第三章~正しい魔王のしつけ方~
レオンハルト様が好きだ。
その想いだけを糧に、ランは強く育ってきたつもりだった。
強くなって城の兵士としてたくさん活躍すれば、レオンハルト様に振り向いてもらえる。
誠実に勤めレオンハルト様に奉仕し続ければ、きっとこの想いは報われる。
その強い想いを胸に、ランは今まで勇者として、キンダムの城兵として、生きてきたつもりだ。
強くなるために切り捨てた人付き合いもたくさんあった。
恋慕する主のためなら、憎まれ役に回ることもなんとも思わなくなった。
……だけど。
そんな、大切な自らの主が、他の女に取られそうになっている。
それも、キンダム人がかつて死闘を繰り広げてきた魔人の一族の王、魔王に。
あたしはそもそもレオンハルトなんて人間の男に興味はないからな。
その魔王が、アンリを目の前で笑っている。
お前は勝てない。あたしが全て、奪ってやる。レオンハルトなんていらないけどな。
あのような愛情の欠片も感じられないガサツな女に、レオンハルト様を……。
そう考えると、ランはいても立ってもいられなくなる。
「やっぱり、あの女は……!」
ばね仕掛けの人形のように、ランは重い身体を持ち上げ、起き上がる。
そう、傍らにあるはずの魔剣・「万物の根源」を強く抱きしめて、
「ちょ、ちょっと、ラン? タンマタンマ、痛い痛い!」
予想外に柔らかな「魔剣」の感触と、聞き馴染んだ少女の声に、慌てて目を開いた。
◇◇◇
目覚めたら、ランは柔らかな温もりに包まれていた。
「えっと……ラン、おはよう……?」
キンダム城の北寄りに位置する、城で勤める人間たちの寮。
その一室のダブルベッドの上で、二人の少女が寝間着姿で絡み合っていた。
「アタシは抱き枕じゃないんだけどなぁ……」
絡み合っている、と言ってもその内一人は苦笑を浮かべて、相方を眺めているだけだ。
その視線の先で、ささやかな胸の谷間近くまで寝間着をはだけた状態で、ランはパチ、パチと瞬きした。
おかしい。
魔剣を掴んだはずの両手が抱いているのは、水色の寝間着に包まれた、相部屋の親友アミの柔らかな太ももだったからだ。
「とりあえず、一回離れてくれるかな?」
「……! ご、ごめんなさい、私、寝ぼけて」
ようやく目の焦点があってきたラン。夢と現実の狭間から弾かれたように思考が巡り始める。弾かれたようにアミから離れようとするが、今度は毛布が身体にからまって上手く動けない。「きゃっ!」と声を上げてバランスを崩した彼女は、再び柔らかな温もりにダイブしていた。
「アタシはクッションでもないんだけどなぁ……」
再び瞬きするラン。
顔をうずめたその先の柔らかな双丘は、他でもないアミの乳房であった。
ランにはない膨らみ。普段は意識しない、友人の「女らしさ」。
その柔らかさに一瞬心地よさと嫉妬を感じた後、ランは今度こそ慌ててアミから離れた。「ご、ごめんなさい、私、おっぱい小さくて……!」
「あー、別に大丈夫だからいいよ。ラン、一回顔洗っておいで」
まだ寝ぼけているのかパニックを起こしたのか、的外れな言い訳を始めた友人にアミは苦笑を浮かべた。寝起きが悪いのは、いつものことだ。
「昨日の晩からとても激しかったね」
顔を洗って戻ってきたランに、アミが微笑みかける。「昨日帰ってきてからずっと、辛そうだよ。……魔王とまた何かあったの?」
「そうよ。私は魔王に……」
そこで、ランはさめざめと泣き始めた。
魔王城の浴室での一件、そしてそのまま魔王と交戦してしまったこと。一連の出来事を思い出すだけで、恥ずかしいやら悔しいやらで、涙が止まらなかった。
一方、突然泣き始めた友人に、アミは困惑した表情を浮かべる。元来精神的に不安定なこの友人だが、ここまで荒れることはそうそうない。
「ねえ、ラン。話したくなかったらいいけど、アタシでよければ相談乗るよ? 昨日、魔王と何があったの?」
アミの問いかけに、ランは小さく頷いた。「また私、レオンハルト様の命に背いて、魔王と戦っちゃったの……」
カーテンの隙間から差し込んでくる頼りない朝陽。
それに照らされたランの胸元が、心なしかいつも以上に小さく見える。アミは枕元に置いた眼鏡に手を伸ばし、ため息を吐いた。「魔王と戦闘してもランが傷つくだけなのに」
「分かってる、分かってるわよ……」
俯いたまま、ランは答える。「だけど、抑えられなかったの……」
「いくらゼロの力があっても、魔王にタイマンでは勝てない。それはランだってもう分かってるでしょ?」
魔剣の加護のおかげで、ランの肉体は「不死」とは言えないものの、常人の肉体と比べてかなり強靭になっている。
だがそれはあくまで「頑丈」なだけで、受けた痛みや苦しみまでもが消えるわけではないのだ。
