何を見たのか

 僕は、美夏さんとともに三条の河原町通りを歩いていた。ふと、辺りがいつの間にか暗くなっていることに気づいた。そして前から一人の女の人が僕の方へ歩いて近づいてきて、迷子になってしまったのですが、ここはどこでしょうかと尋ねてきた。僕が女の人の持っている地図で現在地を指さして示そうとすると、その女の人は、突如として顔が赤くなり、頭に角が生えたかと思うと、耳元まで裂けている口を大きく開けて、僕を一口に飲み込もうとした。逃げたい。けれど恐怖のあまり足が動かない。助けてほしいけれど声もでない。もうだめだ、飲み込まれてしまう。そう思って、思いっきり目をつぶった……


 はっとして目が覚めてからだを起こすと、美夏さんの家の泊めてもらっているあの部屋にいた。あれは夢だったのか。なんだか妙に生々しくて、本当に鬼に飲み込まれてしまうかと思った。今日、飯食わぬ女の話とか一条戻橋の話を聞いたせいだろう。いまだに心臓がドキドキと動いている。部屋は暗く、どこかに鬼が潜んでいて、今襲い掛かってきても不思議ではないような感覚がある。もしくは、後ろにある窓から鬼が僕をのぞいているような感覚さえある。そう思うと急に恐ろしくなってきた。布団に潜ろうにも長く潜ると息が苦しい。いっそのこと、振り返ってしまおう。僕は、はっと後ろを向き、窓を見たが、窓は暗いままで何も見えず、鬼も見えることはなかった。

 僕は、深呼吸をして息を整えた。よく考えてみれば、鬼は空想上の生き物のはずで実在しないはずだった。布団に入ってからしばらくして落ち着くと、僕はいつのまにかもう一度眠っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る