第ニ十八話『行きたくねぇ……』
「……お前ら」
そこに居たのは……レフィナードとシリアンだった。
……箒掛けをしている。
こいつらが箒掛けをしているのが拝殿の横で……その背後には、かなり大きい本殿がどっしりと構えていた。
俺はそのまま本殿の様子を見て目を見開いた。
……拝殿の廃れ具合とはえらい違いだ。かなり綺麗だな。汚れのよの字もない。
だがまあ……本殿を綺麗にするのは良いが……一番気にするべきは拝殿だろうに。
「……これどうした?」
だから俺は本殿と拝殿の格差を親指で指差しながら聞いた。
するとレフィナードは、上品に頬に手を当てながら答えた。
「これもう神社の役目果たしちゃったみたいのよね。本殿は綺麗だけど、拝殿は残念ながら……白蟻ちゃんの巣窟になっちゃってるわね」
そんなレフィナードの言葉にエセウナは感心する様に、
「そうだったのか……だからこんなに汚らしいんだな」
そう頷きながら言ったが、俺はこの神社の話なんてどうでも良い事に気が付いた。
そこに『何故』こいつらが居る事が重要だろう!?
俺は焦る様に言った。
「って納得してる場合か!……何故お前らがここに居る!?」
だから俺はドシドシとレフィナードに歩み寄り、武蔵に聞かれない様にこいつの耳元で囁いた。
「ただ現地人ちゃんとお話ししてたら、成り行きで神社のお守りさせられてるだけよ」
「どうしてそうなった!」
俺は不満をレフィナードの耳元でぶちまけた。
だっておかしいだろ!?どうして現地人と話してたら神社のお守りをさせられるんだ!?
俺は意見をぶちまけ続けた。
♢
……そしてそんな様子を見ていたエセウナ達。
いつの間にかアサナト達の口論は喧嘩となり、口を引っ張ったり服を引っ張ったりなど、目も当てられない醜い争いが繰り広げられていた。
シリアンも、その喧嘩を止めようとはしているが、シリアンの静止の言葉を全く聞かないアサナト達。
その目には困惑の感情が見て取れる。
そして口論の場からは罵声や煽りなどが飛び交っている。
武蔵はその光景を見て、横のエセウナに話しかけた。
「あの……皆さんはお知り合いなんですか?」
その問いも当たり前なのだろう。
いきなり知らない人物達が出てきたと思ったら、アサナトがその人達と知り合いの様に言い争いを繰り広げているのだから。
それを察するとエセウナは軽く笑い、
「まあそうだな。親友だよ、あいつらは」
その言葉に再び武蔵はアサナト達の『ある意味で仲睦まじい光景』を見て、明るい顔で言った。
「仲が良いんですね!」
もしかしたら武蔵はあの喧嘩を本当に愛情表現とでも勘違いしているのか、とエセウナは思ったが、仲が良いのは流石に本当だ。
齟齬が生まれはしていたが、気にせずエセウナは二つの意味で笑いながら言った。
「ははは。確かにな」
そのエセウナの笑いと共に、更にキアと武蔵達は大きく笑い始める。
人の喧嘩を笑うのは良くないが、アサナト達は別だ。ああいう関係だから、いじっておく方がいい。
……そして、その笑いは喧嘩中の二人の耳にも入った。
「……はっ!」
アサナト達はやっと、自分達の喧嘩が笑われているのを感じ、恥ずかしさに頰を赤らめた。
笑いで平静に戻されて、それまで醜く赤子の様に言い争っていた事に気付いたのだろう。
すっと、ぎこちなく相手の衣服を直しながら、事態の収拾に図るアサナト達。
「……大丈夫?」
「あ……ああ」
ぎこちなく交わされる会話。その頬には赤みが走る。
まるで新婚の夫婦の様にぎこちない感じが、逆に面白さを引き立てる。
シリアンも完全に二人の喧嘩が収まったのを見て、安堵の顔をうっすら浮かべている。……一歩間違えれば彼女が喧嘩の中止の為、問答無用の武力行使で魔法を放っていた所だから。
ーーだが、裂くようなけたたましい打撃音がそれをかき消していった。
♢
「……なんだ?」
俺は打撃音に反応する。ちょっと驚きはしたが……。
……いや、そんな事はどうでも良い。
俺は周囲を見渡し、音源を探す。
ーーああ、あれか。
そして俺は見つけた。
俺の視線上にあるのは鍛錬場。
こじんまりとした大きさが目立つその建物は、熱気に包まれていた。
陽炎のように揺らぐ建物と、それから一定間隔で鳴り響く打撃音。それらも相まって異質な雰囲気を放つ鍛錬場がそこにあった。
ここは神社の土地の中だ。正確に言えば、以前神社だった、だが。
だったらあそこにいるのは……この寺の僧か?
見てみないと分からないが……近付いたらもっと打撃音がうるさくなるから嫌だというのが本心。
行きたくないオーラを身体中から醸し出す俺だが、そこで武蔵が口にする。
「あ、やってる」
と言って、武蔵は使命感を感じたように鍛錬場へと向かっていった。
「おい、どこに……」
轟音走る鍛錬場に向かって行く武蔵を止めようと俺は言った……が。
「来れば分かりますよ!」
とだけ言って武蔵は鍛錬場に入っていった。「お邪魔しまーす」と言って。
……帰ってこないところを見るとまじで行きやがったのは間違いない。
俺達はどうしようか……と見つめ合った。
するとレフィナードがぎこちない表情を浮かべながら、
「……行きましょうか。紹介したい子も居るし」
と言ってきた。
「あ……ああ」
危ない橋も皆で渡れば怖くない、とは言うので、行きはした。
……だが、激しい打撃音の度、行きたくねぇ……と言う感情も出てくるのも事実だった。
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