第十五話『ニンジャユーリ』
そして今ネフリス達は、宮殿へと向かっている所だ。
ユリアの暖かい送り笑顔の元、ユーリ先導で宮殿へ行っている。
薄汚い路地を抜け、人通りの激しい道を抜け……。
「宮殿に着きましたね」
暗い路地の中からユーリが宮殿を撫でる様に見つめて言った。
その眼孔からは、多少の喜悦の感情が見え隠れしている。
ネフリスはそれに触れずに、現在の時刻を光の明暗で確認した。
「本当に、白昼堂々と侵入するんですね」
「その方が警備が少ないですからね」
「まあ、そうだとしてもやっぱりバレやすくなるのでは……?」
ネフリスは不安の色がはっきり分かる表情で言った。
それと同時に、ネフリスは昨日の夜に立てた作戦を思い出す。
それは、こんな白昼堂々と宮殿へ忍び込む迄に至った策だ。
♢
『宮殿へキアさんを助けに行くのは明日にしましょう』
『……明日!?』
驚くネフリス。
『え……明日ですか!?早過ぎません!?』
『それが一番良いんですよ。今は多分、私達は国外か国境付近にいると思われているので、宮殿に侵入されるなんて思われてもいない明日が一番良いと思いますので』
『……確かに、その方が良いですね。……決行は夜ですか?』
『いや、朝です』
『……へ?朝?』
『夜だと、流石に宮殿なので警備が網目など無い程に強化されます。それならば、朝の方が良いでしょう、と言うことで朝にしました』
『え……。ーーーはい。まあ分かりました』
ネフリスは、ギリギリ……本当にギリギリで納得した。
……ネフリスも、その策しか無いと心では思っていたからだろうか。
だけども、その作戦が決行に移される瞬間を目の前にすると、足がすくんでしまう。
オークリーダー戦の緊張感とは違う。どんな策も全て無力化されてしまいそうな感じ。
だが、ネフリスはやっと気付いた。
ユーリが、そんな事を気にしないかの様に楽しそうな眼をしていることを。
緊張など気にせず、ただ宮殿に侵入する事のみを考えている様だ。
「緊張しないんですか?」
「え?楽しそうじゃ無いですか……ほら!忍者みたいで!」
そう言って、ユーリはネフリスが見たことない忍者羽織を一瞬で身に纏い、笑顔で言った。
「に、ニンジャ?」
「まあ、偵察者みたいな職業ですよ」
「はあ……?」
ネフリスは知らない職業の存在に驚きつつも、緊張が和らいでいる事に気付いた。
ユーリが、気回ししてくれたのだろうか。
「じゃあ、行きましょうか」
「あ、はい!」
多少の緊張を胸に、ネフリス達は宮殿へと潜り込んだ。
♢
そして今現在ネフリス含む黒の忍者は、宮殿の庭内の森林に居る。
「うーむ。やっぱり朝と言えど、警備はあるものだな」
「……さっきからなんですか、その喋り方は」
不審がる様にユーリを見つめるネフリス。もしかしたら洗脳魔法をかけられている可能性がある、と少しでも思ってしまう。
「雰囲気ですよ。雰囲気は大事ですからね……あ。行きましょう」
話途中にユーリは突然木陰から飛び出した。
「え、ちょ、ちょっと!」
ネフリスも出遅れつつも走って飛び出、ユーリの行った道を愚直に辿っていった……が、ユーリ自体が速過ぎて追いつけもしない。
そしてネフリスは汗を垂れ流し、見つからない事を切に祈り、やっとユーリと合流した。
「はあ……はあ……速過ぎますよ、ユーリさん……」
ネフリスは再びユーリが隠れている木陰に避難し、荒く呼吸しながら言った。
さっきの場所から二百メートルは走ったのだ。全速力で、全ての力を込めて走ったのだ。
それでも追いつけなかったユーリの足の速さに驚いているネフリス。
そして、ユーリは一定の方向を見上げながら言った。
「……その甲斐はあると言うものだよ。行くぞ、姫救出だ」
ユーリは無邪気な笑顔を溢しながらすぐ近くにあった宮殿へと中腰で走って行った。
例の謎口調が収まっていない様だが、遅れては困る、とネフリスは疲れた体に鞭を打ち、ふらふらと宮殿に向かって行った。
♢
二人は宮殿へと到達した。
そしてその最終到達地点は……。
「ああ……登るんですか?ここを?」
宮殿の壁だ。かなり高い、窓などで凹凸がついた、明らかに登りににくそうな壁。
「そうですね……あそこの空いてる窓に入りましょう」
そう言ってユーリが指差した場所は、五階の所にある窓だ。
……見上げるほど高いんですけど。
「えーっと……まじですか?」
「ネフリスさんも、登れない程の体してませんよね」
そう言って、ユーリは是非も聞かずに軽々と壁を蹴る様に登り切って見せた。
蝶の様に開いた窓に入って行ったユーリ。
直ぐに窓から顔を出して、ユーリは手振りで誘って見せた。
……やるしかないのか。
ネフリスはそう諦めた様に察し、壁を登り始める。
「ふっ……はっ……」
ユーリの様に軽々とは行かないが、ネフリスも伊達に冒険者をやっていない。
着実に、されど勘付かれぬ様に。
たった十数秒で登り切り、ネフリスは窓に身を通した。
彼が部屋内部に体を通し切った時にはもう、疲れなど吹っ飛んでいた。
そして、ユーリは気の入った謎の口調で言う。
「では、救出開始と行こうぞ」
「またそれ……いや、行きましょう」
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