第1章後篇 ー鎖国国家日ノ本編ー

第二十四話『分断される仲間達』

視点を主人公の視点にしました。


困惑もあるでしょうが、試しなので後編終了までは一人称視点の描写にしてみようと思います。





 

 宙を舞う様な感覚。


 体全てが空気に押し上げられ、浮いている様な浮揚感。


 下を見下ろせば、途轍もなく早い速度で風景が波の様に切り替わっているのが分かる。


 列車の中から外の風景を見渡すかの様に、風景が変わっているのを見て、僕は高所に居る不安感と、これが転送魔法か、という高揚感に胸打たれていた。


 ……どれくらいの速度で移動しているのだろうか。


 他の人から見るとどう言う風に見えているのだろうか。


 まあ、杞憂か。


 そんな事を考えている時に、大陸が見えて来た。


 ……いや、島?あれは。


 僕は凄い勢いで飛ぶ視点の中で、その島らしき物を見てみた。


 ……海に囲まれた立地。だけど結構大きい、島だ。


 これが日ノ本?


 だけど、魔法は僕が考えるのを止めたがった。


 そう。もう目的地についた様で、空中で突然止まったかと思えば、凄い勢いで降下し始めたのだ。


 だけど、高い所から落ちた時の様に、心臓がふわっと浮く感じとかは一切無かった。


 実に快適だった。


 ただ落ちて行く風景を見て、黄昏に浸るだけの余裕は十二分にあった。



 ……気付けばもう、下にある家々に、手を伸ばせば届く位の位置に居た。



 まあ、それは比喩だけど……もっと気にするべき事がある事に僕は気付いてしまった。


(あれ?このまま行けば……河川敷に落ちんじゃ……)


 そう、下が川だった事に気付いたのだ。


 それに、皆さんも気付いた様で。


「おい?座標登録失敗か?思っ切り川だぞ」


 そのアサナトさんの言葉に、ユーリさんは焦る様に呟いた。


「……いや、異常は無いはずですが……いや!何かの力に吸い寄せられています!着水注意!」


「え、ちょっと待っーーー」


 僕の理解できない言葉を意にも介さず、僕らは着水した。


 なんの抵抗も出来なかった。回避する事も出来なかった。恐らく転送魔法の補助術式に、転送中は動けない、などの設定が施されていたのだろう。


 いや、いや!そんな事はどうでも良い!



 ……この川は深い。足すらつかない。



「ちょっと!何これ!?」

 ナミアさんが、突然の着水に驚き、咄嗟にエセウナに聞いた。


「私が知るか!泳いで出るぞ!」

 そう、溺れている時に二人は口喧嘩の様な事をしているが、どこからそんな元気が出てくるのか。


「がぼ!がぼ!」

 そして、そんな時に、一番まずい容体の者が居た。


 キアだ。


 彼女は少女だ。シリアンちゃんよりも背丈が低い。


 シリアンちゃんは泳げる様だけど、キアは別の様で、必死に腕を回して、浮き上がろうとしていた。


 だが、その意思虚しく、どんどん沈んで行くキア。


 僕は助けられない。反対側に居るから。


 ……だが、そこで。


「大丈夫か、キア!」


 アサナトさんが鮫の様にキアを攫い、抱えて息ができる様に抱えていた。


 ……ホッと一息つく僕。だが、体が休息を与えてはくれなかった。


 着水した時の大きい水しぶきが口に入ったせいで呼吸が出来ないのだ。


 僕は濡れ、重くなった衣服の重みを感じ、頑張って浮き続けながら、口の中に入った水を吐き出した。


「がはっ……う……」


 ……水は吐き出した。


 幸い、僕は水泳は苦手としていない。


 着衣水泳も、意外と経験済みだ。


 だから、僕は陸へと向かおうと泳いだ……けど。


「……!?」


 ……進まなかった。


 どれだけ泳ごうと、陸への道が遠のいていった。


 何かに引き寄せられている。



 ……だがそう感じた時には、もう遅かった。



「渦?!?」


 河川敷では有り得ない渦が出来ていたのだ。


 しかもそれは、僕や皆さんを巻き込むには充分すぎる強さだった。


 さながら海に出来た、海賊船を巻き込んで無残に粉々にする海上災害の様に。


 僕らは直ぐに一点に集められ、驚きを共有しあった。


「どう言う事だ!河川敷に渦なんて出来るわけねえだろ!?」


 イェネオスさんは片手で浮き、もう片方の手で水を弾きながら、事の不可思議さに切れていた。


 だが、その途中で、ユーリさんだけは嫌な予感が当たったかの様に静かに下の水面を見ていた。


「……まずいです。皆さん、衝撃に備えて下さい」


 そして全員に対し、そう言い放った。


「……え?どう言う事ーーーー」


 僕の問いを聞き届ける暇なしに……僕含む全員は流星の様に、空に打ち上がった。


 大砲の砲弾の様に。それぞれ空中で静止したかと思えば……。



 ーーー五組に分かたれ、蜘蛛の子を散らす様に。空を駆ける流星群の様に、僕達は黄色い閃光を放ちながら空に放たれた。


 僕達は分断された。日ノ本に来て、早速。


 


ーーーーそして、そんな彼らを飛ばした渦の中から、笑う様に出てきた門が一つ。

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