つまり、ランは魔王と戦えば戦うほど、常人以上の痛みや苦しみを味わうことになる。
このままランが魔王との戦闘を一人で続ければ、彼女は度重なる痛みや苦しみに、生きる意志そのものを失ってしまうのではないだろうか。そんな心配を口にするアミに、ランは疲れたような笑みを浮かべて言った。「痛いのはもう、慣れたもの……」
「そ、そう……」
ランの悪い癖がまた始まったと、アミは眼鏡のブリッジを抑え、ため息を吐いた。
アミはランの事を本気で心配しているが、同時にこの友人が扱い辛い少女であることも知っている。
レオンハルトへの報われぬ想いが歪んでしまったのか、勇者としての重圧が彼女を押し潰してしまったのか、はたまた生まれつきの気質なのか。
原因ははっきりしないが、ランはこうしてすぐに「悲劇のヒロインごっこ」を始めてしまう。そして、こうなるとアミは何を言っても自分の言葉がランに響かないことも、長年の経験則から学んでいた。
「……と、とりあえず今日の服を持ってくるから。話は今晩、いくらでも聞くからさ。だから、まずは落ち着いて、ね……?」
「……ごめんね、アミ」
不安げにランがアミを見上げる。「アミも……もう、私に愛想つかせない?」
「大丈夫だって」
面倒くさい女の子だなぁ、という本音を押し隠して、アミは柔らかく笑った。
◇◇◇
「それでぇ、私は言ってやったのよ! あなたにはヒトヅマっぽさが足りないってね!」
「うんうん、良い女はヒトヅマっぽくあれと言われてるもんねー」
キンダム城下の繁華街の一角に位置する大衆居酒屋「ロイヤルチキン」。
いつもの一席に案内されて一時間も経たない内に、ランは酔いつぶれてしまった。
口にしたのは麦酒風飲料の大ジョッキ半分のみ。今宵もまた、いささか酔いが早い様子であったが、ランがこうして酒を飲みに行こうとするのはいつも精神的に参っている時だけだ。
「料理もできない洗濯もできない掃除もできない! そんな女がレオンハルト様に相応しいと思うかしら!?」
「うんうん、それは由々しき事態だねー」
「そうでしょう!? あいつはただの泥棒猫よ! 私のレオンハルト様を渡すわけにはいかないわ!」
「うんうん、そうだねー」
最初は親身になって話を聞いていたアミも、さすがに話がループして三周目に入った辺りから反応が雑になってきた。それでも、ランは友人の反応を気にすることなく、「いかにアンリがレオンハルトの妻として不適格か」を力説し続けた。
「大体何なの! イモニクの一つも満足に作れない女が嫁入りだなんて! レオンハルト様が相手でなくてもおこがましいわ! あんなおこちゃまがレオンハルト様に嫁ぐなら、私は女神になっていないとおかしいと思わない?」
「あー、うん、そうかもねー」
「け、けれど勘違いしないでちょうだい……。私は女神になってもレオンハルト様以外の男には興味ないのよ!」
「うんそうだねー。ランは一途だもんねー」
ヒステリックにすら聞こえるランの叫びは、虚しく酒場の喧騒に吸い込まれていく。完全に私怨と化したランの「ヒトヅマ論」を、アミは延々と聞かされ続けた。
「それでさー、ラン」
このまま話を続けられたのではかなわない。
そう思ったアミは、ランが麦酒風飲料を口にした瞬間を狙って口を挟んだ。
「魔王を立派なヒトヅマに仕立てるって啖呵を切ったランがどうして、昨日帰ってからレオンハルト様に報告もせず荒れてたのさ? 魔王と戦って逃げてくるのなんて、日常茶飯事だったでしょ?」
「そ、それが……」
酔いのおかげでほんのり紅潮していたランの顔がさらに真っ赤になった。顔中の筋肉が痙攣を起こすのではないかと心配になるくらい、引きつっている。
もしやこの友人は魔王の居城で、今までになかったような壮絶かつ凄惨な戦いを経験してきたのではないだろうか。
アミが唐突に心配し始めた頃になって、ランはぼそりと口を開いた。
「……穢されちゃったの」
「……え?」
「私、犯されちゃったの、魔王と、その部下の女に。二人して股間を私の身体に押し付けて、ピュピュって……」
「ちょ、ちょっと待って、ラン。魔王に犯されちゃったって、その、魔王は女の子なんでしょ?」
「う、うん……。けど、魔王と部下の魔人の股間から、生暖かくてドロドロした液体が私の顔に、ピュピュって……」
「そ、そんなすごいこと、されちゃったんだ……」
ランの答えがさすがに予想外だったらしく、アミは言葉を失っていた。顔が真っ赤なのは、酔いのせいだけではない。
「私、もうお嫁に行けなくなっちゃったわ。レオンハルト様は、こんな穢れた身体、抱いてくれないもの……」
