第21話 霊薬

「グッ!!し、しまった…当たったか…」


 不味い、上腕をやられた…狙撃手が何処かに隠れていたのか…


「ドウル君!!」

「伊和佐さん!!」


 膝を付いた俺にモモメさんと犬養さんが駆け寄って来ている。

 このままだと二人が危ない!


「だ、大丈夫です!腕を擦っただけです!それより二人とも身をしゃがめて下さい。又、撃ってくるかも…」


「お前だけがターゲットだよ!わざとお前の腕を狙って撃ったんだ!間抜け!まんまと引っかかりやがって…射撃下手のミョーミョーの代わりに、お前が照準を定めてヤミオコシを撃つつもりだったんだろ!これで無理だな!ヘッ、元々そんな素人考えが、うまく行くとも思え無いがな…」


 ああ、そうだよ。俺はミョーミョーにライフルの形に変形してもらい、俺が狙いを定めてヤミオコシに光線を放つつもりだったのさ。

 けど…家塚、お前は最後まで俺の思考シナリオを読んでいない…

 腕を撃ったのはその証拠だ。

 まだチャンスは有る。


 しかし…擦っただけとはいえ、きついな…

 ミョーミョー持てるかな…

 クソッ…地面に腕から血が滴り落ちている。

 止血しないと…

 いや…待てよ…


「大丈夫?ドウル君…」


「おい!サクラナ姫!手を貸すなよ!中立なんだろ?なんせ、あんたら一族は世界大戦の時も国に手を貸さなかったらしいからな。まさか、こんな小競り合いで、そんなガキを手助けするような事はしないよな…」


「そうね。でも戦いの為に木を伐採して広場を作るなんて…君が森林破壊をするなら話は変わるわよ」


「どうせ噴火で木は無くなるさ!」


「神が下す審判と一緒にしないで!!」


「分かったよ…怒るなよ…後でちゃんと祓い清めとくからさぁ…」


「家塚君。一つ聞いていい?」


「なんだよ?」


「どうして反旗をひるがえしたの?」


「ふん。伝統か継承か知らないが、何で俺が歳も実力も下の愛鷹や犬養の部下にならないといけないんだ?おかしいだろ?この国のルール」


「当たり前だろー!!オラ達の使命は、いにしえの時代から受け継がれている!オラ達が指揮官になって守らないと…」


「アホらし。原始人が!そら、日本がグローバル化出来ない訳だわ。まぁ勝手に続けてろや、俺は他国に行く。その前に富士を大噴火させて、この国を無茶苦茶にしてやるよ!」


「理由はそれだけ?」


「…霊薬。俺が特殊監視課に入った本当の目的はそれだった。だが、手掛かりは掴めなかったよ。ヤミオコシの言う不老不死は、俺の求める物とは違ったし、不死雛は見つからない。あんた本当は何か知ってんじゃ無いのか?」


「さぁ?私の心を覗いてみたら。フフッ…」


「チッ!まぁいい…諦めて別の国の不老不死薬を探すさ!」


 霊薬…幻の不老不死薬。

 縄文時代末期、日本に弥生文化が広まっていた頃、巨大統一王朝のしんの始皇帝は、東の果てに不老不死の霊薬が有ると聞き、〝徐福〟と言う呪術も使えた仙道学者を捜索に行かせた。

 徐福は海を渡り、日本に霊薬を求めてやって来る。そして、ここ富士山にそれが有る事を突き止めた…と、いう伝説が有る。

 一説によると、しんに戻らなかった徐福の子孫がはた河勝だとも…性が〝秦〟の字なのはその為だとか…


 徐福は霊薬を見つけたのだろうか?

 縄文時代が終わったのも何か因果関係が有るのか?

 そして、カガセオと秦河勝が争った原因の一つなのではないだろか…

 鍵は不死雛か?

 興味は湧くが、今はチャミさん救出が先だ。


「家塚…ヤミオコシやアブラオキメの封印解いたのは、不死雛を誘い出す為か?お前は私欲と腹癒せの為だけに、富士を大噴火させる気だったのか?」


「おう。そうだよ、普通だろ?無能の三流人間ほど『人類の為』、『未来の為』とか阿呆な事をほざく。それで一流人間の仲間に成ったつもりでいやがるんだよな~。あっ!お前の事言ってんだよ間抜け記者!」


「俺はさとり世代だから、自分が三流人間なのは悟っているし、そんな挑発も怒らないよ。お前は超能力も運動神経も一流らしいが、人間としての中身が超三流なので、俺が悟らしてあげるよ」


「ほざくね~。お前と犬養はここでボコボコにして、一生涯入院コースに決めた!」


 さてさて…強がって言ったが…どうする…

 作戦考えてもバレるから厄介だな。

 何も考えずにミョーミョーと茶坊爺に任すのがベストか…


〝ドオォォーン…〟


 ん?遠くで爆発音がした。まさか!もう噴火?…


「あー、アレは噴火じゃねえよ!心配すんな!地雷が爆発したんだよ…愛鷹達が踏んだんじゃないかな?」


「きさま…」


「おい!出て来い!」


 家塚の後ろから、柄マスクをした手下らしき五人組が現れた。

 まだ若い。学生か?

