第二十五話『腰を痛めた。』
五つの光が夜の空を走る。
見上げれば流星、そんな風に考える人々もいるだろう。
そして僕はその流星の中で、思っていた。
冷水に濡れた服が冷たい風に吹かれて体温が下がるのを感じ、完全に、仲間達とはぐれた……と。
僕の周囲には誰も居ない。
目を塞ぎたくなる様な閃光が僕の周りを走っているが、本当にそれだけだった。
まだ全員が分裂させられる前には、近くにユーリさんが居たけど、分裂させられる時には居なくなっていた。
四つに分けられて飛ばされたのは分かっている。位置が分かれば合流できるだろう。
……けど、もう皆さんは既に見えないところにまで飛んでいってしまった。
位置は分からないし、そもそも日ノ本の地名すら知らない。
だが、必死に覚えていた事が一つだけある。
……あの河川敷。
渦が出来て僕達を飛ばした、あの河川敷。
その場所だけはしっかりと覚えている。
だけど、それだけ。
……そもそも、僕の行く先はどこ?
もしかして、海とかじゃ無いよね?
……そんな僕の心配の意思が届いたのか、少しずつ高度が下がっているのを感じる。
「……でも、何処に行くんだろう」
僕はそう呟いた。
だって、本当に何処へ行くか分からないんですもん。
深い森の中かも知れないし、海でなくても大きい湖の真ん中かも知れない。
そんな行き先の分からない旅行の様な感覚に、何故か僕は愉楽を感じていた。
そうした感覚の中で、遂に着いた。
「……うがっ!腰痛めた……」
だがその時、僕の腰に強大な負荷がかかった。
あの流星は、全然スピードを緩ませずに着地したのだ。
咄嗟に強化魔法で足の粉砕骨折は抑えたけど、それでも腰にきた。
老人の様に腰に手を当てて痛みに耐える僕。
そんな僕に語りかける……人の声がした。
「なんやぁ小僧、空から降ってきて流星みたいよのぉ?」
そう笑い、なまった言葉で語りかけるその男は、怪しい雰囲気を見に纏っていた。
「……誰、ですか」
♢
そしてネフリスが謎の人物を出会っている時に、四組の片割れの一組もまた、人と遭遇していた。
ナミアとシリアンだ。
「……えっと、ここは?」
降り立った所は路地裏の様ね。
わたくしは、取り敢えずビチャビチャに濡れてしまった服を魔法で乾燥させておいて、シリアンの声に頷いた。
「……江戸の何処かの様ね。さっきの所より少し近いみたいわね……」
ここは日本。
前観光でここに来た事があるから、ここは江戸だという事位は分かるわ。
「ですけど、アサナトさん達とも、ユーリさんともはぐれてしまいましたね……」
そこでシリアンは暗く言った。
……確かに、はぐれてしまったのは事実。合流するのも結構難しそう。
「それ以前に、あの渦は何?しかも……飛ばされる時に出て来たあの門って……ダンジョンかしら?」
「そこはユーリさん達とかと合流しなければ行けなさそうですよね」
わたくしはあの渦から出て来た門を見た。あの河川敷の中に、堂々と出てくるのを。
……でも、シリアンの言う通り、あれは後回しにしたほうがいい。
先ずは合流、そして現地人にバレない様に生活をーーーー
「大丈夫?貴方達」
でも、そんなわたくしの思考をかき乱して女性の声が鳴り響いた。
わたくし達の近くにあった気配が、近づいて来ていたのね。
「……」
わたくし達は振り返る。無言で、焦らずに。
その視界に映ったのは、小柄な女性だった。
わたくしの背丈より二回り程小さい位の彼女は、腰に物干し竿の様に長い長刀を背中に背負っていた。
恐る恐る「大丈夫?」と聞く彼女。
だんまりも良くないので、わたくしは名前を聞いて見ることにしたわ。
「貴方、名前は?」
だって、その長刀に特徴がありすぎるもの。
だからもしかして……と言うことで聞いてみたわ。
そして、彼女は答えた。
「佐々木小次郎よ。女らしくないでしょ?……貴方達は?色々大変な事になっていたけど」
……佐々木さんね。
そして彼女は、凄い勢いで乾いて行くわたくし達の服を不思議そうに見ている。
シリアンの姿を見て、優しく微笑んでもいたわね。
……と言うよりも。
どうしようかしら、名前を尋ねられたわ。
わたくし達の髪色には佐々木さんもそうだから触れない様だけれど、名前を聞かれては……そうわね。
咄嗟に考えた偽名を使おうかしら。
「わたくしは
そしてわたくしは怪しく笑って、佐々木さんを誘惑する様に言った。
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