第二十三話『さぁ、日本へ行こう』

 

 転送魔法……ユーリはそう言った。


 そんな魔法は今まで聞いたことも、使っている所を見たことすらない。


 ネフリスの知識不足もあるのだろうが……聞いた事が無いのは確か。


「転送魔法……?」


 知らない単語に、ネフリスは無意識に聞いていた。


「密航者御用達の移動魔法ですよ。一瞬で、バレずに移動できます」


「……は、はあ……?」


 簡潔すぎて、何も伝わらなかったが……なにか凄い魔法と言うのは伝わった。


 そして次にユーリが告げた。


「ここで忠告ですが、日本では決して本名を出さないようにして下さい。ネフリスさんとかの名前だと、恐らく日ノ本住民に外国人だと勘付かれてしまうので」


「そうなんですか……」

 ネフリスはその忠告を聞き入れつつ、名前を明かさない事をしっかりと覚えこんだ。


 その途中に突然、ネフリス含む全員の服装が光を上げて変わった。


「うわっ……なんですかこれ」


 そんな光が空けてネフリスが着ていたのは……これまた一風変わった服。


 ……だが、どことなくゴーズが着ていた服と似ている気がする。何故だろうか。


「これは、日本国住民の平民が身に付ける、一般的な衣装です」


「やっぱり動きにくいな……」


 その服を身につけたアサナトはうざがるように呟いた。


「まあ、仕方ないですよ……また牢屋部屋の異変に気付かれましたね」


 そしてユーリは耳の端に聞こえてきた微かな足音をキャッチした。


(……時間は限られている。行くしか無いですね)


 そうユーリは決め、全員に言った。


「行きましょう。時間がありません」


 その言葉に全員が相槌を交わした。


 全員が全員、国外逃亡の準備が出来たようだ。


 それを確認した瞬間に、全員の体を青い光が取り囲んだ。


 眩いばかりの光が身体を取り囲む。


(これが転送魔法……)


 ネフリスは光輝く体を感じ、体がふわりと浮くような感覚を覚えた。


 そして、感覚はどうだろうと手を握りこんだ瞬間に、ネフリス達は……消えていた。


 牢屋部屋から、後も残さず。


 神隠しの様に。



 ♢



 既に、ネフリス一行が去って行った牢屋部屋。


 其処には、血眼になって部屋中を探し回る、女王近衛隊隊員が居た。



 そう。ストフ・レイエットだ。



 しかも、その横には同じく女王近衛隊のバッジを付けた女王近衛隊隊員も居た。


 背丈が短く、ストフを『先輩』と呼ぶその人物は『玩弄のギード』として呼ばれ、恐れられた人物。


 対して、先輩のストフは氷漬けられた剣を振ったり壁に叩きつけたりして、氷の解氷を図っている。


 ……だが。


「……なんで解けないんですか、それ」


「俺に聞くなって。本当に解ける気配無いんだから」


 そう言って、ストフは炎魔法で氷解を図った……が。


「……ほらな。解けない上に、水滴一つ垂らしやしない」


 その言葉の通り、その氷は全く解ける様子を見せなかった。


「それじゃ、先輩の愛用の剣も使い物にならないですね」


 皮肉の様に、ギードは言った。


 それにイラつきながら、ストフは思い出す様に唸った。


「あの受付嬢に遅れを取ったせいだ……なんなんだよあの強さ。あいつの刀の動きもそうだが、それ以前に身体の体重移動すら見えなかった」


「先輩が弱いからじゃ無いんですか?」


 その言葉に、ギードはあざ笑うかの様に口に手を当て、煽った。


「……お前も戦ってみれば分かるさ……あいつは化け物だ」


 その煽りをストフは大人の対応でひらりと交わし、忠告する様に言った。


「まあ、先輩もあんなか弱い女の子みたいな声で叫んでましたしね」


 だが、そんな先輩からの有難い忠告を無視し、ギードは更なる煽りを飛ばした。


 これも、ストフは大人に対応するかと思えば……。


 ぶちっ。


 彼の怒りの線が……切れた。


「はあ!?あれは不意を突かれただけだ!」


「……あれ?さっきと言ってる事違くないですか?さっきは、正面から倒されたみたいに言ってたのに?」


「死ね!」


 手を突き出してギードに当たってくるストフ。


 それを軽く弾きながら、ギードは空いた牢の扉を見て、思った。


(転送魔法……古代に発達した古代魔法を使えるとは……やっぱり……)


「おい!聞いているのか!」


 そんなギードの思考を遮り、ストフの怒声が牢屋部屋の中を響き渡る。


「はいはい。聞いてますよーーー」


 ギードはため息を吐きながら、ストフの説教を聞き流し続けた。



 ーーーその頃ネフリス一行は、鎖国国家、侍の国日ノ本へ、空を飛ぶように向かっていた。


 ……だが其処で、危険を退けてきたネフリス一行がバラバラに分裂させられるとは、誰も思いはしなかった。

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