第8話 吊り上がらない人形
「チャチャ!凄いミョー!もう21台目だよー!!樹海のお外は、いっぱいいっぱいだー!」
「当たり前っチャ。都内に入るともっと有るっチャ」
「都会、凄ーい!
現在俺の愛車は人間二人と人形二体を乗せて、いざ都へと移動中で有る。
何が楽しいのか超合金人形は、自販機の数を数えて後部座席で暴れながら興奮していた。
向こうに着いたら大人しくして貰えるんだろうか…自販機と合体とかされたら面倒だぞ。
「チャミさん…ご両親はいつ帰って来られるんですか?」
「あと半年は劇の公演で帰って来ないっチャ」
「やっぱり人形劇は表向きで、悪霊払いが本業なんですか?」
「傀儡師の事は調べたっチャ?」
「ええ…内容までは分かりませんでしたが、本当は呪術師の団体だったとか…」
俺は車を運転しながら助手席に座るチャミさんに色々質問していた。
現在ご両親は旅興行の最中らしい。中学卒業迄は一緒だったらしいから、育児放棄では無くて安心した。
人形劇で生計を立ててるらしいが、裏では人形を使ったお祓いの仕事をしているのだろう。
平安時代には既に確認されていた、呪術を使う人形劇団を傀儡師と言い、チャミさんは富士を拠点に置いた傀儡師一族の末裔だと当たりを付けていた。
「やっぱり傀儡師は、アワシマ様の子孫だったんですかね?」
「チャミもよく分からないっチャ。苗字だからアワシマ様とは何か関係が有るのかも知れないチャが、チャミは祝詞やお経が読める訳じゃ無いし、全国の神社やお寺との
「そうなんですか…チャミさんの血筋がアワシマの神様の総本家だと思ってました」
「チャハハハ…アワシマ様の子孫だとしてもチャミのご先祖様は異端児だったので、破門されたのかもしれないっチャ」
縄文時代からの家系図が有るわけじゃ無いし、まぁ、この辺りは想像で判断するしかない。
高速道路を走行中も、後の人形達はかしましく騒ぎ立てていた。
樹海の外が初めてなら、はしゃぐのも仕方ないか…
「凄い!凄い!1075体目!」
今度は何の数だよ…擦れ違った車の数か?
ふと隣をチラ見すると、チャミさんが眉をひそめて怪訝そうな表情を浮かべていた。
「どうしました?」
「うーん…多いっチャ…」
「何がです?」
「ドウル君はD級が見えたから霊感は強い方だと思うけど、E級以下はチャミみたいな魔法使いや霊媒師みたいな本職の人でないと見えないっチャ」
「ま、まさか…ミョーミョーが言った数字は…ゆ、幽霊の数ですか?」
「そうっチャ。しかもあまり良くない霊っチャ。因みにS級とかA級とか言ってても、霊力の強さで有って、中には良い霊も居るっチャ。けど今見えるのは、正直関わるとよくない悪い霊ばかりっチャ」
聞くんじゃ無かった…
「霊が実体化するには、磁場とかも関係するっチャ。磁場が乱れている原因が何か有るっチャ」
「……良くない事が起こりそうですか?」
「多分…近いうちっチャ……」
間もなく都心に入り、高速道路を降りる。
車を近くのパーキングに止めて、地下鉄で秋葉原に向かうことにした。
「チャチャ!見て見て!都会合体だよー!」
「コラッ!ミョーミョー!汚いから拾い合体するんじゃ無いっチャ!〝ペッ〟しなさい、〝ペッ〟」
ミョーミョーは車から降りるなり何処かに行ったかと思ったら、空き缶や百円ライターらと合体して、何か分からん容姿になって戻って来た。
