第十二話『今現在、牢の奥。ふざけんな』

 

 こちらアサナト。


 今現在、牢の奥。


 感想はマジでふざけんな、って所だな。


 ただ未熟者の女王近衛隊に未熟だと言っただけなのに、不敬罪で牢に捕らえられるとは。


 あれだけの罵倒に耐え切れないほどのお子ちゃま精神だったのか?


 アホだな。アホ。


 この程度で国家権力を使うなど、シリアンの言う通り、本当に私怨に塗れてるな。


 あのストフとか言う奴、本当に女王近衛隊になって良い存在だったのか?


 コネ入隊とかじゃ無いよな……。いや、その方が有難いが。


 本当に、女王近衛隊は『昔』と比べて落ちたものだな。


 キアも取り上げられて仕舞ったし、どうしたものか。



 ♢



「アサナトさん!……イェネオスさん!これどうするんですか!?」


 ネフリスの必死の問い掛けに二人は答えない。他の三人も反応しない。騒ぎ立てて動いているのはネフリスただ一人だ。


 陰気な雰囲気な牢屋から鳴り響く悲鳴に近い声。牢屋の雰囲気に値しないが、そんなネフリスの気も知れる。


 布切れの様に乱雑に、抵抗する事もままならない程の隙の無さで、有無を言わさず牢に入れられたのだ。困惑するのは当然というもの。


 その筈なのに、全く動じる様子が無い仲間達。仲間達と自分のテンションの差異が激しすぎて、ネフリスは困惑しているのだ。


 ……まるでこの事を予見していたかの様に冷静な仲間達に、ネフリスは若干の恐怖を抱いた。


 そして、やっとアサナトがネフリスに反応を示した。


「ネフリス」


「……はい」


「何故、俺達が投獄されたか分かるか?」


「不敬罪……じゃ無いんですか?他に何か?」


「分かってるなら良いんだ」

 ネフリスは、変な事を言い始めたアサナトに疑問を抱き始める。


 アサナトが聞いた事は知っている当たり前の事だ。今更聞くことでも無い。


 ……では何故?


「不敬罪としてお前が囚われてしまったのにも、俺の所為でもある……だから」


「だから?」

 ネフリスは、背筋が凍る様な感覚を感じた。何かあるのか。


「これは俺の問題でもあり、俺たちの問題だ。だからな……」



「ーーーお前は、居る必要が無いんだ」



「……え?」


「うわっ!?なんだ貴様ッ!がッ……!?」

 驚くネフリスを置き去りに、陰気な牢屋の間を男の声が駆け抜けた。


 ……牢屋を守っていた警備の声だ。


「……来たか」


「来たって、誰が……!?え」


 ネフリスは足音を感じ、その方向を見た。


 そこに立って居たのは……。


「お久しぶりですね、皆さん。貴方方の専属受付嬢が迎えに来ましたよ」


「ユーリ、さん……?何故ここに」


 牢の外に悠々と立って居たのは、以前ネフリスの冒険者登録をした受付嬢、ユーリの姿だった。


 ここは牢屋だ。普通、受付嬢のユーリが居て良い場所じゃ無い。


 しかも、恐らく牢屋の警備はユーリによって無力化された様だ。だが、直ぐに異変に気づかれて応援が来る筈だ。


 ユーリがどうやって警備を無力化したのかを考える余裕は無い。何故来たのか。


「ネフリス、お前はユーリと共にキアを救って来い」


「……どう言う事ですか!?アサナトさん達は来れないんですか?」


「残念ながらだな。そもそも、俺達が一気に脱獄したら、国の検問や警備が更に分厚くなる。当然、キアが居る宮殿も警備が強化される筈だ。出来るなら一番怪しまれていないお前だけだ」


「くっ……」

 ぐうの音も出ない。


 だが、ただの不敬罪でそんなにも国が総動員で対応してくるなど、普通は有り得ない。牢にだって囚われない。


 ネフリスはそれを知らない。何故、こんなにもアサナト達が警戒されているのかという事を。


 キィ……という音と共に、牢の鍵が開けられる。


「じゃあ、行ってくるんだ。……ユーリと共に、頼んだぞ」


「了解しました」


 アサナトがユーリと頷き合い、意思を伝えた。本当にネフリスだけ連れて行くつもりの様だ。


「……分かりました」

 苦虫を嚙み潰し、ネフリスはユーリの手に引かれた。


 キアを助けるというのが目的だと思っているが、実際には国と本格的に戦うという事なのだ。宮殿に潜入すると言うのは。


 見つかったら死刑もの。ネフリスは国を相手するという事に身震いした。


 だが、オークリーダーの遺志だ。助けなければ倒したものとしての面汚しになる。

「死ぬんじゃねえぞ、ネフリス」

 イェネオス励ましの言葉をかける。


 他の全員の仲間達も同じく励ましの言葉を掛けて来た。


 律儀に応え切る暇を与えずに、ユーリがネフリスの手を引いてきた。


「警備員の異変に気付かれた様です。応援が送られてきますよ」


「え?僕の耳には何もーーー」


「いや、敵意を持った兵が来るのは合っている。行くべきだ」


 ネフリスの声を遮り、アサナトは言う。


「……分かりました」


 ネフリスは、そのままユーリの先導で牢屋を後にした。


 命を共にした仲間を置いて、与えられた任を達成する為に。


 キアを救う為に、彼は国を敵に回す。


 オークリーダーの残した意志を継ぐ冒険者として。



 ーーいずれ、彼の理想の姿に届く為に。

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