第十一話『この国は腐ってる!』
カラリエーヴァ王国第三王女を助けると言う奏功を成した後、僕達は元々の目的のクエストへと何気なく戻って行った。
……で、今分かった事ですけど。
この人達、厄介事に巻き込まれやすいのかも……。
その理由は……。
「ネフリス!来るぞ!!」
「あ、はい!」
そんな事を考えていたネフリス。アサナトに呼ばれて瞬時に思考を切り離し、目の前の敵に集中する。
今ネフリス達の眼前に居る敵は、阿修羅。
金下位クラスの化け物だ。明らかにまずい。
そもそも、この国に居るべき魔物じゃないのだ。阿修羅は。
希少性が高いが故に、攻撃の仕方があまり判明していない。
分かるのは、腕が六つあって、その一つ一つに剣が握られている、という事だけ。
そして、右上腕と左上腕に携えられた剣が一番不味い。
切れ味が他の剣の比ではない。
ネフリスの剣と一度打ち合っただけで剣を粉砕してみせた。
いや、あれは粉砕ではない。紙を切る様に、鉄を鉄とも思わない様に、綺麗な縦線を描いて両断したのだ。
魔剣の如き斬れ味。膨大な魔力が込められていて魔法の攻撃を意にも介さない。
あの剣の付け入る隙と言えば、片刃だという事。
本当にそれだけなのだ。他の四つの腕も入れれば、懐に入るのは能力を使わねば無理だ。
だが、攻撃を入れる為の剣が無い。
そもそも、止まる時間は一.五秒のみだ。間合い外から走ったとしても間に合わない。
それ程までに巨大な魔物だ。
言葉を喋る知能は無くとも、鍛え上げられた剣術は消えない。
何故、ただのゴブリン退治に来ただけなのにこんな存在が居るのだろうか。
ネフリスは、阿修羅の攻撃のパターンを必死に読み取ろうとした。
「くっ……!?」
だが、阿修羅はそんなネフリスの事さえも脅威と認定し、隙など見せずに襲いかかる。
ネフリスの持つ武器は拳。そして魔力。
ならば。
「少し前線頼みます!」
ネフリスはあの剣を見て、ある事を思いついた。
ネフリスは上空に大きく後転し、空中で魔力を貯める。
静心。身体中を流動せんとする奔流。
清浄。自然と同調する閑寂とした感覚。
……そして、刀心。万物を斬り裂かんとする、鋭利な刃。
ーーー理解。ネフリスはその名を呼ぶ。
「『魔剣召喚』
これは魔剣召喚。
使用難易度は、魔法の中で最高難易度だ。
天賦の才能を持つ魔導師でさえ習得するのには何十年と掛かる、最高位の魔法。
それを、今ネフリスは具現化している。
十六歳の彼の体には身に余る力だが、彼には膨大な魔力量がある。
魔剣召喚の消費魔力は凄まじいものだが、これならば一分は持つ。
そして、これなら。
ーーーーあの剣に勝てる。
着地した彼の右手には、紅い刃が光る。
「イェネオスさん!」
「OK!」
イェネオスは火花が散る盾を振り回しながら、それを足場に構える。
「お前ら、引き付け頼む!」
「了解」
アサナトとエセウナは力を込め、一挙に爆発させる。
流星の様に地面を駆け、二人は降りかかる四つの刃を受け止めた。
響きを上げて散る火花。
それを確認してネフリスは歩みを始める。
そこにシリアンとナミアは強化魔法を掛け、背中を押した。
一瞬でネフリスはイェネオスの盾の前に位置し、足場を踏み込んだ。
その跳躍力は巨大な阿修羅を空で眺める程だった。
紅い光が空で煌き、その光は閃光となって。
「はあっ……!!!」
二本の魔剣を斬り裂き、巨大な阿修羅を……二つに分けた。
♢
「いやー。まさか阿修羅が出て来るなんて思うかよ」
「何でこんなに高ランクの魔物に遭遇するんですか……」
イェネオスの言葉に便乗する様にネフリスは言う。
「知らん、気付いたら遭遇してる」
「そんな事は良いんだ……ネフリス、いつの間に魔剣召喚なんて出来る様になったんだ?」
「あの時だけですよ。なんか溢れ出てくるイメージに身を任せたら、気付いたら……です」
「ですけど、出来るだけでも凄いですよ」
シリアンがネフリスをおだてる。
魔導師でもあるシリアンが言うのだから、やはり魔剣召喚の技術は凄いのだろう。
そんなこんなで、ネフリス達は冒険者ギルドへとついた。
キアも合流し、ネフリス達は中へと入って行く。
……何故か異常な視線を感じたのは気のせいなのだろうかと思ったが、気の所為だとし、無視した。
入った途端に、受付嬢のユーリが出迎えはした……が、何やら様子がおかしい。
「ちょっとちょっと……」
「ん?なんだ?」
ユーリが手招きをし、アサナトが耳を貸す。
途端に、アサナトの表情が青ざめて行く。
「は?どう言う事だ?」
「どうしたんですか?」
「どうやら、俺達……指名手配された様だ」
〈……は?〉
一同の間に稲妻の様な茫然とした空気が流れる。
理解に苦しむ一同だが、イェネオスが焦りながら言う。
「何が問題になっているんだ?」
「手配書では、不敬罪と書かれております」
ユーリが、その手配書を見せた。
手配されていたのは、そのままそっくり、アサナト一行のパーティメンバー全員だった。
そして、思い浮かぶあの記憶。
「ストフ、とか言う女王近衛隊煽ったせいか?」
「絶対それよ……でも」
アサナトの言葉に、呆れる様にナミアが言う。
「流石に国家権力の無駄遣いな気がするんですがー……」
流石にいつも笑顔を絶やさないシリアンも困惑している。
「女王近衛隊って、私怨に塗れてるんですかね……」
「言うな……ネフリス。多分、あの小僧だけだ」
そんな風に途方に暮れている所に、怒号が鳴り響く。
「見つけたぞ!来てもらう!!」
アサナトは溜息を吐く。
(なんか変な方向に腐りきってるな、この国は)
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