第7話 超合金美少女
「行く!!今すぐ行くっチャ!!」
「今すぐ?!いや、片道二時間位かかるからもう今日は無理ですよ。帰り真っ暗じゃ、ここまで戻って来るの大変でしょ?」
「ちょっと待てテメェ!それ、あの女の
綺麗な三角形を模ったおにぎりを頬張りながら、チャミさんは嬉しそうに叫んだ。
応接室でそのまま昼食をいただいているのだが、冷や奴に蒟蒻大根…机上に並べられた料理は、おにぎりも含め全部コンビニの惣菜だ。
ハンディーはただ器に移した物を手作り料理だと言っている。
まぁ、あの布人形が包丁や火を使える訳ないか。
炊事場に立つには背が足りないもんな…
「チャミ、まだ東京は二回しか行った事無いっチャ!秋葉原まだ行って無いっチャ!連れて行って欲しいっチャ!」
チャミさんに都会見学の話を振ったら、迷うこと無く速攻食いついた。
もう一つの課題、江戸時代の動く人形の方は、有るには有るらしいが現在静岡方面をパトロール中なので、三日ほどは帰って来ないらしい。残念。
「ハンドメイド!ビー!留守番頼むっチャ!行って来るっチャ!」
「駄目だ!マスターチャミ!どうしても行くなら護衛に私も一緒に行く!」
「仕方ないっチャ…じゃあビーはドウル君のカバンの中に隠れて付いて来るっチャ。あっ!ドウル君、お小遣いは三百万ほど持って行けば足りる?」
どんな金銭感覚何だよ…クソッ!15歳でそんな大金持ちやがって…向こうに着いたら何か奢って下さい。
てかっ、勝手に今から行く流れになってるけど大丈夫なのか?
本当に罠だったらどうしよう?
でも、モモメさんは何かを伝えたかったように思えるんだよね…
多分それは大手のマスコミでは駄目な事なんだ。
ウチみたいな外資系資本の小さなウェブメディアで、そして三流記者でしか報道出来ない事なのかも知れない。
大手の一流記者は記者クラブで繋がっている。全員が一流大学出だし、お
おそらくチャミさんの事は報道規制が国から出ているので、どこのメディアも記事には出来ないんだ。
何千年も国がシークレットにしてる事だもんな…
だから俺が記事を書いても揉み消される可能性も高いが…
だが何もしない訳にはいかない。
モモメさんが呟いた『時間が無い』が、どうも頭に引っかかる。
チャミさんに、そして俺に何か託したい事が有るような気がしてならないのだ。
モモメさんの正体が俺達の予想通りなら…
「ミョッミョミョー!!」
〝ガッシン!!〟
「イタアァァァアー!!」
いきなり俺の頭に何か硬い物が落ちてきた。
硬いソイツは目の前のテーブルの上に下り立つと、悪びれる様子も無く右手の複雑怪奇な武器を向けながら、何か分からん戯れ言を言い始めた。
「ミョミョ!出たなー!宇宙怨霊ドルドル!
「何してんだミョーミョー!テメェ今日は〝テルテル〟係だろ!」
「もう飽きた!!昨日からミノミノみたいにブランブランしてるだけで詰まんないもん。ミョーミョー」
「ダメッチャ!〝チャミの人形はテルテル坊主としても有効か?〟を検証中っチャ!夕方までは軒下で首吊って、ぶら下がっとくっチャ!」
「やだー!首吊りブランコ飽きたー!ミョーミョーも遊びに行くー!!」
『ミョーミョー』と言うのか、この男児が喜びそうなメタリカルな人形は…
ミョーミョーは一昔前にロボットアニメから流行った、亜鉛合金と合成樹脂から出来た重量感有る金属製人形だ。
一見はニーハイソックスを履き、セーラー服を着たアンドロイド風少女に見えんことも無いが…だが…しかし…うーん…何とも形容しがたい。変わったフォルムだ。
でも何か何処かで見たこと有る容姿なんだよな…何だっけ…
そうだ!遮光器土偶だ!
頭に着けたカチューシャとゴーグルはメカ風に成ってるが、遮光器土偶の頭部とよく似ている。
青銀色に光るセーラー服に付いた縄文模様も、遮光器土偶のソレだ。
肩の部分から連結してる何処が砲口なのか判断しかねる銃みたいな武器は、以前見た時と形が違う事から、どうも変形できるみたいだ。いや、ボディー全体が変形できそうな感じがする。
前見た時も足や手が変な方向に曲がって変わった格好で武器を放っていた。
とりあえずこの人形達の中では、一番萌え系と言うべきか…
「チャミは遊びに行くんじゃ無いっチャ。秋葉原行って流行りの人形を自分の目で見て、次の作成の参考にするっチャ。それにミョーミョーは勝手な事ばかりするから連れて行けないっチャ」
「ドルドル…これ、
ミョーミョーはさっき携帯と一緒にテーブルの上に置いた、車の鍵をのぞき込んで俺に聞いてきた。
「ああ、そうだよ…」
「ミョー!メタメタメタルメタモルフォーゼ!」
「あー!ダメっチャ!ドウル君!金属系の物は隠すっチャ!」
「えっ?」
ミョーミョーの
ゴーグルの横一文字だった瞳のような部分が、縦に成ったり斜めに成ったりと動いている。と、見ている間に銃が付いてない方の左腕が変形したかと思いきや、俺のキーレスキーを包み込み、複雑に絡み合って行く。
あーしまった!変形って、他の金属類や合成樹脂と合体できるんだ!コイツ!
