第十七話『ショールームから始まる絶対絶命』

 

 ……見取図によると現在ネフリスが位置している場所は、ルート的にやっと中腹と言う所だ。


 そして、現在ピンチ。


 ネフリスが出してしまった音に、警備の兵が気付いてしまったのだ。


 しかも、ユーリはクリアリングの為先に行ってしまって応援を求められない。そもそもその為には多少の声や魔力を必要とするので無理。


 そう。そうなのだ。


 宮殿に入る前、ユーリが言ったのだ。


「ここでは魔力を閉じて下さい。出したら宮殿のシステムに引っかかって侵入されている事を気付かれます」と。


 ここはショールーム。そしてネフリスは宝石が飾られている台の裏で縮こまっている。


 横から見られたら確実に終わりの位置。他に逃げられる場所は無い。


 ユーリは先にショールームの奥の隠し扉へと偵察の為消えて行った。


 一方ネフリスもまた、扉に入ろうとした所で偶然警備がショールームに入って来て、すかさず台座へと隠れた時に物音を聞かれてしまった、と言う所。


 残念ながら、無視はされなかった。


「やっぱり、ここら辺で音したんだよな……」


 その声と共に、兵はさっきまでいた隠し扉の近くへ行き、怪しむ。


 やはり、ショールームに警備兵が入って来たタイミングでかなり物音を立ててしまった所為だろう。


 ネフリスは願った。自分の位置がバレない事を。


 だが、神は味方してくれなかった。警備兵は台座の辺りを調べ始めたのだ。


 ネフリスの居る所の反対側と言うのが救いだが、それだけだ。


 いつかは来る。


 ネフリスは確定してしまった未来に絶望した。


 心臓が激しく鼓動するのを感じる。


 そして、来てしまったその時。


「後は、ここだけかな?」


 兵はここに侵入者が居るとは思って居ないのだろう。


 その上で発せられる何気ない一言が、ネフリスの心を深く突き刺す様な緊張を与える。


 逃げられないし、逃げたらバレ、追い討ちされて死ぬだろう。


 つまり、詰みだ。確定で死んでしまう。


 その諦めに近い絶望感を味わいつつ、胸を突き破る程の鼓動を感じる。


 死ぬ程息を潜め、無いであろうこの台座裏だけを調べないと言う幻想を抱く。


 警備兵の足音と共に鳴る、鎧が擦れる音。


 一つ、二つ、三つ。


 それで、ネフリスが居る台座裏の様子が確認される。


 青ざめたその顔を見せ、ネフリスは警備兵と目が合う。


「……っ!?」


「!!!?侵入……ッ!」

 驚きで咄嗟に声を上げる警備兵。


 だがその驚愕は、突然……途切れた。


 何かの線が切れたかの様に、警備兵の男は、白目を向いて倒れたのだ。


 激しい金属音を奏で、白く発光するその体は、地面に勢い良く倒れ込んだ。


 さっきまで自分を探していた警備兵は、地面に伏す意識失くした人間となっていた。


「……え?」


 ネフリスはその理解不能の現象に、声を漏らしてしまう。


『何か』をされなければ普段気絶しない筈の人間が、突然目の前で倒れたのだ。困惑もする。


 それは、さっきの様な絶望的な状況だったのなら尚更だ。


 ネフリスは警備兵を目で探り、何故倒れたのかを考えた。


 その行動は意味の無いことなのにも関わらず、ネフリスは理解出来ない状況を理解する為に無意識で動いてしまっている。


 そんなネフリスは、ふと上を見上げる。


「ユーリ……さん?」

 そこには、手刀を構えたユーリが居た。


「ネフリスさんの気配の動きが感じられなかったので見にきてみたら……こんな事になって行ったとは、思いませんでしたよ」

 そうユーリは優しい笑顔を見せながらネフリスの手を取り、起こした。


「すみません、へまをしてしまって」


「大事には至らなかったから良いんですよ。行きましょう、キアさんが待っていますよ」


 ネフリスは男気無い自分を悔やみつつも、大事を免れた事に実感を感じる。


 そしてネフリスは胸を撫で下ろし、再度感謝を述べる。


「本当に、有難うございます……」

 それにユーリは再び笑みを返し、また隠し扉の奥へと消えて行った。


「僕も行かないと……って、警備兵さんをどうにかしないと」


 ネフリスはユーリと同じく隠し扉に入ろうとしたが、ショールームに分かりやすく伏して眠っている警備兵に気付いた。


 このショールームに警備兵が来たと言う事は、また同じく警備兵がやってくる可能性があるということだ。


 つまり、その時にこの警備兵がバレてしまったら……結局侵入者がいると言うこともバレてしまうと言うもの。


 先ずは、この警備兵を何とかしなくてはキアの救出など空頼みに終わってしまう。


 ネフリスはそこに気付き、警備兵を隠すか、意識が無い人物が居てもおかしく無い所に置いておきたい。


 それなら……。


 ネフリスは部屋を見回し、それを達成出来そうな所を探す。


 ……そして、彼は最善を見つけた。


「椅子。あれなら……」


 ネフリスは急いで重い警備兵を抱え、椅子に座らせた。


 そして色々整えてから、良し、と頷く。


「椅子なら、警備の合間に『眠っていても』気にされない筈……」


 単純明快な解決策だが、それでも良い。


 そうネフリスは怪しい笑顔を浮かべ、不自然な点など無いともう一度確認する。


 そして、ユーリもその様子を遠目から見ていた。


(ふふ、良い判断を下しましたね……予想通りです)


 そう笑いながらネフリスを見つめるユーリ。隠し扉から顔だけを覗かせている。


 だが、突然隠し扉の方に振り返ったネフリスに驚き、ユーリは咄嗟に顔を隠した。


「じゃあ、行こうかな」


 そう呟き、ネフリスは直ぐ隠し扉に身を通した。

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