「だ、だけど魔王がその話をレオンハルト様にしない限り、まだ分からないよ」
「そ、それもそうね……! あ、あぁ、けれどレオンハルト様に抱かれる時が来たら私、この穢れた身体を隠し通せるかしら……」
元気は出たものの、今度は偉く遠い将来の心配を始める。 全く忙しい女である。
アミもそう感じなくはなかったが、さすがに今回はランに対する同情が強くなっていた。
「そのためにも、今はレオンハルト様のポイントを稼がなきゃいけないわ! まずは魔王を完璧なヒトヅマにして、間接的に私のヒトヅマ力をレオンハルト様に伝えるの! どうかしら、この作戦!」
「……ランはとても健気だね」
アミにはこの時、ランが自らの身体を穢されてなお、レオンハルトへの忠義を忘れない健気な少女に映っていた。アミもまた、酒場の香りと喧騒に、酔い始めた様子である。
「……こんなに、健気な女の子なのにな、本当は」
再び一人で盛り上がり始めた友人に聞こえないように、アミは目線を少し離れた酒場の中央テーブルへと転じた。
「――ウチのメンヘラ兵士長さー、いつまでも男できないくせにさー」
「あはは、ウケるー。けど実際、『勇者様』って妙にお高くとまってる所あるからさ、いつまでも処女だと思うのよねー」
「そうそう、夢見がちなくせにウチら兵士には厳しくてさ。そりゃ男も寄ってこないってのー」
「こないだの海の魔族が海岸に迷い込んだ時もさぁ……」
喧騒の一角で奏でられる同僚たちの陰口に、酔ったランは気付かないのか、それとも気付かない「フリ」をしているのか。それはアミには分からない。
だけど、このような声がランの周囲で常日頃囁かれていることを、アミは知っている。
そして、それはラン自身も同様のはずだった。
それでも……ランは構わないのだ。
それくらいに、ランがレオンハルトに対して夢中だということに気付いてから、この報われない想いを抱くランのことが放っておけない。
自分もつくづく損な性格だ。
酒場の喧騒と酔いに包まれながら、アミはそんなことを考えていた。
◇◇◇
「さぁ、魔王! 今日こそあなたにヒトヅマの何たるかを叩きこんであげる!」
勢いよく大きな扉が推し開かれる。
自信満々に魔王城の玉座の間に踏み込んできたランに、アンリが鬱陶しそうな顔をした。「今あたしは忙しいんだ。後にしてくれって」
「……うわっ、何よこの部屋……」
開き放った扉が背後で大きな音を立てて揺れ、風圧によって鋼の装具(アイアン・ドレス)の裾がめくれ上がる。だけど、ランはそれを気にした様子もなく、玉座の間の惨状に目を奪われていた。
まず目を引くのは床いっぱいに散らばったゴミの数々。
お湯をかけて食べるタイプの即席めん、穀物を薄くスライスして揚げた菓子類は数十年前、大陸人の文化に興味を持ったとある高級魔族が魔族の文化に持ち帰ったらしく、今では広く流通していると聞いていた。
だが、それらの容器や袋が部屋中に広がっている光景ははっきり言って異様だった。当然、食べてそのまま放置されたであろうそれらからは漏れなく油っぽい臭いが漂っており、玉座の間はよどんだ空気に満たされている。
加えて、魔王の玉座を中心に散乱する書籍の類もひどい。
まるで泥棒が書庫を荒らして回ったかのように無造作に開いたまま床に放置されている書籍は、その全てが「劇画」と呼ばれるキンダムを中心にこの十年ほどで発展した、絵を中心に展開する物語である。こちらは魔族の文化では発展していないはずだったが、ランはそんな些細な疑問を抱くこともなく、顔をしかめる事しかできなかった。
「おや、勇者様。いらっしゃいませ」
少ない足場を飛び移るようにして、玉座近くで佇んでいたアシュリーが入り口付近までやってくる。「生憎、部屋が散らかっておりまして……。お話ならば私が承ります」
「色々問い詰めたいことはあるのだけれど……。どうして数日来なかっただけでこの部屋はこんなことになっているのかしら?」
「実は掃除料理の類を担当していた私の配下が、巻き爪の手術で数日お休みを頂いておりまして」
「あー、巻き爪は痛いわね。爪を大分はがさないといけないからしばらく安静にすべき……ってそんなことどうでもいいの!」
案の定あっさりと話を流されかけたランだが、ここは何とか踏みとどまる。「ならばあなたがどうにかするべきじゃないの! 魔王がアレなのは分かってるでしょう?」
「実は私、掃除も料理も大の苦手でございます」
「……あなた、それでよく給仕なんてやっているわね」
「この格好は私の趣味でございます故、職務内容とは関係ございません」
悪びれた様子もなく淡々と言い放つアシュリーに、ランは頭を抱える。主従そろってグータラ女だとは思っていなかった。