うちの人形が合体するから、ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てて欲しいな、まったく…
「ミョーミョー!テメェ、人間に見つかったらどうするんだ!リュックの中に入れ!」
ビーはずっとリュックに入っているが、さっきから中でガサガサして落ち着きが無い。
「どうかしたのか?ビー?」
「あっちこっちに怪しい悪霊が居るから臨戦態勢を整えてるんだよ。テメェは見えないのか?」
「そんなにいるの?地縛霊とか浮遊霊みたいなのは少し見えるけど…」
「霊との波長も有るし、人ゴミに紛れたら異形じゃないかぎりは素人じゃ区別が付かないっチャ。向こうも
「だ、大丈夫なんですか?人に取り憑いたりしませんか?」
「A級やB級なら見て見ぬ振りも出来ないけど、チャミらの仕事はあくまでも富士に纏わり付く悪霊を鎮めることっチャ。無理に関わらなくていいっチャ」
出来たら東京中の悪霊を退治して欲しいが、そんな大変そうな慈善事業を頼んでも悪いか…
「何か数年前に来た時より明らかに増えてるっチャ。禍禍しい自然精霊や動物達の低級霊…
「悪い霊がどんどん増えると、どうなっていくんです?」
「怨霊、悪霊、生霊…神の域まで達した
「最近地震が多い原因もそれ何ですかね?」
「そうっチャ。やがて地震や荒御霊に誘発された富士が…」
「ドカーン…」
「そうならないようにチャミ達が居るっチャ」
「ホント、よろしくお頼み申します。出来る事は協力しますので、ヤバそうだったら知らせて下さいね」
「けど、マスターチャミ。ここまで荒んでると、既に手遅れなんじゃ…」
「諦めずに最後まで努力するっチャ。チャハッハッハッ…」
「チャミさん……」
まてよ…
もし爆発したら、近くで悪霊を祓っているチャミさんが一番危ないんじゃないのか?
「お願いします」って…こんな少女が危険を
今、南海トラフ地震が来たら間違いなく噴火だろうな…現状、本当にどうなんだろ?
マグマはかなり溜まっているのだろうか?
周期的にそろそろヤバイと聞くが…
あの人に聞いてみたい。
後でアソコに寄ってみよう。何か手掛かりが有るかもしれない…
俺達は地下鉄に乗り、玩具箱をひっくり返したようにごちゃつく秋葉原に付いた。お目当ては人形だが…さて、何処行こうか…
「ゲームセンター行きたいっチャ。チャミ、ゲームセンター行ったこと無いっチャ」
「えっ?マジですか?確かに人形は有りますし、行ってみますか」
今時ゲーセン経験無いなんて珍しい。
ゲーセンか…学生の時はよく行ってたが、久しく行って無いな…
あの頃はガンシューティングゲームにハマってたっけ…
ゲームの中では俺も化け物ハンターなんだけどな…
キョロキョロ辺りを見回しながらチャミさんは歩く。周りからから見たら、田舎から出て来た親戚を案内している
いや、身長差が四十センチ位有るから親戚同士には見えないか…ハハッ…
「しっ、かし…同じようなビルばっかりっチャ…ドウル君、よく道に迷わず進めるっチャね…」
「樹海の方が同じような木ばかりで、よっぽど道に迷いますよ。あ、あれがゲームセンターです」
「おい!あれ何だ?何で仲間達が山積みされてる!」
「顔出すなよビー!いくら秋葉原でも少女型人形を背負ってるの見られたら変に思われる」
「テメェは変だから別に構わねえだろ!それより何であんなヒデェ事する?」
酷い事?はて?ビーが言ってるのは、ゲーセン前に有るクレーンゲームの事か?
