第11話「役割分担」

 今日からはランデーグさんのパーティーの一員として初めての仕事だ。確かウルフ狩りとか言っていたかな。下位五種族にも属さない獣族。しかし、油断はできない。ランデーグさんが俺たちを勧誘したのは、ウルフの群れに仲間を殺されてしまったからだ。どういう風に狩りをするのかはまだ分からないけど、安全第一でお願いしたいところだ。


 コンコン……と部屋の扉がノックされる。ココハからの準備ができたという合図だ。俺は背中の剣を担ぎ直してから部屋を出た。二人で集合場所の北門へと向かう。


「緊張してる?」

「…うん」

「パーティーって何人くらいいるのかな?」

「…………」

「慣れるまではフォローするからさ、また一緒に頑張ろうね?」

「…うん、ありがとう」

 頷きながら返事もしてくれた。


 ココハを見ていると自分の緊張感は薄れていく。それが良いことなのかは分からない。彼女を利用しているみたいで気持ちよくはないし。


「坊主! 嬢ちゃん! こっちだ!」

 ランデーグさんの声が聞こえた。


 北門の前には、他にも何人かいるみたいだ。俺たちは急いで駆け寄った。


「おはようございます! すみません、遅かったですか?」

「いいや、問題ねぇよ」


 良かった。初日から遅刻なんて新人の俺たちには許されないだろうから。


「みんなに紹介する。今日からオレたちの仲間になった、剣士フェンサーのレイトと術士メイジの……何だったか?」

「…………」

 ココハは緊張で固まっている。


「えっと、ココハです」

「そう、ココハだ。二人ともまだ若いが仲良くしてやってくれ」

「おいおい……大丈夫なんすか? どう見たってド新人じゃないっすか」

「うむ……」

 身軽そうな服で短剣と片手剣の中間ぐらいの長さの剣……いや、刀を持つ栗色の短髪男と、兜や鎧で全身を覆っている重装備の男が、品定めするような目で俺とココハを見ている。


「まあそう言うな。これから育ててやればいい」

「あら、子育てをするのかしらあ?」

 そう言ったのは、黒髪ロングで青いローブを着た女性だ。


「たまにはこういうのも悪くねえだろ?」

 ランデーグさんはそう言ってガハハと笑った。


「あの、すみません。そちらの方たちは……その」

「おう! オレの仲間だ! 紹介するぜ。まずはクテル、クラスは暗殺者アサシンだ。偵察や隠密行動、奇襲攻撃などを得意とするサポーターだな」

「ふん」


 短刀を持つ男。威張ったような態度で俺の苦手なタイプだ。


「次にイングラ、クラスは重戦士アーマー。見ての通りのディフェンダーだな」

「うむ……」


 全身重装備の男。兜で顔はよく見えないが、この人は無害そうだと思った。


「こいつはドリン。クラスは僧侶ビショップでヒーラー。そして、オレの奥さんだ!」


 奥さん……二人は結婚しているのか。同じパーティーで仕事をしているのだし、まぁ中にはそういう冒険者もいるのだろう。ドリンさんは三十代くらいかな? クテルさんは二十代くらい。イングラさんは兜をしているし、無口なのでよく分からない。


「最後に、このパーティーのリーダーはオレ。クラスは闘士ウォーリアでアタッカーだな。改めてよろしく頼むぜ!」

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げる。ココハも同じようにしていた。


 こうして俺たちはこのパーティーに正式に加入した。ようやくだ。


「それじゃあ行くか!」


 ランデーグさんを先頭に北門を潜り、コイマの森があるという北東を目指す。街の外に出るのもこれが初めてだ。ナナトさんが言っていた街道は北門の道にはなかった。王都や港町の方角ではないからだろうか? 街の周辺は整備されており草木もなかった。しかし、少し離れると急に足場が悪くなる。見た感じでは平地なんだけど、歩いてみるとデコボコ道だったりして妙に疲れる。