「おーい、アシュリーでも勇者でもいい。そこに『よつやさいだー』があるだろ。こっちへ投げてくれよー」
「はい、ただいま。……魔王様、キャップがございませんが」
「なんだと? じゃぁしょうがない。……そこのペットボトルのキャップを付け替えてこっち投げてくれ」
「しかし魔王様。こちらのペットボトルはお小水の瓶でございます故、さすがに飲料の蓋にするには少々不衛生――」
「ああもう分かったわよ!」
あまりにもだらしのない主従の会話に、ランが堪え切れなくなった。「私がそのペットボトルを魔王のところまで持っていく! そうすれば問題ないでしょう!?」
「何もそんな面倒なことをしなくても良いかと存じますが……」
「勇者は几帳面だなぁ」
まるで他人事のように主従はランの行動に呆れているが、呆れたいのはランも同様である。特に、いくら魔人とはいえ、嫁入り直前の娘がペットボトルの容器に部屋で排尿するなど、もってのほかだ。
「劇画を踏まないように気を付けろよー」
気だるげに勝手なことをのたまう魔王に舌打ちしつつ、ランは「よつやさいだー」のペットボトルをつかんだ。本とゴミで埋め尽くされた床の中、少ない足場を飛び移るようにして、玉座へと近づいていく。
……どうして、恋敵であり宿敵でもある魔王のために、こんな事をしているのだろう。
ふと、そんなことを考えたのがいけなかった。
「ひゃっ……!?」
ヌルリとした菓子の空袋を踏んづけたランの身体が傾く。
なんとかもう片方の足で踏ん張ろうとするが、伸ばしたつま先にあったのもまた、菓子の空袋。為すすべもなくその場でひっくり返ったランの身体に、容赦なくペットボトルの「よつやさいだー」が降り注いだ。
「あっ、バカ勇者!」
玉座でふんぞり返っていたアンリが慌てた様子で立ち上がる。
床に散乱した劇画たちは、ランがこぼした四ツ谷サイダーによってビショビショになってしまう。
「あ……」
部屋を散らかしたアシュリーや魔王の怠慢を開き直って責めるには、ランは律儀過ぎた。
こんな簡単なことも自分は果たせないのか。
冷たい炭酸水を全身から滴らせながら、ランはみじめな気持ちに押し潰され、罪悪感すら抱き始める。
「えっと……」
いくらグータラな魔王が悪いとはいえ、他人の大切な所有物をダメにしてしまったのだ。こんなことならいらない手出しはしなければ良かった。ネガティブな想いに囚われ始めたランに真っ直ぐ駆け寄ってきたアンリが、尻餅をついたまま呆然とするランを見下ろした。
「……大丈夫か、勇者」
「え……?」
ゆっくりと、アンリがその小さな手を伸ばしてきた。
「派手に転んだからな。立てるか?」
「ど、どうして……?」
宿敵を見下ろすつぶらな瞳からは、敵意の欠片も感じない。
ランがゆっくりと手を伸ばすと、その手を握り、アンリはニッと笑った。
「良かった。……アシュリー、タオルを持ってきてやってくれ」
「はい、魔王様」
部屋から去っていくアシュリーを振り返り、ランはもう一度魔王を見上げる。アンリはもう一度人懐っこい笑みを浮かべ、散らばった劇画を踏んづけたまま踏ん張った。「さぁ、引っ張るぞ」
アンリに引っ張りあげられるようにして、ランは立ち上がる。すると、アンリは周囲の床に散らばったビショビショの劇画を見て、わざとらしくため息を吐いた。
「あーぁ、こりゃもう読めないなぁ」
「その、悪かったわ、私のせいで……」
再び罪悪感を抱くランが、謝りかけて口をつぐむ。
申し訳なさと情けなさ。
宿敵であり恋敵でもある魔王の教育係を想い人に命じられた挙句、それすらもしっかりとこなせない自分が腹立たしかった。
「でも、勇者が無事でよかったぞ」
だからこそ。
予想すらしなかった魔王の言葉に、ランは言葉を失う。
「だって、あたしと戦う前に怪我なんてされたら面白くないからな! はははっ」
玉座の間には魔王の笑い声が響き渡る。
その声は、どこまでも無邪気で、楽しそうな笑い声だった。
◇◇◇
「ありがとうな、勇者」
玉座の間の掃除は困難を極めた。
何せ、アンリもアシュリーもロクに手伝ってくれない上、キンダム城の玉座の間より広い面積だ。部屋の一つや二つを掃除する労力とは比べものにならない。
「しかしこうしてみるとやはり、片付いた玉座の間というのは気持ちいいものでございます」
それでも、ランは何とか一人で魔王城の玉座を片付けることができた。
思い返してみると、よく自分でもあの汚かった玉座の間を一人でここまで綺麗にできたものだと思う。
だけどそれ以上に、ランは今の自分が驚くほどに達成感を覚えていることに驚いていた。
……どうして、宿敵の居城の掃除などをして、自分は喜んでいるのだろう?
