第20話 決戦

「あー重かった。テメェ、少しダイエットした方がいいぞ」


「重いとクレーン壊れちゃうんだよー!ミョーミョー!」


「フフッ…ドウル君…この御人形さん達、消し炭にしていい?」


「駄目です!代わりに謝ります!すみませんでした!!」


 ビーとドローン合体ミョーミョーで、火口付近から大空経過でモモメさんを運んで来てもらった

 人に見つかったかも知れないが、まぁ遠くからなら新型のジャイロコプターに見えただろ。うん。


「ドウル君…人にバラエティ番組の罰ゲームみたいな格好までさせて…何か御用?」


「楽しそうに空中撮影会やってたじゃねぇかよ…」


「コラッ!ビー!本当にすいません。無理矢理呼び付けて…緊急事態なんです。朝方、チャミさんがヤミオコシ側に拉致されました」


「妖精さんから聞いたわ。可哀想だとは思うけど、救出に協力しないわよ。どちら側にも付かない、静観するって言ったでしょ」


「はい。救出は俺達でやります。モモメさんには側に居て欲しいのと、黒蛇龗じゃなくて、赤蛇龗を動かして欲しいんです」


「…出来ないわね。噴火の規模は自然に任せると…」


「モモメさん…死ぬ気ですよね。水蒸気爆発を抑え、近隣住民を助ける為に…」


「…残念ながら人間の為じゃ無いわ。爆発で、山の形成が変わらないようにする為よ」


「どちらにせよ、死ぬ気ですね。大自然を守る事は本当に大切な事かも知れません。ですが、まず自分の命を大切にして下さい。モモメさんみたいな方が居なくなると、大自然も悲しむだろうし、俺も悲しみます。大自然や俺にまだまだ必要なモモメさんが死なない為に、赤蛇龗を動かして下さい」


「フフッ…嬉しいこと言ってくれるわね。乗せられてあげてもいけど、赤蛇龗を止めて私に御褒美は有るのかしら…」


「日本中が…いえ、世界中の人が大自然に対して畏怖、畏敬の心を持つような記事を書きあげ、世界に届けます。この俺の魂を込めて…」


「ずいぶん大口叩くわね…そう言う人嫌いじゃ無いわよ。ドウル君」


「お願いします!モモメさん!」


 俺は深々と頭を下げた。

 モモメさんは少し思案をしてたみたいだが…


「正直私が動かしたからって、赤蛇龗が完全に鎮まるとは限らないわよ。それに怨霊退治は専門じゃ無いから、ドウル君達に何か有っても本当に手助けしてあげられない。それで良ければ…」


「ありがとうございます!!」


「もし記事が書けなかったら、地球に代わって私がお仕置きね。フフッ…」


「ハ、ハイ!」


 って…どんなお仕置きだろう?


「サクラナ姫!ご無沙汰しております!」


 家の中から慌てて飛び出て来た犬養さんが、緊張気味に敬礼した。


「あら!久しぶりねユミちゃん…あっ!モモメでいいわよ」


「モモメ様。実は家塚が…あっ!喋っちゃマズイか…」


「…彼が闇興会の黒幕だったのね。おそらくもう気付いたわよ。貴女と私が一緒に居ること。ドウル君。場合によっては、私は家塚君の方に付くわね。フフッ…」


 これは本音か?家塚に対してのフェイクか?

 どちらにせよ今はモモメさんに頼るしかない。


「それではお先に行って参ります!!」


 犬養さんは最敬礼したのち、走りながら指笛を吹いた。

 樹海に待機しているカンスケと、12人の特殊監視課の精鋭と共に、先に洞窟の方へと向かって行く。


「私達は行かなくていいの?」


「モモメさんの心はブロックされてます?」


「フフッ…大丈夫よ」


「実はこちらが救出隊の本隊です。犬養さん達には目眩まし役をしてもらっています」


 俺の後ろに五人の人形部隊が並んだ。

 俺はリュックを背負い、懐中電灯付きヘルメットを被る。

 チャミさん奪回の出発の時だ。


「モモメさん!チャミさんが閉じ込められた洞窟の中まで御同行、よろしくお願いします!」


「なるほど…私を盾にする気ね」


「ハイ。本当に申し訳無いです」


「フフッ…仕方ないわね。分かったわ。付いて行きましょう」


 おそらく俺達だけなら、洞窟に入った途端に生き埋めにされる。だが、モモメさんと一緒に入ったら、奴ら躊躇するはずだ。

 奴らにとってもモモメさんは大事な人。なんせ赤蛇龗を操れる。

 そう、噴火を拡大する事も出来る人物なんだ。

 そんな貴重な人、奴らも殺したくは無い。


「行くぞー!!出撃だー!!」


 ハンディーが頭頂部から糸付き針を伸ばし、木に絡める。一気に上昇したかと思うと、今度は前方の木に糸を絡め、まるでターザンのように進んで行く。手足はダランとしたままなので、知らずに出会ったら、赤ん坊の首吊り死体かと思って恐怖するだろう。