 それでも街の中からでは見れなかった壮大な世界がそこには広がっていた。遠くに見える山や、これから近くまで行くであろう森など……それらは想像していたよりも幻想的で美しく、現実とは思えないような気がした。そんな景色を見られただけでも感動で疲れを忘れられる。


「あの、一ついいですか?」

「なあに?」

 一番近くにいたドリンさんが返事をしてくれた。


「アタッカーとかディフェンダーとかってなんですか?」

「あらあ」

「おいおいおい、そんなことも知らないとか本気でド新人だな」


 クテルさんの言い方にはさすがにムッとしたが、間違ってはいないし加入して早々に揉めたくはないので我慢した。


「パーティーの役割よお。アタッカーは攻撃をして敵を倒す人。ディフェンダーは敵を引きつけて味方を守る人。サポーターはそれらを援護する人。そして、ヒーラーは仲間の傷を癒す人なのよお」


 なるほど。仲間と共闘するというのは、役割を分担して効率よく戦うということなのか。俺は剣士フェンサーだし、やっぱりアタッカーなのかな? ココハは……なんだろう、サポーターかな?


「レイトくんはそうねえ、アタッカーかしらあ?」

「いや、そいつはサポーターじゃないっすかね?」


 クテルさんがそう言うと、ランデーグさんが振り返った。


「クテルの言う通りだ。まずはサポーターとして戦い方を学んでもらうことになるな。アタッカーにするかどうかはそれから決める」


 サポーターか。アタッカーとしていきなり前線に出るのはさすがに危ないのかな? これでも俺は神聖騎士ディバインナイトの団長に指導してもらった経験もあるんだけどな。


「ココハちゃんはどうかしらねえ? 術士メイジなんでしょう? 属性は何かしらあ?」


 属性……そういえば俺も知らない。今になって気がついたがココハは武器らしきものも手にしていない。俺は片手剣。ランデーグさんは大型の剣。クテルさんは短めの刀。イングラさんは片手斧と盾。僧侶ビショップのドリンさんでさえ杖を持っているのに。


「嬢ちゃん、属性が分からねえと役割を振れねぇ。教えてくれねーか?」


 ココハは下を向いたままだ。何とかフォローしてあげたいけど。


「ココハ?」

 そっと声をかけてみる。


「…風、です」

「風? なんだよ、使えねー属性じゃねーか。火属性とまでは言わねーけど、せめて地属性くらいは欲しかったな」


 なっ! ダメだ、我慢できない。感情が理性を超えて振り切ってしまう。


「そんな! そんな言い方ってないじゃないですか! ココハだって別に好きで風を選んだわけじゃないんです! それに、風のどこがダメなんですか? 俺はココハらしくて良いと思いますけど!?」


 ……無言だ。沈黙の時間。やってしまった。新人の俺が生意気にも口を出してしまった。でも、我慢なんてできなかったよ。


「クテル、今のはお前が悪いぞ?」

「そうよお、こんなに可愛い子じゃなあい」

「いや、容姿には触れてねーっすよ。悪かったな、新人。風属性はウルフとは相性が悪いってだけだ。でも、こういう性格だからよ、仲良くしようとは思わなくていいけどな」


 そういうことだったのか。それにしても、言い方とかは考えてほしい。これ以上の言い争いはしたくないから言わないけど。


「いえ、こちらこそ生意気なことを言って、すみませんでした」

 頭を下げてみたが、返事はなかった。


 頭を上げ視線を横に向けるとココハが泣きそうな顔でこっちを見ていた。俺は少し無理をして笑い、大丈夫だよという風に頷いてみせた。ココハは首を横に振っていた。それがどういう意味なのかは分からなかった。


 街を出てから三十分ほど歩くと、森が見えてきた。コイマの森。この辺りはあちこちに岩場がある草原になっていて、群れから追い出された小狼レッサーウルフが生息しているという。今日はその小狼レッサーウルフとの戦闘で俺たちの実力が試される。初めての実戦というわけだ。

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