その理由は、ラン自身、分からなかった。
「何はともあれこれで大体は片付いたわ。もうあんな散らかしちゃだめよ」
「おう、考えといてやるよ」
アンリの返事にわずかに不安を覚えるランだが、さすがに今は何も言う気になれなかった。実はまだ玉座の脇に積み立てられた劇画が気になってはいるのだが、それは魔王が片付けてくれるだろう。……片付けてくれると信じたい。
「じゃ、部屋も片付いたし帰ってくれていいぞ、勇者」
「私、表までお見送りいたします」
「あら、それはていねいにありがとう」
他人に流されやすいランがここでもその習性を遺憾なく発揮しかけたが、さすがに玉座の間の扉に手をかけたところで振り返った。「って違うわよ! 私はあなたの家政婦じゃないわよ!」
「勇者様、家政婦ではなく通い妻という可能性もあるかと」
「ないわよ! というか誰の妻になるってのよ! 私はレオンハルト様以外の男と結ばれるつもりはないわ! も、もちろん男じゃなければいいって意味じゃないわよ?」
まくし立てたかと思うと、ランは途端に赤面した後もじもじする。
「あ、あと、そ、その、あなた、レオンハルト様と結婚するからって、私がこんなこと言ってるなんて伝えなくていいんだからね! 私はレオンハルト様の重荷にはなりたくないの……」
「んぁ……? もしかして……勇者はあのレオンハルトって男と結婚したいのか?」
あまりにも今さらな指摘に、アシュリーがため息を吐く。「勇者様。魔王様はおこちゃまです故、お許しください」
だが、ランはランでしまった、とばかりに身体をわなわなと震わせていた。「あ、あなた、絶対このこと、レオンハルト様に伝えないでちょうだい!」
「むしろ勇者様がその想いを、今まで隠せていると思っていたことに驚きを禁じ得ません」
まったくもってアシュリーの言う通りであったが、そう思ったのはこの場でアシュリー一人である。彼女の呟きは広い玉座の間に虚しく響き、やがて沈黙に呑み込まれた。
「……そっか、勇者はあの男のことが『好き』だったのか」
やがて、沈黙を破ったのはアンリの呟きだった。
彼女は、一人で頷き、言葉を続ける。
「あたし、聞いたことあるぞ。魔人(あたしたち)は子孫を残すのに適した個体同士で結婚するけど、キンダム人(おまえたち)は『好き』な人と結婚するってな! だからお前は、レオンハルトという男のことが『好き』なんだな、勇者!」
「なっ! あ、あなた、自分がレオンハルト様と結婚できるからって勝手なことを……!」
「落ち着いてください、勇者様」
思わず魔剣に手をかける勇者を慌ててアシュリーが全身で止める。
殺気を放つ宿敵に怯むことなく、アンリは言った。
「ならば、あたしはレオンハルトとの結婚はやめよう。あたしは別にあの男のこと、好きでもなんでもないしな」
「え……?」
思ってもいなかった提案に、ゾクリとランの背筋が震えた。
レオンハルトとアンリの婚約が解消される。
それはキンダム人と魔人の間にとって好ましいことではないが……ランにとっては願ってもいない展開ではないだろうか。
でも……。
「ダメよ、そんなの。レオンハルト様が悲しむわ……」
気付けばそう口にしていた。
確かにランは、レオンハルトが、勇者である自分ではなくその宿敵である魔王のアンリと結婚することが嫌だった。
「私、レオンハルト様を裏切れない」
でも、同時に。
彼女はレオンハルトに「キンダム人と魔人の橋渡し」という重要な役割を任せてもらって、嬉しかったのだ。
「……はぁ。面倒な性格ですね、勇者様も」
「け、けど勇者! キンダム人の『好き』はとっても強い気持ちなんだろ?」
魔人の主従はランの答えに満足しない。
特に当事者でもあるアンリは、まるで今すぐレオンハルトの花嫁の座から辞退しようという勢いだ。「あたし、お前の『好き』って気持ちを無視してまでレオンハルトと結婚なんてする気……」
「困りますな、魔王様、それに勇者殿」
唐突に、重い声がランの背後から割って入り、ランは思わず振り返った。
ランの背丈の二倍近い長躯は全身黒い鎧に覆われ、泥を塗りつけたかのような焦げ茶色の体毛に覆われた顔からは鋭い眼光がのぞいている。その長身をして、でっぷりとした印象を与える威圧感のある体躯に、ランは全身を緊張させた。
「これはこれは、ドルジではございませんか。思いのほか早かったですね」
一番に反応を示したのは、ランに密着していたアシュリーだった。
彼女はするりとランから離れると、玉座の間の入り口で佇む巨体に向き合う。「巻き爪の手術はいかがでしたか? なんでもキンダムの地下に隠れ住んでいる偏屈な魔族の医者だというお話でしたが」
