、私にそう問いかけてきた少女が、神様だったのだろうと言う事だけ。





「憧れ」


春丘高校、桜が咲き誇る事で有名な学校で、私が通う私立高校。

家からは徒歩で20分ほど、走れば10分前後で、意外と近い。

桜だけでなく、部活動も有名な高校らしく、たまにテレビなどで取り上げられている。

自分の事で無くとも、最初はテレビの取材が来る度そわそわしていたものだけど、今では慣れてしまい日常のように感じる。慣れは怖い。

私自身、何か実績を上げたわけではないが、一応部活動には所属している。

春丘高校「演劇部」。昔はそれなりに大会など出ていたらしく、トロフィーや賞状なども飾ってある。

演劇部を担当していた顧問の先生が有名な元俳優だったとかで、実践的な指導を行っていたのだが、歳を重ねるに連れ仕事がきつくなり、教師を辞めてしまったのだ。

それが原因だったのか、演劇部はすっかり弱小になってしまい、今では大会にすらエントリーしていない。

今の顧問は、たまたま仕事が空いていたから担当を任されてしまったという感じで、部活動の様子を覗きに来ることは殆どない。

少しくらいはやる気になってほしいんだけどなぁ。

「はぁ。」ため息が出てしまった。

「どったのやっちん。バイト疲れれ?」

隣を歩いていた友達が私に声をかけた。

真白未来(ましろ みく)。小学生からの幼馴染で、少し独特な喋り方をする女の子。

成績優秀、運動神経抜群、真白という名を体現するかのように髪の色は真っ白。長髪が似合うと思うのに、本人は「手入れ大変みだからヤダやー」と言い、ミディアムにしている。

