第四十一話『魔剣召喚の極意』
巨漢の魔物を斬り伏せ、そのまま進んだその奥。
そこには、六つに枝分かれした通路がこちらを待っていた。
寸前まで行って途切れた血痕。
イェネオスさんの魔力もそれと同時に、ここで途切れていた。
「六択となりおったか……」
「そうですね」
今まで歩を止めなかった僕達は久し振りに止まった。
「これ、外れとか無いよな?」
「困りどころですね……」
僕達は止まったまま、出来るだけの最善の選択をしようと熟考する。
だが、瑜以蔵さんのイラつく様な叫び声がそれをかき消した。
「ああ!うざったらしいわ!トカゲェ、こっち行くぞ!」
是が非かも問わず、瑜以蔵さんは頭を搔きむしりながら、イラついた様な歩みで通路の奥へと消えて行った。
そんな瑜以蔵さんが入って行ったのは、右から見て二番目という、中途半端な通路。
だけど、既に通路の奥へと消えてしまった瑜以蔵さんを止める術は失われていた。
「ちょっ……ちょっと置いていかないで下さいよー!!」
僕は子供の様に涙目になりながらも、消えた背中を愚直に追って行った。
♢
待っていたのはなんだと思いますか?
そう。魔物です……。
案の定か、運命と言うか。
兎に角、生きながらえる為に戦ってはいるのですが……。
「量、多すぎないですかこの変態さん!数百体は居ますよ!?」
囲まれている。裸の成人男性の様に破廉恥な姿をした、変態な魔物達に。
……確かに、隠す所は隠しているんだけど……出来れば直視したくない。
「ぬぅ……伏せろ、トカゲ」
円陣の真っ只中にいる様な圧迫感を感じる人混みの中で、瑜以蔵さんの刀が光る。
構えは一ヶ月前、瑜以蔵さんが最後に僕に放った、能力中でも動いた最速の剣技。
抱え込む様に持たれたその刀から放たれる銀光に、僕は咄嗟に伏せる。
瞬間、僕の頭上を掠め取る空気。
体が一瞬傾く程の気流を発生させた、その刀は……。
ーー僕達を囲っていた、数百体程の居た変態達の腹わたを一刀で両断していた。
総て。
瑜以蔵さんの刀の間合いを外れた所にいた魔物にすら、その凶撃は伸びる様に届いていた。
……以前見た、エセウナさんの伸びる峰打ちと似たものを感じる。
瑜以蔵さんは、大量に散る血飛沫を刀で斬り、返り血を防ぎながら、僕への返り血も弾いてくれた。
その刀での返り血のカット率は、驚異の百パーセントカット。全く僕達には返り血が付かなかった。
……が、倒れた魔物達から滲み出てくる血は防げない。
僕は咄嗟に体を上げ、血のプールに浸かるのを防いだ。
けどまあ、足には若干血がついたけど。
僕は地面に沈んで行く上半身と下半身がお別れした変態達を見ないようにしながら、瑜以蔵さんに感謝する。
「ありがとう御座います……と言うか良くやりましたね」
「儂の剣術を舐めるでない。儂の剣は、意外と集団戦に向いてもいるからな。もっと褒めるといいぞ」
ガッハッハ、と笑う瑜以蔵さん。
「……楽しそうで何よりです」
取り敢えず引きつった相槌で僕は
「……ん?」
瞬間、さっきまでのお気楽そうな顔とは打って変わり、目を強張らせ、通路の奥を見る瑜以蔵さん。
その視線の奥には、闇が滞在する。
「……?どうしーーー」
被せるように。
砲弾の様な勢いで、波動の様な音魔法がこちらへ向けて飛んできた。
同刻。先頭の瑜以蔵さんが咄嗟に音を両断する。
でも、切った瑜以蔵さんの右肩からは少量の血が飛び散った。
「くっ……受けきれんかったか」
「大丈夫ですか!?」
「なあに、かすり傷だ。心配要らん」
ホッと安堵する僕。
そんな会話が交わされる奥で、奥の影は揺らいだ。
「来おったか……」
冷や汗を流しながら、瑜以蔵さんはその影に笑い掛ける。
瞬間、影から秀でる黒い影。
それは、正に死神と言うべき魔物だった。
ボロボロに破れた黒コートに、黒い手から伸びるは、魔剣の様に黒く光を捻じ曲げる黒剣。
顔は漆黒に包まれ、フードを被っており、目であるはずの部分からは赤色の光が怪しく煌めいていた。
魔力も怪しく真っ黒で、黒尽くしの魔物だった。
「死神……」
気付けば、僕はそう呟いていた。
「異様な雰囲気を感じるのぅ……気をつけろトカゲ。こいつはぁ……今までの奴等とは格が違う」
「分かってます」
僕は刀を強く握り込む。
だけど恐怖で震える刀。
……相手の圧に圧倒されている僕を笑う声が聞こえた気がした。
「おいトカゲ。お前の意思はそんなもんかぁ?雑魚になる気が無いならぁ……しっかりと刀を握れぇ」
ドクン。
心臓が高鳴る。
瞬間、僕の脳裏に蘇る言葉。
『正直に言うと、決意が弱過ぎる。お前の意思は特個と同じく、ただの雑魚に等しい』
時に、僕の胸が締め付けられている様な感覚を感じた。
……正直、図星だった。
意思は弱いと言われ、雑魚と言われ……。
さっきだって、瑜以蔵さんに助けられなかったらどうなってたか……。
だけど、侮辱に対しての否定は出来なかった。
でも、今なら。
自分より格上の存在と相対している今なら。
ーー何処からか、戦意が湧いてくる気がする。
一身に、目の前の敵を意識さえすれば。
瑜以蔵さんの言葉の通り、しっかりと刀を握れば。
身の内から噴き出る戦意に身を任せ、その他の意思を放棄すれば。
戦い、生き延びる。
死なず、敵を打ち倒す。
そう思えば思うほど。
……直ぐに、僕は刀を投げ捨てたくなった。
だから、僕は投げ捨てた。
そして、本能の赴くまま。
「感情承認【
……僕は、遂に魔剣召喚にまで手を届かせる。
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