「ほっほっほ。問題ありません、アシュリー様。魔王様によろしくとの事でしたよ。……ところでアシュリー様。先ほどのお話ですが、本気ではありますまいな? アシュリー様がおられて、このような話が出てくるとは……」
「魔王様はまだレオンハルト様とご面識がないのだから、無理もありません」
体型だけ見たら圧倒的なアシュリーとドルジだが、アシュリーは毅然としたままドルジを睨み上げる。アシュリーを見下ろす巨漢の表情は深い体毛のため、ランからはうかがい知れなかったが、やがて彼はランに目線を転じると、恭しく頭を下げた。
「ほっほっほ。初めまして、人間の勇者殿。私はドルジ・バーンハート。この城に勤める者でございます」
「え、えぇ、よろしく、勇者のラン・ヘーメライよ」
ドルジに巨大な毛深い手を差し出され、反射的にランは自分の手よりも何倍も大きいドルジの手を握る。ドルジの手は体毛の割に冷たく、ゴワゴワとした感触だった。
「ドルジはこう見えてな、掃除も料理も完璧なんだぞ!」
「魔人は見た目によらぬといいますからね」
我が事のように胸を張るアンリと、どこかつまらなさそうに同意するアシュリー。ドルジはゆっくりと一同を見渡した後、もう一度ランに視線を向けた。
「……何にせよ、魔王様とレオンハルト殿の縁談は、我々魔人とキンダム人の歴史にとって、大きな意味を持ちます。勇者殿も、ゆめゆめ、そのことをお忘れなきよう……」
「……わ、分かっているわ」
アンリがレオンハルトと結ばれる意味。
そのことはランも痛いほど分かっている。
アミが言ったようにアンリが積極的に、キンダムの人間に興味を示してくれればどうなるか分からないが……。
もし、アンリの興味を惹く男が現れなければ、その時はレオンハルトとアンリの仲を取り持つことが、彼女の慕うレオンハルトのためになるのだ。
だから、レオンハルトの「代わり」になる男がアンリと結ばれない限り、ランはアンリをレオンハルトの花嫁として育て上げる。彼女の決意自体は揺るいでいない。そして、レオンハルトの「代わり」が見つかろうが見つかるまいが、アンリに花嫁修業が必要なのは明白であった。
「あたしは別に結婚したくないんだけどなぁ……」
だが、アンリはランの悲壮な覚悟を知らなかった。
「ランだって、あたしがレオンハルトと結婚したら嫌なんだろ?」
「魔王様」
アンリの問いかけに言葉を返そうとするランだったが、ドルジもそれに耳聡く反応する。
アンリはムッとした様子で言葉を探していたが、彼女が口を開くより早く、ドルジは踵を返した。
「お食事の支度をいたします。勇者殿も、よろしければお召し上がり下さい」
まるでこれ以上会話をする気はないとばかりに、ドルジの巨体がのしのしと赤いカーペットに彩られた廊下を去っていく。
その威圧感溢れる背中を眺めながら、ランは考えた。
レオンハルトとアンリが結婚しなければ、私は幸せを感じられるのだろうか。
明白なはずのその答えが、どうしてか出てこなかった。
◇◇◇
アシュリーに流されるようにやってきたまでは良かったが。
魔人の主従とキンダムの勇者。
三人で囲む円卓での食事は次第に気まずさが充満し始めていた。
「魔王、ナイフを使いなさいよ」
アンリにレオンハルトへの想いを知られてしまった。
その焦りからか、今日のランはアンリの稚拙なテーブルマナーに対して、過敏になっていた。「大体何よその姿勢。もっと見栄えよく食事をしなさいよ」
ガチャリ、と派手な金属音がテーブルを打つ。「さっきからいちいちうるさいぞ、勇者。料理の味が分からないじゃないか!」
台所と一続きになった居間に置かれた大きな円卓。
叫んだ勢いのままに、その一角に腰かけたアンリが持ち直したフォークで突き刺したバファローの肉塊にかぶりつく。よく焼かれたその赤身から、大量の肉汁と葡萄酒が零れ落ちアンリの青いドレスを汚したが、これももう何度目か分からない。
「あなたもあなたよ、アシュリー。どうしてきちんと指導してあげなかったの」
ランの怒りの矛先は、我関せずとばかりに粛々とナイフとフォークを動かすアシュリーにも向けられる。
主の破天荒とも言える食事態度とは対照的に、アシュリーは背筋をピンと伸ばし、皿以外を全く汚すことなく上品に口を動かしているのだが、その主従の落差がまた、ランの怒りを刺激していた。
「……それは、魔王様が私の主であるからでございます」
「どういうこと?」
ゆっくりと咀嚼を終えたアシュリーが、わずかに首をランの方へと傾ける。
食事の直前に流されるがままに彼女たちと入浴を終えたランとは対照的に、青白い肌色のアシュリー。その怜悧な表情からをランは見返すのだが、彼女が何を考えているのかは全く読み取れなかった。
何か、特別な過去があるのではないか?
