第十八話『侵入者ハッケン!』
宮殿侵入……三階層目。
多少危険を侵したものの、ネフリス達は未だ発見されずにいる。
そして、今は……キアが居る二階の上だ。
既に五時間は経っている。
ネフリスは昼食を食べたくて鳴るその腹を必死に抑え、三階への階段を降りている。
そして、踊り場からユーリは三階の様子を伺う。
「……不味いですね。警備が多過ぎます。……やはり警備兵休憩室や、メイド休憩室などの人が集まりやすい部屋があるのが響いてますね」
「ですけど……止まる訳には行きませんね」
ネフリスは不敵の笑みで、笑った。
「そうですね。やる事をやりましょう」
ユーリはそれに笑い返した。
そしてユーリ達は階段を登って来たメイドの死角の柱を走り、重力を逆らった。
♢
ネフリスは、自分の体が思い通りに動くのを感じた。
天井を走り、壁を蹴り、地を滑る。
感覚が研ぎ澄まされているのを感じた。
以前はユーリに数段出遅れていたのに対し、ネフリスはユーリとほぼ遜色無い動きで視線を潜り抜けて行けている。
ユーリの動きにやっと慣れてきているお陰だろうか。
だが、それでも一段位は遅れてしまう。
受付嬢なのに、何故こんな実力を有しているのかどうかをネフリスは気になりはしたが、それについて考えているいとまは無い。
さっきより警備が増し過ぎている。
しかも、監視魔法による監視も付き始め、より潜り抜けるのに時間を労する事になってしまっている。
ユーリから聞くに、日が落ち暗くなり始める時には、宮殿の警備が更に強化され、魔法障壁での隔離、魔力を有していない者でも感知される空間感知も付けられるらしいと、ネフリスは聞いた。
つまり、日落ちまでには宮殿を脱出しなくてはならない。
だが……既に三階のルート中腹に来た時には、空が燈色に染まって来ていた。
そしてネフリスは焦り始める。
最初は、心臓の鼓動が多少早く鳴る程度だったが……。
「……まずい」
三階のルート終盤付近になった時には、冷や汗が常に流れ続けている程の緊張状態になっていた。
ーーーその緊張は、重大なミスを侵すには……充分すぎる物だった。
ネフリスが不用意に扉を開けると同時に、耳を裂く様な音が宮殿中を覆った。
「ピーッ!!侵入者ハッケン!侵入者ハッケン!三階階段付近で、侵入者ハッケン!!」
ネフリスが引っ掛かったのは、監視魔法だった。
「あっ……!!?」
そしてネフリスは、これ以上ない絶望感が一気に迫って来ているのを感じた。
まずい。
どうしよう。
バレてしまった。
キアを……救えない?
ネフリスは絶望を重ね、自分で士気の低下を図って仕舞っていた。
金切り音の様に頭の中を空回る警報。
視界がどんどん狭まって行くのをネフリスは感じた。
凄まじい足音がこちらに迫って来ているのをネフリスは感じた。
ーーーそして、付近の窓が割れるのを、ネフリスは感じた。
♢
ネフリスは、宮殿の警備に侵入者として判断された。
既に宮殿中の警備が三階、二階への階段付近へと集まって来ている。
そして、兵達がネフリス達は囲い込んだその瞬間に、横の窓が割れた。
ーー耳を塞ぎたくなるような音と共に。破片と共にその人物は侵入者を庇う。
「なんか五月蝿い音が聞こえたかと思えば、やっぱり見つかりやがったか」
「ゴーズさ……んっ!?」
ネフリスはその面影ある人物の名前を呼ぶ。だが、ゴーズらしき人物はネフリスの口を塞いだ。
そして、ネフリスは状況があまり理解できないその瞳で、その人物を解析する。
……刀を構えたその姿。
曲線を描いて鞘に納められるその刀は、所有者の服共に見たことも無い剣だった。
だが、面影は知る人物、ゴーズだった。
顔には深く被り物をしているが、魔力、体格共に分かり易い。
……そして、ネフリスは今気付いた。
その刀には、プラチナのタグが輝いている事を。
そして、ネフリスは昨日ゴーズが言っていた事を思い出す。
『昔は冒険者をやっていてな』という言葉を。
冒険者に於けるプラチナは、言わば超人級の化物に冠される、第二位の位。
その人数は、三桁としかいない。
それほどの位を持っていた冒険者が、今目の前にいるのだ。
「虚無僧の格好をするなんて、故郷の血が疼くんですかね」
そうユーリはゴーズに言った。敵に包囲されているのを気にしないほどに、だ。
慢心でも、状況を理解していない訳でも無い。
ただ、ユーリは知っていたのだ。ゴーズがこちらの様子をそわそわしながら伺っていた事を。
そして、ゴーズはこの程度の兵に、隙すら見せない事を。
「ここは任せろ……お前達は行くと良い」
そう言ってゴーズは刀を抜き、虚無僧笠の奥で、ギラリと赤い眼光を飛ばした。
一瞬怯む警備兵達。
ユーリはその一瞬を突き、目で追えない速度でネフリスを攫い、二階への階段を駆け下りた。
そして、ゴーズは顔の見えぬ虚無僧笠の奥で口角を上げる。
(ここでお前らに貸した借りを……少しだけ返すとするか)
ゴーズは二階の階段を降りようとした警備兵を峰打ちで排除し、階段を背にして刀を兵達に向ける。
「腐っても、日本に生まれた身だ。拙者の武士道に賭けて、ここは通さぬ……さあ、来るが良い」
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