第二十二話『ここは牢屋部屋』
ネフリスは気絶した。
女王近衛隊隊員、ストフ・レイエットの峰打ちによって。
ユーリがどうなったのかも分からない。
だが、それも直ぐに分かる。
自分の生死も、宮殿から脱出できたのかと言う事も。キアを助けられたのかと言う事も。
そして、ネフリスは目覚めた。
「う……ううん……」
呻く様に声を上げて、ネフリスは気絶状態から覚醒する。
瞼の奥で、やんわりと光る光源を確認。
夜なのか、瞼の奥から確認できる光源はその光だけ。
だがとりあえず自分は生きている、と言う感覚を感知し、ネフリスは目を開けた。
その瞳の奥に映ったのは、自分の顔を覗いている、キアの顔だった。
……ネフリスが起きた事を知って、はしゃいでいる様に見える。
そして、横にいる誰かに語りかける様にキアは横を向いた。
ネフリスも、それに釣られて横を見てみた。
「起きたか」
そこには、壁にもたれ掛かって待機しているアサナトが待っていた。
だが、ネフリスはそれを見て、何かがおかしい事に気付いた。
「……あれ?僕宮殿に居たんじゃ……」
そう、ここはあの牢屋部屋だ。
汚らしい、ネフリスがガミガミと文句を垂れ流していたあの牢屋部屋だ。
……捕まって戻って来たのか、とも思ったが、そうでは無かった。
ここは、完全に牢の外。
牢屋部屋の警備兵と思われる者も、立ち尽くして放心している様に見える。
……洗脳魔法で無力化したのか。
そして、ネフリスは再度、アサナトの方を見る。
……今見えたが、アサナト以外にも、ユーリやエセウナなどの仲間達も全員揃っているのが分かった。
ユーリは、あの女王近衛隊隊員、ストフ・レイエットを退けられたのか。
ネフリスがそんな事を考えていると、アサナトがそれを察したのか説明した。
「ユーリが、峰打ちで排除されたお前を抱えて、しかも敵の追っ手を振り切ってここまで連れて来たんだ。……色々道中で何かあった様だが、生きてて良かったぞ」
「そうなんですか……あれ?ゴーズさんは?」
ネフリスは峰打ちされた首をさすりながら、この場に助けてくれたゴーズがいない事に気付いた。
その胸には不安がよぎるが、直ぐに返答が帰って来た。
「既に、宮殿から脱出して宿屋で何時もの様に客をもてなしていますよ」
「超人ですね……ゴーズさんも」
そして……ユーリさんも、と言おうとしたが、ネフリスは言わずに心の中にしまっておいた。
「状況確認も、ネフリスに与えた任務も終わった所で……逃げるぞ」
アサナトは、元気にジェスチャーで感情を伝えるキアを見てから、もう一度ネフリスの顔を見つめ、怪しく目を歪ませながら言った。
「逃げるって、何処へ?」
ネフリスは尋ねた。
逃げるとは言われても、国内はおろか、国外すら逃げられるかは分からない。
それは、国内外にも検問を合間無く敷かれて、逃げようとも国の追っ手からは逃げられない……と思うから。
既にネフリスは昨日、国の兵達が沢山国の検問に回っているのを見ているからだ。
つまり、それだけ自分達を逃さまいとストフは躍起になっていると言う事だ。
そんな国の作った包囲網の中を潜り抜けられるほど、この国の兵達は甘く無いはず。
『何処へ逃げるか』というのも大事だが、それ以上に『どうやって逃げるか』も入れて、ネフリスは聞いたのだ。
そして、アサナトはユーリに答えを委ねる様に顔を見て、それを見てユーリは満を持したかの様に言った。
「鎖国国家で侍の国、日ノ本です」
それを聞いて、ネフリスは思い出す。
鎖国国家、日ノ本……正式名称は日本。
鎖国と言う言葉から分かる通り、その国は鎖国令を敷き、外国人の来国を拒み続ける、謎の多い国。
ネフリスが知るのは、それだけ。
日本が侍の国というのも、聞いたことが無かった。
日本なら……鎖国令を敷いている日本なら、外部からの追っ手の心配は、ほぼ無くなったに等しくなる。
だがそれは、日本に怪しまれずに国に潜り込めた場合である。
もし、国に潜り込む際に発覚してしまえば、カラリエーヴァ王国と、日本という国からも、狙われる事になるかも知れない。
リスクも大きいが、その分メリットも大きい。
ハイリスク、ハイリターンという事だ。
「日ノ本ですか……潜伏先には丁度いいかも知れませんが……それだと、本当に国に反逆する犯罪者じゃ無いですか。無実を証明するのも、出来なくなりますよ?」
だがネフリス的にも、このまま犯罪者認定されて、そのまま逃げるのも癪なのだ。
それだと、自分達の無実を証明することも出来なくなる上に、逃げればそれで終わり。
カラリエーヴァから敵対されたまま、それを放置して逃げる事になるのは……嫌なのだ。
こう……変に関係が絡まったまま放置するのは、ネフリスの性格上、無視できない問題だ。
親しい友人と仲違いしたままの様な……歯痒い感じを、ネフリスは感じるのだ。
だが、日本へ逃げる方を選んだ方が良いのは分かっている。
逃げた方が、自分の命も、キアの命も助かる確率が高くなる……それは分かっている。これは我儘だと。
……その上で、ネフリスは仲間達に委ねる事にした。
その考えを真っ向から打ち砕いて貰う為に。その方が楽になれるから。
「だとしても、今は逃げるべきだ。……例え、犯罪者認定されようとも……いつか、挽回する機会は来るのだからな」
「……分かりました」
ネフリスは、その真っ向からの否定に、心から納得した。
……その通りの正論なので、ネフリスはぐうの音も出ない事に目を落とす。
だが、聞きたいことがあったのでネフリスは聞く。
「……でも、日ノ本へと行く手段って、どうするんですか?……普通に船で行くとしてもバレますよね」
「そこは、転送魔法で行きます」
そのネフリスの問いに、ユーリは当たり前のように微笑みながら言った。
「転送魔法……?」
だがその口から出た言葉は、ネフリスも全く知らない魔法の名だった。
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