第19話 撫物
「連絡はついたかハンディー!!」
「ハイ!すぐにこちらに帰られるそうです」
「良かった…」
「ですが…健、茶子ご夫妻は、現在フランス公演中です。お戻り成られるまで、半日以上は掛かるかと…」
……未成年の子供を樹海に置いて、どこまで人形劇をしに行ってんだよ。
「近くにアワシマの親戚は?」
「申し訳ございません。私では連絡先が分かりません」
「仕方ない…犬養さんが来るまで待つか…」
「ミョーン!チャチャ~!!」
チャミさんが連れ去られて二時間が経った。
家には人形達全て戻って来ている。だが…
「大丈夫だ。ミョーミョー…チャミさんは、まだ生きている」
俺は泣きじゃくるミョーミョーの頭を撫でながらあやすと、イラつくビーが、飛び回りながら俺の発言に突っかかって来た。
「テメェに何でそれが分かるんだよ!アイツらがマスターチャミを生かしとく理由なんて無いだろ!」
「奴らは最初からチャミさんを人質に取る気だった。殺す気なら家塚が羽交い締めにして捕まえた瞬間に出来たはずだ」
「だから何で人質に取る必要が有ったんだよ?!」
「ミョーミョーだ…奴ら最初に闘った時、押されっぱなしのミョーミョーに対して警戒心を抱いたんだ。特にヤミオコシ…」
そうだ。
アイツらはチャミさんよりもミョーミョーが強敵だと踏んだんだ。
チャミさんを人質にしてミョーミョーを誘い出し、罠に嵌めて確実に仕留めるつもりなんだ。
「某も同意見です。ヤミオコシは生前鉄の武器で
「茶坊爺、ビー、マイコ、ハンディー、そしてミョーミョー…俺に力を貸してくれ。相手が罠を仕掛けて待ち伏せするなら、それを逆手に取ってチャミさんを救出する作戦を考える。頼む、俺の作戦に乗ってくれ!!」
「悪いが
「ドスッ!若女将がいないと御茶屋は開きません」
「申し訳ございません。ご主人様がいない
駄目か…
だよな…この子達はチャミさんの操り人形。
操る主人の命令しか聞かない。
例え主人のピンチであろうと、命令が無いと…
「うん!分かったー!ミョーミョー、ドルドルの言うこと聞くよー!チャチャを取り返すんだミョー!ミョー!」
えっ?何でミョーミョーだけ?
「テメェ…さっきから何でミョーミョーだけ
「えっ?どういう事だ?ビー?」
「だから、何でミョーミョーの頭しか撫でないんだよ!!変態野郎!!」
言われてビー、マイコ、ハンディーの順に頭を撫でた。
「仕方ねぇ…テメェ
「ドスッ!若女将を助けるまで若旦那と呼ばせてもらおう」
「ご主人様がお戻りに成られるまで、
……頭撫でられただけで主人変えるのか?お前ら猫以下か!
