第三十五話目『自立して歩め』
瑜以蔵さんから『特個』という異能の存在について聞かされた。
そこから、僕はずっと自己鍛錬に勤しんでいる。
瑜以蔵さんも暇じゃ無いらしく、仕事やら何やらで、かなりの頻度で出かけて行く。
だから、教えを乞う暇なんてほぼ皆無に等しかった。
時々帰ってきた時に教えられるのは『自分の頭で考え、自分の特個に聞け。それでも分からないことがあったら、他の特個持ちに質問しろ』という一言のみ。
だがそれで納得せざるを得ない事を、僕は周囲を見渡して理解させられた。
それは……師の居ない中でさえ、自分で学び、壁を乗り越えて行く弟子達の姿を見たから。
そんな美しいとさえ思えるその姿勢は、決して間違っている訳では無かった。
本当に辛い時は仲間に助けを求め、結託して壁に立ち向かう。
そうやって自力で成長してきたんだと思わせる程、その様は実直で真面目だった。
時には笑い、戦い、結託する……。
師に付いて行くだけの弟子じゃ無い。
瑜以蔵さんの弟子は、自分の力で歩む事を教えられた、強い弟子だと言う事。
僕も、そんな強い人間に憧れた。
だからこそ、それらの師たる瑜以蔵さんの教えを、守ってみようかと思ったんだ。
♢
まず着手したのは、僕の能力発動に依る、異常な体力消費。
能力の反動の内容が『時を止めると言う自然の摂理に反する行動に依るもの』ではなく『異常に素早く移動している所為での体力消費』だと分かったからには、もしかしたら体力を上げれば反動の大きさも変わるのではないか……。
と思い、僕は体力を上げるためにランニングでもしようか、とも思ったけど、去年にも同じ事をしていたのを思い出した。
その時の僕の体はさほど今より強くなく、二キロ程走ったらバテるくらい、貧弱だった。
そこから能力に気付き、その反動をどうにか出来ないかと鍛えたけど……。
百キロ程度なら軽く走りきれる様になった体力の今でも、昔の頃の能力の反動の大きさと比べると、全くもって同じだと言うことが判明した。
どちらも動けなくなる位まで体力が削ぎ落とされる事が明白だった。
だから経験上、体をどれだけ鍛えても、その反動の振れ幅は変わらないと言う事が分かってしまっている。
僕は悩んだ。
「どうすれば、反動を抑えられるんだ……」
日光が差し当たる庭の中で、僕は一人思案に沈む。
そこに漸うと女性の人影が揺らいだ。
「迷ってるのか?自分の特個の行き先を」
「……!」
急いで僕はその方向を見る。
……其処には、幽寂と木漏れ日の下で座り込む女性がいた。
僕はこの人を知っていた。まあ知ったのはつい最近にだけど。
その赤色の着物と紅色の長い髪を携えたこの女性は、察しの通り瑜以蔵さんの弟子で特個持ち。
名前は
……道場内で最強と謳われる椿赤さんは『焔神龍威』と言う、焔と龍を操る特個を持っている……らしい。
その実物を見たことは無いけれど、それでもかなりの力を持っている事が、佇まいから見て取れる。
しかもいつからここに居たんだろう、この人。
「いつの間に!?」
……記憶ではさっきまでその木陰には、誰にも居なかった。
だが、ほんの一瞬だけ視線を逸らしただけで、そこにはもう椿赤さんが居た。
軽くホラーだ。
「そう驚くな。……特個の行き先を知りたいんだろ?それなら私が相談に乗ってやってもいいけど」
撫でる様に僕の顔を覗く椿赤さん。
いやらしい様な、露骨と言うか……。
「それならよろしくお願いします」
それでも僕は気にせず受け入れた。
それを聞いて一瞬椿赤さんが僕を睨んできた気がするけど……気の所為かな。
「ーーーじゃあ教えてやんよ。先輩の私から見たあんたの特個の特徴を」
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