第十三話『国家権力の無駄遣い』
牢を脱出したネフリスを送り出した仲間達。
再び静寂を取り戻した牢に、ドスドスと響き渡る足音。
十複数聞こえる焦りの音は、勢いをつけて牢屋部屋と扉を開けた。
「まだ居るかもしれない!くまなく探せ!」
「了解!」
増援の兵と見られる兵達が牢屋の外を駆け巡る。
逐一牢の錠が開けられていないかを確認しつつ、兵は誰が脱走したのかを確認し続ける。
ネフリス以外の全員は全て牢の中にいる。
一通り兵達は排水溝など、出られる穴など無い事を確認し、焦る様に言った。
「まさか……真正面から警備を無力化したのか?警備は鎧装備の熟練の上、相手は武器も待っていない筈だぞ……?」
アサナト達は兵がユーリが手引きした事を想定していない事を聞いて、怪しく口を曲がらせる。
……だが。
「脱走を手引きした者も居るかも知れん……おいお前、何か知っているか」
リーダー格の男がそう推理し、エセウナに助言を求めた。
それに、期待外れだったか、とアサナトは肩を落とす。
……良い推理だったが、俺達に助言を求めるのは、いけないな。
「私か?」
「ああ。脱走した、ネフリス・フェンリシスについてお前らが知っていない訳が無いだろう?」
その言葉を聞いた瞬間、エセウナの雰囲気が強張る。
「あいつはな、私を置いてもう国外に逃げたさ。助けを求める私達の事を置いて行ったんだ……あの痴れ者はな!」
牢内に響き渡るエセウナの怒声。
それに圧倒されたのか分からないが、リーダー格の兵が大声を上げ、牢内の全兵に告げる。
「く……探せ!検問を間無く敷き詰めるんだ!」
「わ、分かりました!!」
兵達の声とともに、全ての兵は牢を出て行く。
兵が出切った頃に、アサナトは感嘆の声を漏らす。
「……良い誘導だったな」
「礼は良い。どうせ、あいつが捕まったら意味が無くなる」
「だが、良い演技だったと俺は思うぜ?」
「お世辞は良い、イェネオス」
「これで、国内に注意が向かなくなったと思いたいわね」
ナミアの不安がる声に、シリアンは言う。
「ネフリスさんなら、きっとキアさんを助け出してくれますよー」
「まあ、ユーリも居るからな」
「そうわね」
ナミアの笑い声と共に、仲間達はネフリスの無事を祈った。
♢
牢からの脱出を果たしたネフリス。
今現在は、ユーリから渡されたフード付きの外套を深く被り、二人一緒に顔を隠している。
ユーリも手配書に書かれている様で、理由をネフリスが聞くと「アサナトさん達の専属受付嬢だったから」と返された。
専属受付嬢。聞いたことはあるが、ネフリスの知る限りでは確か金上位クラスの冒険者位にしかつかない特別なギルドからの待遇だった様な筈。
だが、受付嬢からの要望で、しかもそれがギルドマスターに通れば、どんな冒険者にも専属受付嬢として付くことができると言う。
鉄ランクのアサナト達にユーリという専属受付嬢がつくのも、その理由ならば説明がつく。
そして、その専属受付嬢のユーリが指名手配されているのも、恐らく責任問題で、だろう。
冒険者を見守り、監督するのが受付嬢。だがその冒険者が不祥事を起こしたら受付嬢はどうなる?
その責任が、受付嬢に直撃することになる筈だ。
犯罪を起こした息子の母親が非難される様に。
部下の不祥事を代わりに責任として負う上司の様に。
それが専属受付嬢ならば、もっと責任と批判は厚くなる。
そういうものなのだ、社会は。
……普段ならば、自分を犯罪者に陥れた冒険者を恨む事もある筈だ。
だが、ユーリはそうしない。
冒険者の不祥事もお互い様だと思っている様だ。
ネフリスは正直(天使だ……と)感嘆した。
その所為で忘れかけていたが、ネフリスは壁に堂々と貼られた紙を送らせられた。
「本当に、犯罪者の様な扱いになってますね」
「そうですねーーー」
ユーリの声を遮る様に、横の道を兵士たちが砂埃を上げて走って行った。
あの方向は国の城門だ。しかも、凄まじい兵力。
「アサナトさん達、うまく誘導してくれたみたいですね。ですけど、あの兵力……私達を殺そうとしてきていません?」
「ただの不敬罪で、そんなに国家権力が動くんですか?」
「ただの不敬罪で、こんな事が出来るのが女王近衛隊なんですよ。……軍を動かす力だけなら、国主すら超えます」
「あり得ない……」
「本当に。昔と比べたら……」
ユーリが、そう声を漏らす。
「え?」
だが、ネフリスには聞こえなかった。
「いえ、なんでもありません。とりあえず、休息を取れる場所を探しましょうか」
「……?分かりました」
ネフリスは疑問を抱きつつもユーリの先導で、休息を取れる場所を探しに行った。
♢
途中の路地裏。
ネフリス達にとって、兵達にバレない休息の場所は必要。
キアを助け出す作戦を考える時にも、休む時にも休息の場所は必要なのだ。
兵にバレない休息の場所と言えば、ネフリス達がいるところの様に、路地裏だ。
人通りも、光も届かない路地裏。
ゴミや落書きで塗れた壁。
少し汚いが、身を隠すにはもってこいだ。
ここなら、当分は兵の目に付かなさそうだ。
「ここを、休息地としますか?」
「いや、その必要は無さそうです」
ユーリがネフリスの言葉を多少遮って言った。
その瞬間に。
「あれ?貴方は……?」
背後に、女性の言葉が聞こえた。
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