第四十四話『邂逅する剣達』
「トカゲぇ!まだ終わっとらんぞ!」
安堵しきった僕の耳に、瑜以蔵さんの叫びがこだまする。
ふと顔を上げると、そこには音魔法を放っている死神の姿が。
目を霞ませる様な波動。
能力はもう、三十秒のクールタイムに入っていた。
避けることは既に出来ず。
それについて脳内会議を開く暇すらも無かった。
完全に、僕は硬直時の隙を突かれたのだ。
ーー死を悟る。
瞬間、頭を破る音魔法が僕の顔面に直撃した。
「がは……ッ!?」
血飛沫が僕の額から飛び散る。
破れ行く鼓膜。
僕の世界から音が無くなっていく。
赤い彩色を施された視界の中、僕は死神の輪郭だけを感じた。
……だが、それだけだ。
額は軽く抉られる程度、鼓膜が破れる程度で済んでしまった。
それは、瞬時に強化魔法を額に展開したおかげだ。
僕の額に映る白い魔法陣。
それが僕の額を保護し、致死級の音魔法の波動を阻止したんだ。
……だが頭が異常に痛む。
昏倒しそうな視界の中、僕は空中に揺らぐ三つの剣を捉える。
あれはさっき、僕が打ち上げたあの剣達だ。
頭痛に揺らぐ視界の中、僕は直ぐに剣を纏めていた拘束魔法を解除。
追撃は無い。
横を見ると死神は音魔法の次弾装填中だった。
致命傷を受けた所為で魔力の練り上げが上手く行ってない様だ。
……よし。
あれなら、二呼吸ほどの猶予がある。
……でも裏を返せば、二呼吸までに終わらせなければ多分僕は死ぬという事。
さっき死神が僕に放ったのは、相打ち覚悟の必死の抵抗だった。
それを受け切ったお陰で、死神は今多大な隙を生んでいる。
でも、僕も動かなければ直ぐに死ぬんだ。
僕は脳震盪を起こした体に鞭を打ちながら、死神を蹴りで数歩ほど後ろに吹っ飛ばし、覚悟を決める。
死神が僕に仇を成す、超えねばならぬ敵だというのなら僕も……。
ーー決死の覚悟で、それに答えるだけだ。
一箇所に集められた三つの剣は拘束を失い、バラバラに降下する。
先ず僕は再び回し蹴りの原理で空中で体を回転させ、音の剣を弾き飛ばす。
音の剣はそのまま空を割き、死神の足へと突き刺さる。
「……」
呻き声も上げずに死神は跪き、隙を露わにする。
ーー続いて。
僕は二対の剣を手にする。
それは、今まで相対して来た死神と僕の、正反対の性質を持った刀剣達。
でも今は、その両方が僕の手の内にある。
ライバルの剣を使い、ライバルを打ち倒す……。
良いシナリオだ。
……そして、二本の刀剣が空中にて交じった。
切り裂いたのは僕の紅刀と、死神の黒剣。
雷鳴のように空中で回りながら斬り去った僕は、死神の背中の裏にて勝利を確信する。
手応えはあった……僕は全力を尽くしたんだ。
……瞬間、後方で飛び散って行く黒色の魔力。
それは、死神の絶命を意味していた。
「……ふっ」
二人の果たし合いの合間に、瑜以蔵さんの声が混じる。
そして瑜以蔵さんは僕の耳が聞こえないのを良い事に、呟いた。
「……やはり、死神は一人で良いな。付き合わせるのは……癪だったが」
僕は、地面に沈み行く死神の姿を見て、果たし合いに終止符を打ったことに安堵する。
安定しない視力。
聞こえない音。
視界を覆い隠す程の血糊を僕は撫で……。
ーー瞬間、倒れた。
※
少し方向性に悩みが出てしまったので、じっくりとストーリーを考える為、三日ほど更新を停止します。
誠に勝手ではありますが、少し自分の作品に疑問を抱いてしまったので……申し訳ありません。
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