第四十六話『首絞めネフリス』
世界を破る勢いで、アサナトさんは、気付けばそこに居た。
「アサナトさん!?」
砕け散る脳症の雨の中で、僕はそう言い放っていた。
横の、異国人である瑜以蔵さんの事すら忘れて。
ーー瞬間。
「……は?」と言わんばかりのアサナトさんの眼光が、僕に直撃。
僕が『やってしまった』と自虐する前に、三方向から囲み円陣を組むが如く、見上げるほどの巨人が出現。
「……あ〜あ。まじか」
周辺の建物を陥没させる勢いで出て来た巨人達は、先程の魔物と比べ、数倍の体躯を有している。
そんな三体の巨人は、かなりの死臭を放ち。
顔がボロボロのその臭い生物は、正に死んでいる様だった。
しかも、そんな死体は魔法を発動しかかっている。
なんの魔法かは分からない。
けど、三体の巨人の魔力が強張っているし……。
何かを口から吐き出す様な、えずく格好。
それに、脳漿を撒き散らして、僕の近くに降りてきたアサナトさんは言う。
「……あれは吐瀉物魔法だぞ。使い様無いし、汚ったないな、おい」
その言葉に、瑜以蔵さんは反応。
「まほ……うん?」
「今それを気にしてる場合じゃ……って、来るぞ!」
巨人の滾る魔力が収束する時。
えずく魔物は、吐瀉物魔法という誰得な魔法を展開させる。
途端、巨人の口から放たれる吐瀉物魔法。
口から銀が流動する。
燃え滾る銀は、世界すらをも発火させん。
それが標的へと、雨の様に降りかかる時。
……銀は凍結する。
「……!?」
世界を燃滅する銀は突然、凍り付いた。
同じく、世界を凍て付かせんとする氷海によって。
映るのは、見渡す限りの氷の海。
何処からか、なんの前触れも無く出現したその氷は、例外無く全てを凍らせていた。
そう。例外無く。
上空に展開された氷は、その延長線上にある巨人と銀、それら全てを凝結させていた。
「……は」
理解出来ない事象に、僕は絶句する。
矢先、海は儚く散った。
砕け、降りしきる『巨人だったモノ』の中に、僕は人影を発見した。
弾頭の如き勢いで飛来したソレは、僕達の前にて邂逅した。
それは、僕にとって見覚えある姿をしていた。
水色の艶めく髪。
サラサラの白い肌。
凍てつく冷気を放つ刀を携えたその姿は……。
ユーリさんだった。
「あ、ユー……」
横には瑜以蔵さん。
異国人の名前を口を滑らせかけた僕。
そんな僕は今、どうなっているかというと。
(……少し黙ってろ)
アサナトさんに、全力で首と口を締められている。
「ゴ!ムゴゴ!!!」
暴れる僕。
それを胸に、アサナトさんはユーリさんと会話を交わす。
「ああ、一ヶ月ぶりだな」
「ですね、元気でしたか?」
「こちらは無事だ……と。馬鹿も終わった様だ」
ユーリさんの背中から、戦いを終えたばかりのイェネオスさんが登場。
再会最初の第一声が『馬鹿』なのだから、イェネオスさんは当然……。
「馬鹿って、ひっでえな」
怒る。睨む。
明らかなる、火の打ち所もない罵倒は、どんな人物でも見過ごせはしない。
「実際そうじゃーーー」
当然過ぎる反抗に、何故かアサナトさんは煽り返そうとしたけど……。
「お主ら、随分と仲がいい様だが……トカゲの知り合いかなんかか?」
瑜以蔵さんが、そんなピリついた会話の内に踏み入った。
瞬間、僕の拘束が解ける。
ごほっ。がはっ。
首が呼吸を思い出し、僕は四足で咳込む。
完全に病人に近い僕をユーリさんは心配してくれるが、その横でアサナトさんは瑜以蔵さんと打ち解けていた。
「まあ、そんな所だな」
「ふぅーん。お主。儂と同じ臭いがするな……」
「……ほー。確かにな……」
瑜以蔵さんの怪しい視線が、アサナトさんを撫でる。
それに、アサナトさんは眼光を放った。
初対面なはずの二人は、もう既に握手を交わしていた。
ゴホゴホ、と僕は咳込む中で、僕は思った。
(あ、これ……合わせちゃいけない人達合わせちゃったかも)
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