意味深な沈黙を挟む魔人の侍女に、ランはそんな考えを抱き始める。怒りと羞恥に任せて踏み込み過ぎた。そんな後悔すらし始めた頃合いになって、アシュリーはコホン、と咳払いをした。
「まぁ、ぶっちゃけると魔王様が几帳面になっちゃうと、私たちもしんどいってだけなんですけどね」
「私の後悔を返しなさい!」
さすがにぶっちゃけすぎであったらしく、ランも今度はしっかり突っ込んでくる。ちなみに当の「魔王様」は二人の会話に興味すら示さず、ただひたすらに目の前に並んだ料理を貪り食っていた。
「それに、魔王様がグータラでないと私たちも困るのです」
皿を下げに来たドルジを指差しつつ、アシュリーは言う。
「たとえば、この料理はドルジが全て一人で作ったものですが、魔王様が料理をお一人でこなしてしまえば、彼の仕事は無くなってしまい、城に住む理由がなくなってしまいます。魔王様がこのような魔王様であるからこそ、私たち家臣の魔人はこの城に置いていただけるのでございます」
「そ、そう……ならしょうがない……ってしょうがなくないわよ! なんかいい話風にまとめようとしないでちょうだい。大体それだったらあなたは何しているのよ!」
徐々に勢いだけでは誤魔化されなくなってきたランだが、それでもアシュリーはしれっと答える。「魔王様の教育係でございます」
「教育できてないじゃないの! あなたがこんなだから魔王もグータラになってしまったんでしょう?」
「ちっ、まだ誤魔化せるかと思いましたが。さすがにそこまでチョロくはありませんでしたか」
「あっ、今舌打ちした! 聞こえているわよ!」
「……おい、勇者。うるさいぞ。食事の時くらい静かに食わせてくれ。せっかく美味しい料理をドルジが作ってくれてるのに、料理に集中できないだろ」
「まったくです。これだからキンダム人の食事マナーは……」
「どうして私が悪いみたいになってるのよぉっ!?」
いつの間にか声を上ずらせたランが思わずフォークをぶん投げようとしたが、さすがに思いとどまる。アンリの食事マナーでは、レオンハルトどころか一般的なキンダム人の男ですら魅了するのは難しい。だが、そんな彼女たちと、自分までもが同列になってしまっては本末転倒だ。自分はあくまで、アンリの見本とならねばならないのだ。
「これも試練よ……」
ランはぶつぶつと自分に言い聞かせた。
いつもならとっくに手元にあるナイフとフォークで魔王に躍りかかっている所だが、そこはランの成長した所だった。
「……少し私を見てなさい」
引きつった笑みを浮かべつつ、ランが手本を示すようにナイフとフォークを動かす。剣の道に生きてきたとはいえ、ランも王宮の兵士長で、幼い頃からキンダム城で過ごしてきた娘だ。先ほどから指摘を繰り返すだけあって、テーブルマナーの基本くらいは自信があった。
「まず、ナイフはこうして利き手、フォークは逆の手に持つ。あ、先に言っとくけどナイフは握っちゃダメよ。こうして人差し指を刃の根本に置いて……あ、こら、食事の最中にナイフとフォークを重ねちゃダメじゃない!」
「うるさいなぁ……」
アンリは早速うんざりした顔を見せる。
だけど、ランとてアンリがすぐに言うことを聞くほど「お行儀の良い娘」でないことは織り込み済みだ。相変わらず引きつった笑みを浮かべつつ、内心で苛立ちを噛み殺していた。
我慢、我慢だ。
……これは自身の試練でもあるのだ。
アンリが花嫁修業の結果、レオンハルト以外のキンダム人と結ばれたとする。
そうすれば、キンダム人とアンリを王とした魔人たちの関係は親展し、レオンハルトの縁談は意味を持たなくなる。
だけど、ランにとって彼らの婚約解消はただの「チャンス」でしかない。
肝心の自分がレオンハルトの花嫁として選ばれるだけの女でなければ、レオンハルトの婚約が破棄された所で、彼の妻となることはできないのだ。だから、「魔王の花嫁修業」という実績をここで稼いでおかなくてはならない。
レオンハルトに選ばれたい。
彼の「特別」になりたい。
今さらのように、ランは自らの想いを燃え上がらせる。魔人もキンダム人もどうなったっていい。ただ、自分さえレオンハルトに選ばれれば。彼に激しく求められる「特別」になれさえすれば……
「おーい、勇者」
自らを呼ぶ、わずかに心配そうな声。
我に返ると、フォークを肉に刺したままランを覗き込んでくるアンリと目が合った。
