第二十七『早過ぎる合流』
俺達は武蔵先導の元、江戸の町をブラリブラリと散策中だ。レフィナード達が落ちたであろう南西へと。
だが、観光目的でもあるのは言うまでもない。
一度、江戸にはあるものを取りに密入国したが、あれを観光と捉えるのは些か問題があると思ってな。
だから今度こそ、と言う事で観光をしている。
観光しつつ、仲間達と合流出来れば最高だろうからな。
そして俺は街の雰囲気に触れ、呟いた。
「綺麗な街並みだな」
「江戸は本当に綺麗ですからね……」
その言葉に武蔵は頷いた。健気な笑みを振りまきながら。
……その通り、この江戸の町は綺麗だ。
キアがしゃいでいる所を見ても、この街は子供ウケもするのか?よく分からないが……。
普段のカラリエーヴァの街並みとはかなり変わった様式の建物や、人々の暮らしがやはり目に付く。
洋式の暮らしに慣れた俺達だからこそ、その違いがよく分かるな。
それは真新しさと斬新さを仕入れて来て、更に綺麗さと美しさを醸し出していた。
今は河川敷の橋の上。
清流が流れる河川敷に刺す道端の木の木漏れ日が見える。
木漏れ日は川を射抜き、まだら模様を作り出していたが、逆にその不規則で、何者にも囚われないその光の健気さが、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
しかもそれを、遮る物無い橋の上で見られているのだから、それはもう……凄いな。
この橋を通る通行人達は、毎日こう言う風景を見れるのか?……嫉妬しちゃうかもしれんな。
……しかもそんな風景に無関心な通行人達が目を奪われるものは、何故かローレッジだった。
確かにこいつは綺麗だが、目を奪われるべきは目の前の風景だろうに。
俺はそんな憤りを感じつつ、武蔵の会話に混ざった。ちょっと聞きたいことがあったからな。
「なあ武蔵、何処に向かっているんだ?南西の観光名所を回ってくれとは言ったが、真っ直ぐ行き過ぎじゃ無いか?」
そう。聞きたい事とは南西に向かい過ぎじゃないか?と言う事。
確かに、真っ直ぐ南西に向かってくれるのは良い事だ。だが、これは観光も兼ねている。直ぐに仲間達が見つかるとは思わないからな。
だが、武蔵の言っているルートは、思ったよりもそんなに良い名所なんて無かった。
日本の首都の江戸であるのに、こんなに名所が無いのはおかしい気がするからな。
それなのに、武蔵は全く名所を回らない。
そして、武蔵は俺達が提示した『南西に行け』と言う要望にそのまま従っている。
名所を回りたいと言うのに、これではただ道を歩いているだけだ。
キアの表情にも曇りが来ている。そろそろ限界そうだ。
だから聞いたのだ。「何処へ行く気だ?」と。
このままでは俺がキアをシングルファーザーの如く抱えて歩かなくてはならなくなる。
俺のプライドのために……つまりレフィナードとイェネオスから煽られない為に、俺は聞いた。
そして、武蔵は答えた。
「ああ、この先には自分が知る最高の名所があるんですよ!きっと満足してくれると思います!」
武蔵は、結構な元気を出して言った。
最高の名所ねぇ……。
俺がそんな疑問を抱いていた時に、ローレッジは武蔵の背景を見て、言った。
「……まさか、あの神社じゃ無いだろうな?」
俺もその言葉を聞いてその神社らしき物を見てみた。
……あれ?随分廃れてるな。
俺の目に映ったのは老朽化がかなり進んだ、ボロッボロの神社。
鳥居もかなり腐っていたり、見る限りで汚らしい。
あれが最高の名所に見えるか……?
「本当に、あそこ行くのか?」
「ーーーはい!」
武蔵は、そう残酷な事を言い切った。
♢
武蔵の元気な先導……乗り気で無い俺達。
だが、何かの雰囲気を感じるのも事実だ。
……見覚えがあるような、そんな雰囲気を感じる。
そして、俺達は恐る恐る鳥居を通り、それを目にした。
「あら……あんた達、居たのね」
「……お前ら」
そこに居たのは、箒がけをしているレフィナードとシリアンだった。
……合流早過ぎないか?
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