「カッカッカッ…某達は
「お酒飲めるんですか?」
「まさか!形だけで結構、そのお茶で…」
茶坊爺は懐からボロボロの小さな茶碗を取り出した。
俺が机の上に有ったペットボトルの茶を注ぐと、茶坊爺は飲む振りをした。
「ドウル殿、忠誠を誓いますぞ。ささ、御命令を!」
「よし、じゃあ最初に一番大事な命令を出しておく!必ず守れよ!いいか、ここに居る五体…いや、五人!一人も死ねんじゃないぞ!全員無事で闘いに勝利し、チャミさんを取り戻すぞ!分かったか!!」
「テメェ馬鹿か?算数も出来ないのか?」
「ん?」
「ここに居るのは、テメェを入れて六人だろうが!六人とも生き残るんだよ!馬鹿マスター!」
「…そうだな。じゃあ六人とも生き残るぞ!!いいな!!」
「「「「「オオォォォォー!!!!」」」」」
俺はまず、敵と遭遇した時の役割分担を決めた。ここは相性を優先する。
「アブラオキメとモブ怨霊は、ビーとマイコに任せる」
「いいぜ。蛾のババァは蜂に任せろ!」
「ドスッ!私もやられっぱなしでは、一人前の
家塚や闇興会のメンバーはハンディーに頼む事にする。因縁も有るし、対人戦ではハンディーの攻撃は無敵だろう。
「ハンディー!構わないから、闇興会の奴らをコテンパンにしてくれ。特に家塚は全力で打ちのめして、羅婆々の仇を討て!」
「ハイ!かしこまりました。小主人様!」
「ミョーミョー!茶坊爺!二人は俺と一緒にヤミオコシを倒す。問題は…」
〝バンッ〟
扉が開き、犬養さんが怖い顔で入って来た。
「犬養さん!大変なんです!チャミさんが…」
「知ってるずら。連れ去られていく所を見た者がいたずら。ハンゾウが追いかけてたので場所も分かっているずら」
「奴らのアジトは何処なんです?」
「…伊和佐さん、先ほど気象庁が噴火警報レベル4を発表したずら。現在登山中の一般人は山岳警備隊の誘導の元、緊急下山してもらってるずら」
「えっ?」
「内閣府指示により、只今より青木ヶ原樹海は避難指示区域とさせていただきます。ヘルメットをお貸しします。アンタも
「ちょ、ちょっと待って下さい!俺はコイツらと闘い、チャミさんを奪回します」
「…ヤミオコシと闘うつもりずらか?」
「ハイ!」
「だっちもねぇ…そんな考えじゃ無理ずら。ゲームの中で、ゾンビ退治するのとは訳が違うずら…」
「分かっています!」
「分かって無いずら!相手は邪神とはいえ神ずら!退治するみたいな考えじゃ無理ずら!神を裁けるのは神だけ。闘うなんて
「す、すいません。確かに烏滸がましいです。間違ってました…」
「伊和佐さん…相手は既に死んでいるんです。闘って倒すのは無理なんです。ましてや相手は神クラス。その魂が自然浄化するまで、物や大気の中に抑えて鎮めるしか無いんです。どんなに強い怨霊でも、何千年もすれば浄化されます。それまで強い霊能者が魂を鎮めておくしか方法は無いんです」
「…分かりました。けど、チャミさんは俺に奪回させて下さい。鎮魂はチャミさんや犬養さん達に任せます」
「伊和佐さん!全てオラや雛神達に…」
「後戻りしません。俺は今、コイツらのマスターです」
「ちょ?マジで?いやいやいやいや…マイコ雛!!マジか?」
「ドスッ!マジです」
「あーもう!何でこの人を主人に選ぶずら!!普通オラじゃん!オラに対する嫌がらせか?」
「ドスッ!京女はイケズですからな!ハッハッハッ」
「犬養さん!お願いです!チャミさんの居場所を…」
「うー……ここから5キロほど離れた樹海の中に、
洞窟…やっぱり洞窟で待ち伏せか…
「その洞窟は崩れやすいんですか?」
「そうずら。昔は口減らしの為に老婆を置いていった姥捨ての場所だったみたいずら。近年は蚕種貯蔵にも使われてたみたいずらが、現在は天井が脆く成り、立ち入り禁止ずら」
やはり助けに入った瞬間に洞窟を崩して、チャミさんごと生き埋めにする罠だ…だが、助ける為には洞窟に入らざるを得ない…
「犬養さん。家塚のことは?」
「家塚が犯人なのは、さっき知ったずら。カンスケが中々犯人に近づけ無かった訳が分かったずら…」
「奴の能力は?」