気付いた時にはミョーミョーの左腕はキーレスキーのリモコン部分となり、手や指は無くなって鍵先になっていた。
完全に俺の車の鍵と融合しやがった。
クソッ…ちょっとカッコいい…
「シャキーン!ミョーミョーも一緒に行っくよー」
「ハァ~…仕方ないっチャ。その代わり絶対に大人しくしてるっチャ!!」
「ハーイ!ミョーミョー!」
後でちゃんと返してね。この鍵泥棒。
俺達は食事を終えると、秋葉原行って見学が終わったらすぐに帰るという約束で、東京に向かう事にした。取材は車の中で進めよう。
「ハンドメイド。もし
「かしこまりました。ご主人様。行ってらっしゃいませ」
ハンディーに見送られ、俺達はチャミ家を出た。
俺のリュック内は、二体の人形が増えたのでとても重い。特に金属の塊の方。
「さて…どう撒くっチャか…」
「?」
少し歩き出した時、小雨が降り出した。
「あっ!天気予報の奴、降らないって言ってたのに…」
「ほら見ろ。ミョーミョー!テメェがテルテル係を途中でブッチするからだぞ!」
「でもこれでチャチャの実験は大成功だー。ミョーミョー」
「ああ!そうっチャ!ミョーミョーが途中でテルテル坊主を止めたから雨が降ってきたっチャ。つまり今までテルテル坊主が効果有ったという事っチャ」
「流石我らがマスターチャミだ。これでマスターが作った人形は、テルテル坊主としても使える事が立証されたな」
「もう60パーセントの確率で雨を止めてるっチャ。これは間違い無いっチャ」
…山の天気で確率60パーセントって、偶然の範囲内じゃ?
何か又本当に魔法使いなのか疑わしく成ってきたぞ。この子…
リュックから首だけ出した二体の人形と、雑談しながら暫く歩いていたチャミさんが、急に立ち止まった。
「どうしました?まさか悪霊じゃ…」
「シッ!その茂みの中に隠れるっチャ…」
そう言ってチャミさんは、しゃがみながら
「あそこに人がいるっチャ…」
指差す方に三人の人影と、犬が一匹いた。
「何でしょう?犬?猟師にも見えないし…何かの捜索でしょうか?ひょっとして自殺者の捜査とか…」
「違うっチャ。あれはチャミの警備の人っチャ」
「えっ?」
「チャミが用事も無いのに勝手に樹海から出ていかないよう見張ってるっチャ」
「ああ、じゃあ環境省の人…ちょっと待って下さい。じゃあ、東京行くのマズいんじゃ無いですか?」
「でも、行きたいっチャ。たまには自由に外出したいっチャ」
「マスターチャミ。これ、コイツの髪の毛」
「サンキューっチャ」
コイツの髪の毛?
ビーが何やら数十本の人間の髪の毛らしき物をチャミさんに手渡した。
……………
それ…俺の後ろ髪だよね?いつカットしてくれと頼んだ?リュックの中の美容師さん…
「ドウル君。足元の枯れ木を渡して欲しいっチャ。そう、その長いやつっチャ」
チャミさんに言われ、長い枯れ木を数本渡した。焚き火でもするのか?
「ドウル君に特別に面白いものを見せてあげるっチャ。人前では滅多に見せないっチャ」
そう言ってチャミさんは枯れ木を紐で縛っていく。一つは俺の髪の毛と一緒に縛り、もう一つは抜いた自分の髪の毛と一緒に縛り…
枯れ木を組み合わせ、人型が出来ていく…
「木の人形…」
チャミさんは出来上がった二体の木の人形に〝フッ〟と、息を吹き掛けてから地面に置き、両手をなぞるように数秒間翳した。そして指を曲げて、その手を上げた。
「
声を掛けると枯れ木の人形が立ち上がった。
胴、足、手しか無い本当に簡易的な人形だ。もちろん関節部分も無い。
立ち上がるのも、まるでチャミさんに見えない紐で引っ張られるかのようだった。
「向こうに歩くっチャ」
言われ、枯れ木人形は不器用に歩いていった。
枯れ木人形は犬を連れた人達にすぐに見つかり、犬が向かって来る。
すると人形達はスピードをあげて逃げて行く。俺達とは反対側へ…
枯れ木人形の後を追う、犬と三人の人達…
「警備員とワンちゃんには、あの人形がチャミ達に見えてるっチャ。今の間っチャ」
人形を意味する古い言葉だ。
その語源は諸説有るが、『くぐ』は『木』の古い言い方の『くく』から来ているのが定説だ。
万葉集に木の
人類が最初に作った人形は、紙や土器みたいな材料に過程が必要な物では勿論無い。加工しにくい石や骨でも無く、やはり単純に木だったと思われる。
遥か何万年も前、人間が木で作った物の中に、人形は当たり前のように生活に有ったのだろう。
傀儡…木の人形はまさに人形の原点だ。
「あれは即興で作った只の
因みに
「どうかしたっチャか?」
走りながら微笑む俺に、不思議そうな顔でチャミさんが聞いてきた。
「いや…間違い無く魔法使いだと思いまして…」
人形達は現代科学の機械仕掛けロボットなんかじゃ無い。
本物だ。
人形を作って操る本物の魔法使いが
実感が込み上がると、この陽射しを遮断しながら独特の
樹海…この都会では決して見ることが無い現実離れした光景は、目の前を走る白いチュニックワンピースを着た少女が造り出したまやかしの世界、もしくは神が籠もる為に作った特別な異世界なのかも知れない…
そうだ…もしかしたら俺は、いつの間にか異世界に紛れ込んでいたのでは無いのか?
不思議な錯覚に襲われる…
だが摩訶不思議な体験は、まさにこれから佳境に入る事に成るのだ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます