第三十六話『一ヶ月経過……』
「じゃあ教えてやんよ。先輩の私から見たあんたの特個の特徴を」
「……どうぞ」
僕は緊張の高まりを感じ、固唾を飲み込んだ。
「正直に言うと、決意が弱過ぎる。お前の意思は特個と同じく、ただの雑魚に等しい」
「雑魚って……」
出て来たのはただの悪口だった。
口がかなり悪いが、変な事を言ったら殺されそうで、それ以上は掠れた声しか出なかった。
気にせず
「師匠から聞いただろうが、特個ってのはお前の精神や存在そのものだ……神などから与えられたに過ぎない無機質な力じゃ無い……」
椿赤さんは感情的に左胸を握った。
「『心そのものなんだよ』」
僕はその語りかける様な姿に、気付けば浸っていた。
「お前が闘気を燃やせばそれに共鳴し、能力は力を増す。怒りに身を任せれば、能力は暴走する……」
椿赤さんは悪夢を思い出すかの様に軽く目を伏せ、振り払う様に言った。
「……まあこれら全ては私に該当するだけで、お前がそうとは限らない……だが、少しくらいは当てはまるはずだ」
「でも、どうすれば……?」
すると、椿赤さんは同情する様な顔で笑いながら呟いた。
「愛いやつだな……。それなら、思いつく全ての策を使え。どんな不可思議な力を使っても、お前が死なない限り、特個は大丈夫だ」
椿赤さんは木陰から立ち上がり、僕に「じゃあな」と手を振りながら僕の横をすり抜けて行った。
「ちょっと待っ……ッ!」
僕はあまり納得出来ずに背後を振り向いた。
……だが、そこにはもう誰もいなかった。
「消えたって……はあ。自分で壁を乗り越えろって事ですか」
悟った様に僕は呟く。
そして、さっきの会話を思い出す。
「確か、どんな不可思議な力を使っても大丈夫って言ってた気が……ってそう言うことか」
僕は忘れないように、おもむろに剣を取り出す。
……いや、剣じゃなくて日本刀だったか。そう教えられたのを忘れかけてた。
とりあえずこれは真剣だ。
しかも、普通の剣よりも切れ味が凄まじい日本刀と言う剣だ。当たればスパッと、簡単に切れる。
これは、僕の能力を鍛えるために持たせてもらっている。
まあ、そんな事はどうでも良い。
大事なのは、能力の反動を抑える手段のヒントが浮かんだと言う事だ。
僕はその術を展開する。
……そして、僕は刀を上空へと投げた。
右腕を差し出し、僕は待機する。
それは、地点を境に重力で落下し始め……。
瞬間、遅延する時間。
近辺の舞い落ちる木の葉は、空間を切り取られたかのように押し止まり、こちらへ来る刀は、銀光を放ちながら刃を向ける。
そんな遅延した世界の中で、僕は浮く刀を手に取る。
ーーそして舞い散る木の葉を全て、僕の刃は分け隔てなく両断して行く。
疾風の如く素早く。
雷鳴のように力強く。
たった一.五秒の世界で、銀光は筋を描きながら空間を逐電する。
それらを切り終えた時にはもう、能力は終了していた。
「ふぅ……」
時間を思い出したかの様に、二つの破片となって舞い落ちる木の葉達。
即刻、僕に来る反動。
だがその反動は以前のものとは異なり、動けなくなるまでの体力消費ではなく、ただ息を若干荒げる位の体力消費で済んでいた。
それが分かった時には、僕は軽くガッツポーズを取っていた。
「……良し。やっぱり効果ありだ」
僕は呼吸を確認しながら剣を収め、続いて呟く。
「身体強化魔法と能力の複合……そんなもの考えたことも無かったよ」
そう。僕は強化魔法と、魔力で体を覆ったら、少し体が強化される事を駆使して、全力で能力の反動に挑んだんだ。
……効果はあった。
心臓の鼓動は基準値を少し上回るだけで、以前の貫く様な心臓の鼓動と比べてかなり消耗を抑えられている。
……大きな進歩だ。これなら、能力の連続発動も……三回程度なら大丈夫だろう。
不可思議な力を使ってでも……と言われなければ気付けなかった事だろうな。
まあそもそも、僕の能力は時間を止めてはいないと気付かされなければ、魔法を使おうと言う発想はおろか、魔力で体を覆うなんて発想すら出てこなかったと思うけど。
時が止まっていたら、魔力すら動けないんじゃ無いかと思い込んでいたからね。
だけど、僕は結果的に壁を超えられた。
まだ反動を完全に無効とは行かないけれど、それでも……僕は進歩した。
「……じゃあ、次は刀の修行かな」
だけどこれで終わるわけには行かない。
僕は能力だけに頼るんじゃなく、身体をも含めて使い熟さねばならないんだ。
それはアサナトさん達の仲間に相応しい存在へとなる為。このままでは軽く劣ってしまっているからね。
それをこの新しい剣……日本刀を使って新しく剣術を開拓し、強くなれれば……良いじゃ無いか。
僕は軽く鞘を弄っている際、それに気付いてしまった。
「……あれ?」
この日本刀って剣、以前戦った阿修羅が持っていたものと同じような……。
そこで僕は悟った。
ーーもしかしたら、頑張ったら以前のように魔剣召喚も出来るようになるのでは?
♢
そう思った僕は僕は直ぐ、魔剣召喚の訓練に取り掛かった……けど、直ぐには成就する筈もなかった。
あの斬れ味を再現出来れば。
あの時と同じ想像に身を任せれば。
能力の反動を抑えられたんだ。きっと出来る。
と、思って汗水流し、毎日僕は血を被る勢いで鍛錬を重ねて行った。
だけど気付いたら……。
「一ヶ月経っても尚、魔剣の魔の字すら見えない……おかしいでしょ」
……一ヶ月経っていた。
そして僕の言葉通り、全く進展が無い。
そもそも、迷走しているくらいだった。
ーー先の見えぬ絶望と共に、僕は後悔する。
「僕これ、努力する所間違えたりした?」
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