「他心通…人の心が読める神通力ずら。家塚の他心通は特殊で、厄介なのは相手が特定されたら、離れていても考えがバレてしまうずら。カンスケさえも心が読まれて、追っても、追っても先読みされて逃げられるずら」
「犬の心まで…」
なるほど…それで中々探しきれ無かったのか…こちらが作戦考えてもバレるし、確かに厄介だな…
「家塚は何十人もいっぺんに、人の心が読めますか?」
「まさか!そんな事したら頭の中パニックに成るじゃん」
「そうか!…だったら尚更俺に任せて下さい。家塚は俺の事を間抜けな雑魚だと思って相手にしていません。俺の心までは読んでは来ないでしょう。作戦は俺が立てます」
「ふむ…一理有るずら。分かったずら。オラもアンタの作戦がバレないよう、敢えて作戦を聞かないずら。オラが作戦立ててる振りして、アンタのサポートに徹するずら」
「お願いします。ではまず、この家にドローンは有りますか?」
「ドローン?有るずらが…何に使うずら?…あっ!いけん、いけん!聞いちゃいけないずら。とりあえず持って来るずら」
「ありがとうございます」
〝ピィリリィ、ピィリリィ…〟
犬養さんがドローンを取りに行っている間に携帯が鳴った。
すっかり忘れてた…
月曜日の昼なのに、電話も入れてない…
「おはようございます!編集長!」
「『おはようございます』じゃねぇぇぇええ!!今何時だ!!ゆとり野郎!!」
「すみませーん…なんだかんだと有りまして、まだ樹海の中なんです」
「樹海?まだ富士の裾か?今、緊急速報で富士が噴火しそうだからって、避難警報出てたぞ。危ないから早く戻って来い!」
「いや…それが出来ません…」
「ハァ?」
俺は今までの経過を編集長に話した。
俺がチャミさんをこれから救出に行く事も。
編集長は黙って聞いてたが…
「お前の気持ちは分かった。でも帰って来い」
「編集長!!」
「お前…自分の身の丈を考えろ…お前は只の新米記者だ。子供じゃ無いんだから、出来る事と、出来ない事が有るのは分かるな。新米記者としては、よく頑張ったよ。もう十分だ帰って来い」
「嫌です」
「ドウル!!」
「俺…チャミさんに、二回も命を助けられました。いえ、最初のと合わせて三回です。なのに俺は足手纏いに成るだけで、一度もあの子を助けていません」
「ドウル!だから人には分相応の役割があってだな…」
「俺!このまま何もせず帰ったら後悔の念で記事も書けません!!弱い立場の人を守る…酬われない英雄を救いたいが為に、記者に成ったのに…何もせず帰ったら、死んだ爺ちゃんに顔向けも出来ない!俺は…俺の信念で助けに行きます!会社には迷惑かけません!自己責任で…伊和佐ドウル個人で助けに行って来ます!!」
「偉そうな事言ってんじゃねぇぇぇよ!!この青二才のゆとり野郎がぁああああ!!餓鬼みたいな正義感出しやがって!いいか、最初に樹海に取材に行かせたのは俺だ!何か有ったら会社の責任で有り、上司の俺の責任なんだよ!」
「だから会社や編集長に迷惑かからないよう、一筆書きます…」
「うるせぇー!!そんな物いらねぇよぉ!!しっかり聞けよ…この、ゆとり野郎!!上司責任の上司命令をお前に今から告げる!伊和佐ドウル!!お前、死んでも死ぬんじゃねぇぞ!!コラァアアァ!!死んだら俺がぶっ殺すからな!!」
「編集長…」
「んで、『三流記者のゆとり野郎が何か富士を救っちゃった』っていう、世間がびっくりする大、大、大スクープを手にして帰って来い!!命令だ!!分かったなぁ!!」
「ハ、ハイ!!分かりました!!いや~編集長!!」
「なんだ?」
「俺の爺ちゃんも、そうでしたが…団塊世代ってイチイチ格好いいですね!」
「俺は氷河期世代だぁ!!べらんめぇぇぇえええ!!」
俺は事が終わり次第、必ず報告する約束で電話を切った。
ありがとうございます。編集長。
必ず戻ります。
暫くして犬養さんがドローンを持ちながら、裏の倉庫から戻って来た。
「これでいいずらか?」
「ハイ!…ミョーミョー!ビー!お願いが有る」
「なんだ?」
「火口付近に居ると思うモモメさんを連れて来てくれ…」
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