第13話 副将軍と関東代官
「じゃあ
「そうっチャ。
「芋虫を常世神とか言って信仰してたのは、何かアブラオキメの方みたいでしたけど…」
「そうっチャ。アブラオキメは生前、虫を操れる魔法使いだったらしいっチャ。カガセオの事を教祖として、
厚い雲は月や星を隠してしまい、灯りといえば時折すれ違う対向車のヘッドライトと、忘れた頃に現れる申し訳程度の街灯だけだ。
暗黒の視界の先は、デリネーターと静かに呼吸をしている草木達が延々と続く。
時折草木達の間から、何かに見られている感覚に襲われては背筋に悪寒を感じているのだが…まぁ、気配だけで見えない方が心臓には良い…
ここいらに住んでる鹿さん達の視線だと自分に言い聞かせ、怖さを紛らわせる。
俺は現在チャミさん家に向かって、夜中の山道を車で飛ばしている所だ。
後部座席には腕と翅を繋いだビー、繭から取り出したマイコ、元のデフォスタイルに戻ったミョーミョーが、元来それが正しい人形の姿なのだが、全く微動だにせずに座っている。
エネルギーを溜める為に仮眠をしているらしいのだ。
行きと違ってとても静かな車中で、俺は運転しながら助手席のチャミさんとずっと【
「そういえばビーが、あの芋虫は
「
「なるほど…山繭蛾の一種なら、繭から絹糸が取れる。秦氏は
「秦氏には、それも気に食わない材料だったのかも知れないっチャ。ライバル関係だったのかも知れないっチャ」
「
カガセオ…
名前からも星を信仰対象にしていた
そして
チャミさんに聞いた所、
一方、
ポイントは
一般的に
つまりカガセオを倒したのは、前者とは別の倭文神って事になる。
織物と言えば、秦氏は歴史的に絹織物と関わりが深い。
そして秦氏は大陸から鉄の最新技術も伝えたとか。
だからカガセオが鉄の靴で倒されたと言うのは、鉄の武器で秦氏に倒されたとも考えられる。
そう、カガセオを倒した武神の
そして意外な事を聞かされた。
カガセオの先祖がシルクロードを渡って来た、西洋系の種族ではないかと言う事だ。
秦氏の先祖がシルクロードを通って来たユダヤ系の人ではないかとは、ネットの噂で聞いた事は有るが…
セオ(Theo)…外国の男性名だが、元はギリシャ語で〝神〟を意味するテオス(Theos)から来ている。
占星術の元は紀元前三千年には西洋に既に有ったとも…
道教的要素もシルクロードを通ってきた渡来人っぽいし、
なるほど、所々だが辻褄が有っている。
そういえば法隆寺とパルテノン神殿の建築方法が似てるとか、聞いた事が有るな…
秦河勝は聖徳太子の側近だ。その建築方法を知ってたのはカガセオだった可能性も有る…
そして当時の住民に独自の占星学や絹の製法を教えて暮らしていた事に成る。
しかし大和朝廷とは折り合わず、朝廷側に付いた同じく渡来人の秦氏と争いに成り、そして敗れた…
「カガセオは何で大和朝廷と折り合え無かったのでしょうかね?」
「う~ん…やっぱり文化の違いと思うっチャ。当時の朝廷側は仏教が根付いた時だし、
「なるほどね…自分の
でも『この世界を常世に変える』って、どういう意味だろ?
日本を地獄のようにするって意味かな?
「
「そうっチャ。カガセオの話は全部、
「光圀さん?それ、〝天下の副将軍〟水戸黄門様じゃないですか?!昔、その人が主人公のテレビドラマや映画が流行ったんですよ」
「へぇー、そうなんだっチャ。その光圀さんがカガセオを祀っていた山頂の神社を宿魂石近くに移動して再建したり、岩の巨人に成るカガセオを抑える為に力の神様の
「そうなんですか。じゃあ当時の富士信仰や淡島信仰のブームは、裏で黄門様が手引きしてたのかな?」
「分かんないけど、恐らく光圀さんと関東代官の伊奈家の人は関与してると思うっチャ。特に
〝伊奈〟…確か徳川家康の家臣で、関東の川を整備をしたのが
「『宝永の死闘』で生き残った人形は茶坊爺だけですか?」
「う~ん…実はもう一体居るっチャ…けど…」
「けど?」
「多分その人形は今も生きてる筈っチャ。千年以上前の超年代物の人形チャ。だけどチャミや愛鷹だけで無く、茶坊爺さえも姿を見た事が無いっチャ」
「えっ?茶坊爺は一緒に闘ったのでは?」
「そうっチャ。かなり謎の多い人形で、能力も多才な上に不死身らしいっチャ。富士の三大噴火の闘い全てに加勢してるんだけど、誰も姿を見た者は無いらしいっチャ。もしかしたら姿を何かに変えてたり、透明に成ってたりして実は近くにずっと潜んでいるのかも知れないっチャけど…」
「えっ?えっ?なんです、その人形?すごくミステリアスですね。名前は有るんですか?」
「【
「宇宙人形?チャミさんのご先祖様は宇宙にも人形芝居に行ったんですかね?縄文時代に…」
「チャハッハッハ…ご先祖様が宇宙旅行した時に買った、お土産の人形かも知れないっチャね」
「宇宙温泉で買った宇宙コケシだったりして」
「チャハッハッハッハ…」
話の合間合間に下らないジョークを挟んだ。少しでも場を和ませたかった…
強がってはいるけど、内心緊張していると思う。なんせ相手は神の域に達している怨霊だ。
さっき追い詰めたのは復活して間もなかったので、相手は本領を発揮していなかったと聞かされた。千載一遇のチャンスだったのかも知れない。
天下の副将軍も恐れた怨霊に、果たしてこの若くて小さな少女が勝てるのか…
「チャミさん。現在闘える人形は何体ですか?」
「今言った
「闘ってくれたら?」
「ハンドメイドは闘いが嫌いっチャ。元々がお手伝い人形でも有るっチャ」
「棚の寝ている人形達は無理ですか?」
「無理やり起こしても戦力に成らないっチャ。それなら即興で作った雛で十分っチャ」
「敵の数は、カガセオとアブラオキメだけでは無いですよね?カガセオが、他の怨霊を呼び寄せるのでは?」
「D級以下のモブ怨霊なら、幾ら群がっても数に入ら無いっチャ。それよりも問題はカガセオを復活させた生きた人間の方っチャ。あの取り憑かれた店長さんの単独行動じゃ無いと思うっチャ…」
「カガセオを復活させたのは組織立った連中ですかね?」
「恐らく…霊能者、魔法使いの類いの者も居ると思うっチャ。早くヤミオコシを元の宿魂石に封じ込めないと、そいつらが他のS級やA級の怨霊までも復活させたら取り返しがつかないっチャ」
富士山の噴火を願う奴なんて、どんな奴らだ。お化けじゃ無かったら怖くないぞ。
但し、本当に対面して喧嘩に成っても、勝てるとは言ってない。
しかし…其奴らの真の目的は何だろ?
本当にカガセオを信心してるだけ?
大怨霊を復活させて、日本が混乱するのを楽しむ愉快犯?
それとも何か別の目的が有るのだろうか…
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