「どうしたんだ、勇者。お前さっきから、なんか変だぞ」
フォークを口に運ぶこともなく、アンリが眉をひそめる。
そんな宿敵の目線から逃れるように、ランは目線を落とした。
アンリの皿の上に、フォークの先から零れ落ちた肉汁と葡萄酒が渦巻くようにたまっていく。レオンハルトに対する欲望を抑えきれない自らを見透かされているような気がして、ランは罪悪感に押し潰されそうになった。
「大丈夫よ……」
今、為すべきことはレオンハルトの意図を汲み取り、彼の意に沿う結果を残す事。
つまり、キンダム人と魔人の橋渡し役として、アンリを育て上げる事なのだ。
「魔王。姿勢が悪いわよ。肘を付かずに食事なさい」
「えぇ……」
だから、毅然としてランはアンリの「教育役」に徹する。
フォークとナイフを入れた肉片からはもう、肉汁も葡萄酒も零れ落ちなかった。
◇◇◇
魔剣の力で海を渡り、ランはキンダム近くの海岸へと到着する。
「今日は魔王と戦わずに終われたみたいだね、ラン」
海岸の砂浜に降り立ったところで、安堵を含んだ声が聞こえてきた。「良かった、ここで待ってて」
「アミ?」
ランが声のした方へ振り向くと、眼鏡の中で目を細める友人の姿があった。夕陽を反射する波間がキラキラと眩しかったが、頬を緩めたアミが目を細めている理由はそれだけじゃないのだろう。
「もしかして、待っててくれたの……?」
「うん。とはいっても、アタシも仕事だったから、ついさっきここに来たところなんだけどね」
言葉通り、彼女も城の祭殿での務めを終えた後なのだろう。
アミはハーフパンツにシャツという、寮でくつろぐ時のラフな服装に着替えていた。
「ありがとうアミ。嬉しいわ」
だけど、こうした貴重な友人の気遣いに触れるだけで、魔王城で味わった疲れや憂鬱も吹っ飛ぶ気がする。
そんなランの気持ちを見透かしたように、アミは微笑んだ。
「じゃじゃ馬娘の花嫁修業に苦労してるようね」
「そうなのよ……!」
ゆっくりと歩きだしながら、ランは今日の出来事を語り始めた。
行く先はいつもの大衆酒場「ロイヤルチキン」だろう。
言葉にするまでもなく、彼女たちの足は自然と同じ方向へ向いていた。
「……そうしたらさ、あいつ。ナイフも使えないのよ! まったく、あんなのがレオンハルト様に嫁ぐだなんて……」
「ふふっ」
次第にキンダム城下町特有の騒がしさがランたちを出迎え始める。
そんな街角を歩きながら、不意にアミは小さく笑った。
「どうしたの、アミ? もしかして私、なんか変なこと言っちゃったかしら……?」
途端にランは不安な気持ちに襲われた。
思えば、アミとてランと同じレオンハルトに忠誠を尽くす者なのだ。
そのレオンハルトの花嫁候補であるアンリを、悪く言い過ぎたかもしれない。
「大丈夫よ、ラン」
だけど、ランの不安を吹き飛ばすように、アミはいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「ただ、ランってば案外、楽しんでそうだなって」
「何のことかしら?」
「アンリちゃんの修行。なんだか、アンリちゃんのこと話してるラン、楽しそうなんだもん。アタシが妬いちゃうくらい」
「……え?」
思ってもみなかった友人の指摘に、ランはやがて頭をぶんぶん振った。「そ、そんなわけないじゃない! 今日だってご飯食べる時、魔王ったらナイフとフォークの扱いがなってなくて……って、ちょっと待ちなさい、アミ!」
「ふふっ、今日は飲むぞぉっと!……あ、二人です、テーブル席でお願いね」
意味深な笑みを浮かべたアミは、いつもの酒場、「ロイヤルチキン」へと入っていく。チキンンのローストを様々なタレで味付けした料理が売りの、大衆酒場だ。アミは「やっぱ仕事帰りの串焼きチキンと麦酒は格別なんだよね」と軽い足取りで狭い通路を踊るように進んでいく。
「別に、そんなんじゃないんだから……」
そんな友人に抗議の声をあげながらも、ランは続いて入店するしかない。
「……ま、今を楽しんでるランにとって、朗報となるかどうか分からないけどさ」
これまたいつもの隅っこのテーブル。
席に着くなり身を乗り出したアミが眼鏡を押し上げた。
「魔王様のために、合コンをしようか」
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