第十話『王女救出』
僕達は、オークリーダーの遺したキアと共に、町巡りをしている所だ。
ここ、カラリエーヴァ王国は軍事力、経済力共に優秀な大国。
そしてほかの国とは違う所は、女帝王国という事。
その所為もあってか、法律で定められてすらいないのに女性が大事にされる兆候がある。
レディーファースト先進国みたいな側面もあるようです。
まあ、僕のパーティはそんなの気にしない様ですけど。
今現在も「あのスイーツ食べたい!」と駄々をこねるナミアさんをアサナトさんが引き摺っている。
そして何故かナミアさんが「クエストでの魔物退治数で勝負よ!」とか言い始めてイェネオスさんが変に引き立てて、今はクエストに向かっている所。
最初はただの町巡りの筈だったのに、何故こんな事に……
と、そんな時、僕達の耳に、
「きゃあっ……!?」
悲鳴が鳴り響いた。
♢
「ねえ、今のって……」
「近くで何かあった様だ。行くぞ」
悲鳴に気付いたナミアに、相槌を打つアサナト。
ここは山中。強盗の可能性がある。
「女性の悲鳴だったよな」
イェネオスは走りながら言う。
イェネオスの言う通り、あの声は女性の物だった。
強姦目的の輩かも分からないので、注意して行動しなければいけなくなったかも知れない。
ネフリス達は悲鳴の出所に向かって走った。
足が遅いキアは抱えて走り、シリアンは浮いて向かって行く。
そして、ネフリス達はその光景を目にした。
「盗賊……?」
それは、複数の馬車が盗賊に襲われている所だった。
複数に連なって移動していた様だが、それぞれ盗賊に制圧されている。
そして一番中心の位置にある馬車の近くには、十人程の盗賊達に囲まれている騎士の様な者達が馬車を守っている様だった。
騎士達も引けを取っていないが、気圧されているのか盗賊達に押されている。
このままでは死人が出る。
つまり、救助が必要という事だ。
アサナト達は動いた。
気付かれない様に音も立てず、連携も目とハンドサインのみだが、着実に道中の盗賊達を無力化して行く。
正に暗殺者の様な動きだ。
そして、その暗殺者達の刃は中心の盗賊達に向けられる。
「動くな」
「なっ……!?」
シリアンとナミアが盗賊全員に氷の刃を向け、他全員は主力そうな盗賊達を抑え込んでいる。
これで無力化が完了された……と思った。
アサナト達の後ろの草むらが揺れ動いたかと思えば、そこから十数人の新たな盗賊達が飛び出てきたのだ。
シリアン達は咄嗟に氷の刃を先程拘束していた盗賊達の両足に突き刺した。
飛び出して来た盗賊達の中に、リーダー格と思われる人物が居なかった為、一番リーダーそうな人物が居たさっきのグループの無力化を優先したのだ。
下手に飛び出してきた盗賊達に打つと、さっきまで捕らえていた盗賊達に背後を取られる事になる。
これで、一つのグループの問題は解決した。
そして後は残る一つのグループを排除するのみ。
それは、ネフリス達を取り囲む様に円状に襲いかかっている。
アサナトは刹那の間、エセウナに指示を送る。
忠犬に襲えと言うように、アサナトは軽く。
頷く前にエセウナは……一瞬で。
盗賊達をたった一閃のみで薙ぎ払った。
その剣の軌道は間合いなど無視して、剣筋は全て盗賊達の首筋に当たっていた。
「かは……ッ!?」
呻きを上げて、盗賊達は勢いを失って地面に崩れ落ちて行く。
一瞬の事過ぎてネフリスは理解できなかったが、これだけは分かった。
十数人居た盗賊をエセウナは峰打ちで難なく排除してみせた、というあり得ない結果を。
明らかに剣の間合いから外れているのにも関わらず、伸びる様に排除したエセウナの剣術を知りたい所だ。
アサナトは全盗賊の排除を達成したと確認する。
さっきまで足に氷の刃が刺さって呻いていた盗賊達は全て気絶し、魔法によって捕らわれている。
シリアン達が既に盗賊達の拘束に取り掛かっている。
これならば気兼ねなく騎士達に言える。
「大丈夫か……?ってお前達、女王近衛隊か」
「女王近衛隊?」
ネフリスが知らない言葉に問いを掛ける。
「この国の女王様を守る、国家の法律の権化みたいな奴らだ」
「へえ……って女王!??」
驚くネフリスを置いて、アサナトは額から血を垂れ流している女王近衛隊の一人に回復薬を投げる。
「王女の護衛か?」
「……」
回復薬を上げているのに、感謝もしない女王近衛隊に若干怒りを抱くアサナト。
それに気付いたのか、イェネオスが不満そうに申してきた。
「なんだー?助けてやったのに感謝の言葉無しか?」
「誰が貴様らなんかーーーーー」
「それについては我が申そう!」
口答えした女王近衛隊の言葉を遮り、馬車の中から聞こえてくる大声。
馬車の扉を開けようとした様だが、
「あれ?開かない……」
「安全の為です。第三王女様」
騎士達の一人が言う。
「……なッ!?出せぇっ!!?出すのだ!」
「それは出来ないとーーーー」
更に付け足す騎士の声を、激しい轟音がかき消した。
……扉が蹴破られたのだ。吹き飛んだ扉により、その騎士は犠牲となった。
「っふぅ……出れた」
舞い上がる激しい砂埃から、小さい少女が出てきた。
綺麗なドレスを着こなしているところから、やはりこの娘は王女なのだろう。しかも第三王女。
「王女様!!?今出られては……」
女王近衛隊がそう焦り、王女を急いで馬車の中に押し戻そうとする……が。
「やめるのだ、ストフ!」
少女の怒号により、それは取りやめさせられた。
と、あの無愛想な女王近衛隊はストフと言うのか。
「……気を取直して。……お主らに感謝を述べる。我の命と、臣下を守ってくれて、我は嬉しいぞ」
「……意外と危なかったけどな」
「言うでない。ストフは新人なのだ」
「だが女王近衛隊なのだろう?」
「そうだが?」
「……ストフ、お前は危うく国の王女様を死なせてしまう所だったんだぞ。俺たちの助けが無ければ、お前ごと王女はお陀仏だった。ーーーーー王女すら守れないで、何が女王近衛隊なんだ?」
「……は?」
黙って聞いていたストフが切れる。
「怒った所でお前の実力は変わらない。これくらいの挑発で憤慨するくらいならば、尚更女王近衛隊なぞ辞めてしまえ」
「アサナトさーん、もうそこら辺で」
シリアンが止めに入る。
「なに!?私を侮辱したな!」
「実際そうなんだからーーーー」
「はいはい!やめじゃやめ!行くぞ、ストフ」
一触即発の雰囲気になった所で、王女がストフごと馬車に押入れ、そのまま走り去っていった。
「済まぬ、礼は後でする!」
と言い残しながら。
騎士達もほかの馬車に乗り、逃げる様にアサナト達の視界から消えて行った。
ネフリスは、危うい事態を回避できたと安堵する。
「ちょっと言い過ぎじゃ無いの?幾らあの子が成長する為だとしても、あれは流石に……」
「済まない。つい……な」
「はあ……」
ナミアが深い溜息を吐き、事は終わった。
だがネフリスはこの時、これがきっかけであんな事になるなんて、思ってもいなかった。
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