 マイコも木の枝に飛び上がったかと思ったら、枝を軸にグルグル回りだし、遠心力で前方に飛ぶと、次に掴んだ枝でも同じように回転して再び遠心力で飛んで行く。まるで体操選手のようだ。違うのは回転移動を延々に繰り返しても目を回さないとこか…


 ビーはもう既に見えない。


 俺とモモメさんと茶坊爺が早足でマイコ達の後を追う。


 ドローンミョーミョーは常に俺の頭上を飛んでいた。

 木が進行方向の邪魔に成る場合は、羽根を縦にしたり折り畳んだりと、変形しながら器用に躱して前に進んでいる。


 洞窟の場所は茶坊爺が知っている。

 てか、俺以外は全員知ってるから、はぐれない限りは道には迷わない。はぐれない限りは…


 いきなり目の前にビーが現れた。


「この先トラップだらけだ。私らは問題無いが、仮マスターには危険だ。どうする?」


「クソッ!こっちが最短ルートだよな…回り道するか…」


 隣でモモメさんが遠くを見ている…

 と、思いきや、いきなり前方に手を翳した。


「アサマホノハナ、サクラビ…」


 前方の生い茂りの中に〝ポッポッポッ…〟と、ピンク色の炎の花が空中に現れる。それはまるで目印のように、ずっと先まで続いているようだ…


「私も罠には掛かりたく無いわ。この炎花ほのはなが咲いてる所を通れば、罠が避けられるので私は通るけど…ドウル君は勝手にしてね。フフッ…」


「有り難う御座います。勝手にモモメさんの後ろを付いて行きます」


 これは助かる。はぐれないし、トラップにも気を使わなくていい。

 モモメさんも素直に俺達の味方だと言ってくれたら良いのに…強情だな。

 でも、いきなり手のひら返されるかも知れないし、間違っても怒らせないようにはしないと…


「うおっー!!」


 考えながら歩いてたら、いきなり右足が膝まで沈んで前のめりに転びかけた。奴らのトラップか!?


「気を付けてね。溶岩の穴の上を枯葉が塞いで出来た、天然の落とし穴も有るから」


 そ、そうなんだ。やっぱり樹海で気を抜いちゃ駄目だ。



 ビー達がしっかり監視していたので、何事も無く一時間近く歩き進んだ。

 しかし、敵側は遂に動きだす。

 前を歩くモモメさんが止まった。


「来たみたいね…」


「ですね…俺にもぼんやり見えます…」


「既に妖精さんが沢山消したけど…飛んでるお婆さんと睨み合いが始まったわ」


「アブラオキメ…」


 半透明の飛んでる婆ちゃんの周りには、鎧武者や軍服姿の男、妖怪のような異形姿の者も居れば、大猿みたいな霊獣も居る。

 俺にはしっかり見えないが、他にも怪しい影が複数浮いていた。


「ドスッ!ここは任せて先に行きなさい。若旦那」


 頭上で仁王立ちしながら見下ろしてるマイコが、頷きながら言った。


 頼んだ…マイコ…

 俺は怖くて、あの化け物達の群れにはこれ以上近づけ無い。

 悔しいが、見てるだけで腰が抜けそうだ…

 いや、あんな不気味なのが沢山固まっちゃダメ!反則、反則!


「ちょっと!!ドウル君!これ何っ?どういう事?」


 急に叫んだモモメさんの声に、心臓が飛び出る位に動転した。

 慌ててモモメさんが指差す足元を見ると、三日月虫の幼虫の死体が沢山転がっている…多分ビーが退治したのだろう。


「ど、どうしました?モモメさんも虫が苦手ですか?」


「違うわよ!三日月虫ヤママユガさんよ!貴重な種よ!なのに、こんなにいっぱい殺して…」


「ですがコイツらアブラオキメに操られ、霊虫になっていて…」


 言ってる最中にモモメさんが、俺の口元に手の平を持ってきた。

 その手の平の上にコンガリ焼けた三日月虫の死骸を乗せて…


「食べて!」


「へっ?」


「無駄な殺生をしちゃいけないわ。ドウル君も山で熊に出会って、ただ弄ばれて殺されるより、食べられて熊さんのエネルギーに成る方が百倍良いでしょう?」


 弄ばれるか、食べられるか……うん。どっちも嫌です。


「すいません…これ、見た目が生理的に…」


「えっ?断るの?」


「まさか!いただきまーす!」


 目を瞑って一口咬んだ…

 ウッ!クソッ…

 塩胡椒欲しいが、予想と違って意外と旨い…

 でもキモイので二度と食べん。


「美味しいでしょ?まだ沢山有るわよ…ホラッ!全部持って帰って食べてね」


「あっ!モモメさん!土壌のバクテリアさんが『お腹すいたよ~』って、言ってます!」


「えっ?何て?」


「いえ…何でも無いです…」


「ドウル君…」


「はい…」


「『ごちそう様でした』は?」


 沢山の焼芋虫を渋々リュックに入れ、〝パンッ〟と、自分の頬を叩いて気を取り直す。何のこれしき…チャミさんを助ける為なら焼芋虫位、残さず美味しく戴いてやる!!