ミディアムでも充分長いと思うんだけどなぁとたまに思うけど、本人が気に入っているみたいなので、言いたくても言えない。

「あ、違う違う。全然そんなんじゃないよ。ちょっと顧問の先生の事考えてて。」

「あー、のだっちね。考えるだけむだーみんじゃない?」

「たまに思うけど、ミクの言語って不思議だよね。」

「そーう?私から言うとやっちんの方がふしーみん、みらくるるん!」

小さい頃から付き合っているからか、特に違和感もないのだけど、昔はもっと穏やかというか、静かな子だったんだけど、何でこんなに不思議ちゃんになったんだろう。

「そんなことよりやっちん!のだっちがどったのーしょん?」

「あぁ、えっとね・・・。」

今更だけど自己紹介が遅れました。私、社雫(やしろ しずく)って言います。文字数のせいでよく芸名?って聞かれますが本名です。

成績は中の上くらい。運動神経はそこそこ。ミク曰く、私は文学少女らしいです。

本は小さい頃から好きで、ずっと読んでいたら目が悪くなってしまったみたいで、中学生の頃から黒縁の眼鏡をかけてます。

って誰に自己紹介してるんだろ。私疲れちゃったのかな。

まぁ、いいや。私とミクは同じ春丘高校の二年生。私はコンビニでバイトをしていて、日頃から本を買う為のお金を貯めています。

ミクは特にバイトはしてないのだけど、何か用事があるみたいで結構すぐに帰ります。

この前気になって聞いてみたら「世界をねー救っているのだよん、えっへん!偉い、えらーえらー!と言っていました。

世界を救っている勇者みたいなので「へぇー。」とだけ返事しておきました。

ミクの返事が変なのはいつもの事なので、慣れてしまっています。慣れは本当に怖いですね。

さて、話は変わりますが、私は今一つの問題に直面しています。

それは先ほどの演劇の話。


ではなく、私の「夢」の話。

多くの物語に触れてきた私は、好きなジャンルというものが存在します。

それは、誰かの為に生き、誰かの為に人生を全うする主人公が活躍する物語。

他人の為に全力で生きる優しくも逞しい主人公の姿は私にとって憧れで、どんなものでも好きです。

火を忌み嫌う消防官の話だったり、一国を救う勇者の話だったり、村を救うために村の少年が冒険に出る話だったり。

全てがハッピーエンドで終わるわけではありませんが、それでも私が好きなジャンル。

一言で言うなら「英雄」。書物のキャラクターは私にとって英雄そのもの。

少しでも近づきたい。少しでも物語の主人公のような人間になりたい。

憧れはいつか夢に、そして目標に。

だからある意味では、世界を救っているというミクの発言に、反応しないわけではないのです。

正直、本当だとしたら羨ましい。私も世界を救いたい。

だから一度だけ、本気で頼んだこともあったり。

なんて返されたか、あんまり覚えてないけど、確か断られた気がする。ミクにしてはめずらしく。

あれは、なんて言われたんだっけ・・・。





「現実」


魔素能力、充填。装甲、展開。

心の中で静かに唱える。この言葉を唱えるのも何回目だろう。

それは魔法の言葉。そして、闇を払えという呪いの使命を課す言葉。

今思えば、何故疑わなかったのか。

都合の良い話だとは思った。それでも僕は受け入れてしまったのだ。

「―――なんでだっけ。」

ふと、ある女の子の笑顔が思い浮かぶ。眼鏡が良く似合う可愛い幼馴染だ。

そっか、思い出した。

僕は、あの子の笑顔を護りたくて。

僕に居場所を与えて、何も求めず護ってくれたあの子の為だ。

「ふふっ。」

自然と笑みがこぼれた。そう、あの子さえ護れれば正直他はどうでもいいのだ。

あの子の隣で、ただ笑いあえれば。

こんな血みどろの世界を知らなくていい。あの純粋な笑顔を僕は護りたいのだ。

「ニョ▽シッイ☆トチタ♯クボボソア/ボソア。」

ノイズが混じったような声が聞こえる。来たか。

壁に背を預け、息を殺す。位置は恐らくバレているだろう。この空間は奴が作り出している。だが、長年の経験でついそうせずには居られない。

不規則な音と声が近づいてくる。ジョキ!ジョキ!と刃物の様な音も混じっている。

「ノル▲テレ⊿クァカ〇デンァナ♯」

やはり気付かれてるか。

心の中で軽く舌打ちをする。ならここは―――。

不意に首筋に強い殺意を感じる。

反射的に足が地面を弾き、隠れていた柱から離れる。

近くにあった柱へ再び身を隠し、先ほどまで隠れていた柱を覗く。

柱は綺麗真っ二つに切断されていた。それも柱の上部は綺麗さっぱり消え失せていた。

「魔法か。厄介。」

常識的に考えれば柱を切断、ましてや上部を消し去るなど常識の範囲では不可能だ。

だがそれが目の前で起きている以上、現実なのだ。

そして、僕に向けられたこの殺意も現実。すべてが現実。

柱から相手の様子を見た。相手はおかしそうに首をかしげている。明らかに異質な顔をして。

人。元は人であったそれは、目の色が赤く、体も木の幹の様な色をし、服の様なものも所々破れている。

アンデット、ゾンビ、クリーチャー、狂人。呼び方は色々あるだろう。だが私はこう呼んでいる。

「ツヴァイ」

人に生まれつつも、人を辞めた。いや物理的に辞めさせられた人間。

第二の人生を歪められた哀れな殺人鬼。

だから「ツヴァイ」。突如人間界に現れ、さも当たり前に居たかのように街を闊歩する存在。

普通の人間には気の狂った人間にしか見えず、その本性は夜の特定の時間に姿を現す。

普段はただの人間なのだ。

それが丑の刻になると姿を変え、街を歩き始める。

狂ったように人間を殺し、狂ったように嗤う。

稀に昼間の時刻ですらその正体を現すモノも存在し、人を殺めている。

それを含めたツヴァイを駆除するのが私。

「ガーディナー」の仕事だ。国家の隠された仕事だとかそんなのではない。

一人のとある少女が斡旋している仕事。報酬は危険に見合う分払われ、それなりに生活は安定するほど。

といっても、女子高生の僕が安定も何もないのだけど。

「さて、そろそろバッキバッキのギタギタギータにしないとねぇー。」

自分の中のスイッチを入れる。

ガーディナーになったその日から、自分を変えるために演じている性格。

掴みどころのない、訳の分からない性格。

自分で自分を否定するようなこの性格が心地よかったのだ。人であったモノを殺めるのだから、生半可な気持ちではやれない。

自分ではない自分を演じることが、せめてもの救い。だから僕は。

「ごっめんねぇー君に恨みは無いんだけど。ぶっころころーしちゃうねぇー!」

僕じゃない僕を演じ続ける。




「せかい」


せかいはゆがんだ。

あるひ、ひとのなかからやみがあふれだしたの。

そのやみは、ひとをのみこんでひとをおかしくしたの。

おなじしゅぞくどうしであらそって、やみはどんどんふかくなっていったの。

いつからか、そのそんざいをしるものは、つう゛ぁいってよぶようになったの。

わるいことをするひとはしっかりこらしめないと。

えらいひとはいったの。そしてけんきゅうしたの。

つう゛ぁいをけすほうほうを。

そしてひとつのけつろんにいたったの。


あやめるしかない。


ただそれだけだったの。のろいにかかったにんげんはもうすくえない。

いちどこわれてしまえば、もうすくえないから。

あやまちをおかすように、かれらはじぶんたちをせいとうかしたの。

そしておろかだったから、わたしをのこしてかれらもほろんだの。


あ、まちがえちゃった。


わたしがほろぼしたの。


みーんなおばかさんだから。

もっとこうりつよくできるのに。

もっともっと、おもしろいことができるのに。

なんでこんなにおもしろいのに、おとなっておばかさんなんだろう。

それからせかいはおもしろくなったの。

つう゛ぁいもいっぱいあらわれて、このよはさらにこんとんのうずにのまれたの。

おもしろーい。おもしろいの。

だから、がーでぃなーをつくったの。

もっと、もっともっとぐちゃぐちゃにしてほしいからー!

えへへーおもしろいでしょー!

わたしがおもったとおり、もっとおもしろくなったのー!

おとなはめんどくさいから、おとなになるまえのこどもにがーでぃなーはまかせるの。

おとなになっちゃったこ?

えへへ、そんなのいないよ。

えへ、えへへへへ。

あれれ、もうじかんかな。

もうすこしはなしていたかったのになー。

ざんねんざんねんなの。

でもまたいっぱいはなそうねなのー!

えへへ、ばーいばい。




序 終わり

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ガーディナー 空雪 @yukikasuisyou

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