 しかも女の子も二人混じってる。

 おいおい、お前ら心霊ツアーのノリで来ただろ、絶対。


「やれッ!」


 家塚の掛け声と共に前に走り出した五人組は、それぞれVRゴーグルにハンドスピナー、ジュエリーボックス、クラリネット、そしてバーベキューセットなどを取り出して構えた。

 ん?ん?ん?

 あんなのが、アイツらの武器?


「あ~!?それ何何?何メタメタ~?」


 しまった!!そういう事か!!

 気付いた時にはミョーミョーは前に飛び出し、五人が持っていた金属類を受け取って、次々合体していった。


「駄目だ!!ミョーミョー!!知らない人から勝手に金属を貰っちゃいけません!!」


 ミョーミョーは目を輝かせて五人組と仲良く遊びだした。

 俺の命令なんか聞いちゃいねぇ…

 チャミさんの命令すら、まともに聞かないやつだもんな…


「これでミョーミョーは暫く離脱。茶坊爺とハンドメイドを倒してから、後で総掛かりで破壊する」


 なるほど…茶坊爺の弱点も分かってる感じだな。

 迂闊に茶坊爺を突撃させられない。参ったな…


「因みに辺りにはまだ何十人と、隠れている。俺、心も一流に成りたいから教えといてやるよ!隠れている仲間には、俺みたいな能力者もいるし、銃を持ってるのも複数いる」


 しまった!他にも能力者が居たか!

 どんな能力者だ?ハンディーだけじゃ厳しいか…


「ネットで集めたとは言え、心が読める俺が厳選したエリート達だぜ!ハンドメイドだけじゃ無理だよ!お前えらに勝ち目は無い…ん?何だ何だ?……いや、そんな…まさか…」


 家塚は勝ち誇ったように喋っていたが、急に驚きの表情に変わった。

 家塚の視線は俺の後方だったので、振り返えって確認したら、後ろからトコトコとハンディーがこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「遅く成りました。小主人様。言われた通り特殊監視課の皆様を手当てしてから安全な場所に移動させ、その後隠れた闇興会の皆様を全て倒してまいりました」


 早っ!!

 能力者が、どんな能力使いだったのか逆に気になるわっ!


 ハンドメイドは俺の負傷に気付くと、腹から手術用縫い針を出して俺の傷口を縫い、裁縫箱トレイから出した可愛いリボンを包帯代わりに腕に巻いてくれた。麻酔が無いので、ちと痛かったが助かった。


「チッ!ハンドメイドめ…だがお前の攻撃方法は今朝けさ分かった。お前の倒し方も考えて有るさ…おい!あれを…」


 手下の一人が木の陰から何か持って来た。

 アレは…まさか…


「そう!火炎放射器だ!布人形のハンドメイドなら一発で終わりだ。おい!お前はミョーミョーが火炎放射器と合体しないよう見張っておけ!」


 言われて手下の一人はビニールシートでミョーミョーから見えないよう、火炎放射器を隠す係をしていた。

 不味い、どうしよう…と、考える間もなくハンディーはトコトコと家塚に近づいた。


「駄目だ!ハンディー!ソレは炎を吐く機械だ!」


「知っています。小主人様。大丈夫です」


「わざわざ虫みたいに自分から飛び込んで来たか!死ね、ハンドメイド!」


 放射器は大量の炎を吐いた。

 炎はまともにハンディーを包んだが…


「馬鹿な…なぜ燃えない?…」


 ハンディーは炎のシャワーを浴びても何とも無く立っていた。

 えっ?何で?


「私の表面は火鼠かその皮と石綿で出来ているそうです。火は通用しません」


「火鼠の皮?まさか…何処で手に入れた?」


 石綿は分かる。アスベストの事だ。鉱石で出来た繊維なので火に強い。けど〝カソ〟ってなんだ?


「残念ながら何処で手に入れたかは知りません。昔、不死雛が集めた物だとは聞いております。家塚様。それより羅婆々の仇を取らせていただきますので、覚悟はよろしいですか?」


 ハンディーは相変わらずのニコちゃんマーク顔で家塚に挑んで行く。


 そしてこの後、俺は凄く後悔する事に成る…

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