「遊んでんじゃねえよ!!テメェら、さっさっと行け!!」


 前方の悪霊達に鋭い視線を飛ばしながら、ビーとマイコはそれぞれのファイティングポーズを取ってたいた。


「ビー!マイコ!頼んだ!!チャミさんを助け出したら加勢に戻る!!」


「ドスッ!その頃には店仕舞して、売上げを数えてますよ。ハッハッハッ…」


「おい!テメェ、仮マスター!!」


「なんだビー?」


「マスターチャミを必ず…」


「分かった…」


「ドスッ!さて、ビー…A級一、B級十二、C級三十七…二人だけで御座敷遊びするには少々ハードな数だぞ。ハッハッハッ…」


「全部蜂の巣にしてやるさ…」


 二人に託し、その場を後にした。

 あの二人ならやれる。必ず無事に悪霊達を全部鎮めるさ!問題は…



「ドウル殿…木が…」


 ビー達から一キロ位離れた前方に、広場が出来ていた。

 明らかに人工的に刈り取って作ったものだ。誘い出しか…


「小主人様!人が倒れています!」


 頭上からハンディーが報告をくれた。


「特殊監視課の人達です。ほぼ全滅してます」


「えっ?全滅?そ、そんな…」


 早い…精鋭部隊がもう全滅…

 侮ってた。闇興会の奴ら、かなり手強い。

 数と実力も分からないし、不利だ。

 どうする?


「ハンディー!監視課の人達は生きてるか?」


「ハイ!まだ、動いておられます。犬養様とカンスケが守りながら、家塚様と闘っておられます」


「援護に行こう!ハンディーは特殊課の人達の手当てをして、安全な所へ。それから周りに隠れている敵を全員倒して欲しい」


「かしこまりました。小主人様」


 家塚をここで倒してしまえば、俺の作戦はヤミオコシにバレない。

 作戦変更で家塚をミョーミョーと茶坊爺の二人がかりで倒し、ハンディーに残りの闇興会のメンバーを倒してもらう。


 俺は木の陰に隠れ、広場の様子を覗いた。

 カンスケが果敢に攻めるも、家塚が難無く躱して、カウンターで棍棒の打撃を食らわしていた。

 何度も叩かれているのに鳴き声一つ出さずに立ち向かうカンスケ…

 大した根性の犬だ。

 だが、ほっとけば死んでしまう。

 ミョーミョーにカンスケを救い出すように言った。「ミョー!」と、一言言ってミョーミョーはカンスケをアッサリ空中に連れ去り、救い出した。

 俺の近くに降ろされたカンスケは、まだ闘志を剥き出しにしているがボロボロ状態だ。いいから休め、良くやった。


「そこに居るんだろ!!間抜け記者!!隠れて無いで出て来いよ!!」


 隠れても無駄か…


態々わざわざミョーミョーを連れて来てくれてご苦労様!其奴そいつ、心読めねぇから探すの苦労するんだよ…其奴さえ壊せば、このゲームは…オッと!」


 家塚に向かって何かが投げられたが、奴は棍棒を回転させてアッサリ攻撃物をはじき返した。


「伊和佐さん!!ここはオラ達に任せて早く洞窟に…」


 攻撃物を投げたのは犬養さんだった。

 強がっているが、満身創痍だ。

 もう闘う事は不可能だろう。


「こんな竹で出来た手裏剣で、俺を倒せると本気で思ってやがる。馬鹿が」


 それに引き換え家塚は傷一つ負っていない。

 奴は心が読める上に、身体能力も飛び抜けているみたいだ。


「間抜け記者の作戦はとっくに分かってるよ。行かせるわけ無いだろ。残念だが誰も洞窟まで辿たどりり着く事無く、ゲームは終了だ」


「犬養家の血筋に掛けて、ここでお前を食い止めるずら…」


「何が血筋だ!お前ら馬か?府中でも走っとけ!典型的な『ご先祖様スゲー!俺スゲー!』野郎だな…」


「ご先祖様が凄いから、オラも凄く成らないといけないのずら…」


 犬養さんは太い竹串みたいな武器を手に何本か持って構えた。だが…

 息があがっているし、ふらついている。

 無茶だ!やられるだけだ!止めないと…


「俺も出来るだけ自分の手を染めたきゃぇけど、お前と愛鷹は別だ。死ねよ、犬養…」


 クソッ!!

 俺が立ち向かって行く犬養さんを止めようと、木陰から広場に出た瞬間_


「危ない!!ドウル君!!」


〝バアアアアァァァァァァーン……〟


 _広大な樹海に銃声が響いた……

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