手掛かりは何か

 昨日から泊めてもらっている家に戻ると、秋ちゃんが居間で勉強しているらしかった。古典の文法書が机の上に置いてある。

「なんの勉強してんの」

「明日の補習の予習。ほんまに、なんで休みやのに勉強せなあかんねんと思うわ」

「なんの話なん」

「ざいげんごうへいが女の人をパクる話や」

「ああ、伊勢物語。女の人が鬼に食べられるやつやっけ」

 姉妹がこうして話しているところを後ろからみていると、しっぽがちょろちょろと動いて、本当に猫同士でじゃれあっているように思えるから不思議だ。猫を飼ったことはないけど、こんな感じなのだろうと幸せな気持ちになる。見ているだけでいいのだ。しかも2人ともタイツを履いている。秋ちゃんは、こたつ机に向かってぺたんと座っているけれども、後ろに伸びる脚にぴったりとはりつき、素足が少し透けて見える感じがなんとも言えない美しさである。美夏さんも膝立ちになって、スカートの下から見えている脚は、細すぎず、そしてほどよい筋肉がついているようで、そのすらっとした感じがタイツによって強調され、とても綺麗に見えた。完全とはこのことである。

 しばらくして、美夏さんの友人らから連絡が来たようで、次の日から順にその友人らのおばあさんの家にうかがうことになった。

 そして、その日の夜。夜ご飯の代わりとなる桃を例の下鴨神社の地下で一人寂しく食べ、部屋に戻り、特にやることもないので、図書館で借りてきた本を読んでいた。

その時のことである。

「笠井くん、お風呂空いたからどうぞ」

「あ、はい」

 そう言いながら声のした方を見ると、ドアを少し開けて、真紀さんがタオルを一枚巻いた姿でこちらをのぞいているのが見えた。突然手の中で本が暴れだし、手もそれに合わせて踊ってしまう。

 空いているドアからは右肩と右脚が見えていたが、右手でタオルを支えているようで、その手は白く、その支えている様子から、胸の少し大きい感じが伝わってきた。右胸の少し上のあたりに、ホクロが1つ見えた。タオルの下からは太ももがのぞいていて、その太ももは細すぎずに太く、脚は、色白で、筋肉がほどよくついて引き締まっていて、美夏さんと同様にとても美しかった。タオルのすぐ下には、少し暗い部分が広がっていて、もっと見たいという探究心を駆り立てる。しかし、その見えないということが僕自身に空想するように促し、美化したうえでタオルの奥にある宇宙のすべての神秘が詰まった場所として想像させるのだ。タイツは、脚を完全ではない形で覆い隠すことによって美しさを強調し、我々に魅せてくるが、素足、何も身につけていない脚は、完全に見えることと見えないことが合わさって強調し、我々に魅せてくるのであった。

 僕はその後風呂に入ったが、お湯に浸かったとき、あの3姉妹が浸かった水なのだと思うと、なんだか3姉妹に包まれている気がして興奮してきて、風呂のお湯を一口飲みたくなったが、それだけはさすがに我慢した。

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