「あんな狭いとこに閉じ込めて、変な機械で摘まみ上げやがって!逆にアレをやられてる方が人間だったらどうする?見ててムカつかないか?」
う~ん…確かに摘まみ上げられる方が人形じゃ無くて人間だったら嫌な気分に成るかな…
いや、何かのアトラクションかバラエティ番組の撮影だと思ってしまうか。
「あれがクレーンゲームか…人間と人形達が遊んでいると思えばいいっチャ。けどあんなに大量に有って、引き取られ無かった人形達はどうするっチャ?」
「さあ?処分されるんですかね?」
「棄てるの?ちゃんと塚を建てて祀ってあげてるの?」
「いや、分かんないので聞いてみます。チャミさん、せっかくだから何かゲームしといて下さいよ」
「そうっチャ!人形救いチャレンジしてみるっチャ」
チャミさんがクレーンゲームやってる間、店員さんに聞いてみた。
基本景品のフィギュアやぬいぐるみは、仕入れた分全部使い切るそうだ。
たぶん在庫があまりそうだったら、設定を甘くして捌くんだろう。
処分されるんじゃ無くて良かった。チャミさん達が不機嫌に成るだろうからな。
聞き終わってチャミさんの方を見ると、トランペットを欲しがる少年のようにアクリル板に手の平を翳して中のマスコットを眺めていた。
俺にしか分かんないと思うが、明らかに魔法を使おうとしている。
「チャミさん!ずるしちゃ駄目ですよ!ちゃんとクレーン使わないと!店員さんが見てますよ!」
「う~ん…やっぱり素材から自分で作った人形でないと難しいっチャ」
いや見てだけど、中の人形がプルプル震えてたぞ。止めなかったら人形が自ら歩いて穴に落ちてたかも知れん。
チャミさんの魔法はサイコキネシスの一種なのかな?
「クレーン使ってみたけど、全然持ち上がらないっチャ。あんなので取れ無いっチャ」
「アームが弱い時は、アームで手前の人形を押し込むんですよ。見てて下さい」
俺は山積みにされている人形達の、投下口に近い人形をアームで押し込み、山を崩して上の方に有った鳥のマスコット人形を転がり落としてゲットした。
「チャハハハ!凄いっチャ!ドウル君このゲーム得意っチャ?」
「昔、ゲームセンターに入り浸ってましたからね。ゲームは全般得意です。ガンシューは特に自信有りますよ。一回やってみます?」
「やりたいっチャ!教えて欲しいっチャ!」
ゲットしたマスコット人形をチャミさんに渡すと、彼女は楽しそうに肩からぶら下げていたポシェットに括りつけた。あんなに人形持ってるのに、こんなたわいもない小さな人形を貰っても嬉しいんだな。
女の子にとって人形やぬいぐるみは、特別な何かの魔力を秘めている物なのだろうか。
「ドウル君!ドウル君!アレは何っチャ?女子ばっかり集まってるっチャ」
「あープリクラですよ。写真シールが出来る奴です」
「へぇー、アレが…ふーん…」
「まあ、俺には縁が無いですけどね。アレだけは得意じゃ無いです」
「チャハハハ!ドウル君、一緒に写ってもらえる女の子がいないっチャ?!」
「ええ、残念ながら正解ですよ」
そんな事を話ながらガンシューが有る所まで移動してたら、急に背中のリュックが軽く成った。
「おい!ミョーミョー!帰って来いよ、テメェ!」
ビーが怒ってる。クソッ!アイツ、リュックから出やがったな…
「ビー。どっちに逃げた?」
「わかんねぇ。何かと合体してもう同化したかもしれねぇ」
うわー、厄介な特殊能力だな…ゲーム台、両替機…見渡したら合体出来そうなのがいっぱい有るぞ。
大きな機械に変形合体されたら探しきれないかもしれない。
「ドウル君。目の前に居るっチャ」
「えっ?」
眼前の大きめの縫いぐるみ用クレーンゲームの中に、縫いぐるみの代わりにしれっとミョーミョーが中に座って居る。
取り出し口からサンタみたいに筒を通って中に侵入しやがったな。
「ミョーミョー出て来い。店員さんに見つかったらどう説明するんだよ」
「ヤダ!ミョーミョーもこれでブランブランしたーい」
「これ、人形が遊ぶ物じゃ無いから。人間が遊ぶ物だから」
「ヤダヤダ!ミョーミョーもブランブランするよー!」
「チャミさん…命令して動かして下さいよ…」
「ミョーミョーは我が儘だから無理っチャ。仕方ないっチャ。ドウル君、吊り上げて出してやって欲しいっチャ」
俺は溜め息をつきながら硬貨を入れた。何で自分が持って来た人形を取るためにお金入れなきゃならんのだ
そして予想通りだが、ミョーミョーは重すぎて持ち上がらない。
「ミョーミョー無理だよ。重いから無理!」
「ミョエ~ン!ミョエ~ン!重い言われたー!」
「ドウル君、女の子に重いは駄目っチャ!」
女の子って…亜鉛合金で作ったのあんたでしょうが。
ミョーミョーは変な泣き声をあげたあと、ふて腐れて動こうとしないし…
弱った…
「あっ、そうだ!ミョーミョー!アームが近づいたら自分で捕まってみてくれ。それならブランブランできて楽しいぞ」
「ミョー!」
笑顔に成ったミョーミョーは近づいたアームに飛び付いたのだが…
〝バキッン!!〟
あっちゃー!
重みに耐えきれずアーム折れちゃったよ…
うわーマズイ!音に気付いた女店員さんが近づいて来てる…
ヤバイ!マジヤバイ!どう言い訳しよう。
焦っていると、ストライプスーツに迷彩柄のネクタイをしたガタイの良い男達が、いきなり小走りで俺達の前に整列したかと思ったら、近づいて来る店員さんの前に立ち塞がった。
「失礼しました。弁償致しますので責任者の元へ案内をお願い出来ますか?」
一番前の角刈りの男が、そう言ってアルバイトと思われる女店員さんがこちらに来るのを阻み、一緒に事務室が有りそうな方へと向かって行く。
「わかってるっチャ!離すっチャ!」
「チャミさん?!」
後ろを向くと同じような格好をした男達三人にチャミさんが取り囲まれている。コイツら何者だ?チャミさんを狙う奴等か?
「こらこら。乱暴はペケですよー」
男達の後ろから、他の男達よりは一回り小柄で若干猫背な男が現れた。
アンダーリムの眼鏡を掛けたソイツは、黒革の手帳型スマホカバーを開けたまま、それをスマホごと団扇代わりに顔を扇いで俺に近づいて来る。
何か見た目いけ好かない感じだ。
「いけませんねー。貴方、貴方、貴方…」
「ん?俺?ああゲーム機壊してすいませんでした…」
「違いますよー。勝手に森のお姫様を連れ出したらペケなんですよー」
「そうなんですか?お姫様では無く、魔女の方だと聞いてますが…」
「おー、少し場所を変えてお話ししましょうかー」
「俺と彼女の命の保障は有りますか?」
「物騒な話はペケですよ。自分共はこういう者です。伊和佐ドウル王子」
『環境省 特殊監視課 課長
受け取った名刺にはそう書かれていた。
「聞いた事無い課ですね」
「一般には非公開ですからー。世間に知られるのはペケなんです」
なるほど…モモメさんはこの人達に業を煮やして俺に淡島願人を求めたのかも…
きっとそうだ。構図が読めて来たぞ…
「ドウル君!この人達は心配しなくても敵じゃ無いっチャ」
「チャミさんの味方でも、俺の味方とは限りません。でも、ちょうど良かった。俺も聞きたい事が有ります」
「あー、なら近くのホテルに一席設けましょうか?」
「いや、狭いですが俺の家でいいですか?どうせ場所は調べて有るんでしょ?」
「用心ですか?分かりました。では、今から…あっ、申し訳無いですがデートはここまででー、お姫様は責任持ってこちらで送らせていただきます。そうそう、貴方が背負ったお人形も返していただけますかー」
「ビーはドウル君の護衛に付けるっチャ」
チャミさんが不機嫌そうに言ったが、愛鷹は優しく諭すようにチャミさんに「それはペケです」と、言い聞かせていた。
ごねても仕方ないので、俺は男達にビーを預ける事にした。リュックを背中から下ろし、ビーを両手で抱えながら取り出す。
渡す時にビーは意味有りげにニヤ付いていたが…
…下手したらこれでチャミさんや人形達とは二度と会えないかも知れないな…
いやいや!駄目だ!絶対又会う!
俺はたぶんモモメさんに使命を託されているから…
「じゃあな。又必ず会おう」
チャミさんやビーにそう声を掛けた。
お化けが怖いとか言ってられない。
チャミさん達だけじゃない。下手したら沢山の人の命が危ないかも知れないのだ…
世間に知らせねば…
富士が爆発寸前だと…
頼りない俺が唯一出来る事だ!
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