第八話『魔族の恥になろうとも』

 

 僕達はオークリーダーを倒した。


 人を襲い、人族の脅威となるオークリーダーを。


 圧倒的実力差の中で、僕達はオークリーダーに打ち勝った。


 でも、なんだろうか……この虚無感は。


 その真意を知るべく、僕達はオークリーダーが命を賭して守りたかった物を見に行く事にした。


 立って死んでいるオークリーダーに僕達は深くお辞儀し、その奥へと足を踏み入れた。


 そして進んで行くと、眩いばかりの光が通路の奥から差し込んでいるのが分かった。



 ……太陽だ。



 僕達は走り、その光景を目にした。



「ーーーー綺麗」



 僕達は気付いたらそう漏らしていた。


 洞窟最深部。


 あまり下に掘られていないと思ったら、こんな空間があるなんて。


 ……見上げる程の膨大なその地下空間は、上がくり抜かれた様になっていて、そこから太陽の光が差し込んでいる。


 木漏れ日の様に流れ込む光の筋から大きな滝が流れ、大きな虹を作り出していた。


 よく見ると、天井には小さな鍾乳洞が出来ている。


 滝から流れる水は僕達の目の前にある湖を作り、その湖が太陽の光を反射して空間内部に青い水模様を映し出している。


 湖のお陰か、地面には花や緑が咲き誇り、木すらも生えている。


 正に、清流の地下空間と言うべきか。


 恐らく、今まで僕達が居た洞窟が人口で、この地下空間だけ天然なんだろう。


 それにしても……圧巻だ。


 こんなに綺麗な空間は見たことがない。


 そんな風に景色に見惚れているネフリス達に、アサナトが異物を発見し、言い放つ。


「おい、テントがあるぞ」


「テントぉ……?本当ね、ある」


 ナミアが目を見開いて地下空間内部に一つだけ設営された少し大きなテントを見つめる。


「もしかしたら、あそこにオークリーダーさんの守りたかった物があるんですかねー」


 シリアンがそうこぼし、ネフリス達は急いでテントへと走った。



 ♢



 そして、ネフリス達はテントを開けた。


 待っていたのは奥にある扉と、その前にある書類の山だった。


 ネフリスはその書類の山に埋もれている、一冊の書物に目がいった。


「『日記』……オークリーダーのでしょうか」


 そう思うと、ネフリスはおもむろに日記を開いた。


 これは、その日記の一部である。



_________________________________________________



 一日目


 我は(黒塗りされていて読めない)様からオークリーダーの位を頂いた。


 日々の頑張りが報われたのだろうか。


 そして、我はそのまま任を与えられた。

『人族を駆逐せよ』と。


 我はその任を喜んで受け取った。人族を抹殺するのが、我が一族の悲願だからだ。


 そして我はその記録として日記を書く事にした。

 慣れないが、これも人族を滅ぼしたと言う我の栄光までの記録だ。我慢しよう。



 八日目


 我は魔族の復讐の為に、今現在仲間を着実に増やしている所だ。


 人口洞窟も作り始めた。だが人手が足りない。二体だ。まだまだ足りない。


 もっと二人には繁殖を繰り返して貰いたい所だ。



 二十日目


 人口洞窟を掘り進めていた所、何やら天然の地下空間に出てしまった様だ。


 だがここは良い……仲間達が喜んでいる。


 当分の食料問題も、地下空間に生えているりんごの木で補える筈だ。


 人間を食したいという仲間も居るが、まだ仲間が足りない。却下しておいた。



 二十五日


 とうとう仲間達血に飢え始めた。


 全員、人間に飢えている。


 ギーグに聞いたところ、近隣の山中に獣人の群れが集落を作っているらしい。


 今夜そこを襲う事にしよう。我も腹が空いた。



 二十七日目


 襲撃は完了した……が。


 どうしたら良いのだろう。


 獣人達の悲鳴を聞くと、何故だか心が締め付けられる様に痛む。


 咄嗟に仲間達を欺いて、一人の亜人の少女を引き取った。


 ……今思った事だが、集落を襲って良かったのだろうか。


 ーーー痛く無かっただろうか。



 二十九日目


 ……駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ!!


 私に人は殺せない。腹の足しにしようと、拾った亜人の少女を食おうとしたが……我には出来なかった。


 痛いのか、苦しいのかと考えてしまう。


 ……我は魔族の恥なのだろうか。


 それとも、仲間達がおかしいのだろうか。



 三十五日目


 今日、ギーグに亜人の少女の事をバレそうになった。


 咄嗟に嘘を吐いたが……我は遂に一番慕っていてくれたギーグさえも裏切ってしまうのか。


 だが仕方ないのだ。分かってしまったのだ。


 我に人は殺せない。我は魔族の恥だと。



 三十六日目


 この少女に我はキアと名付ける事にした。


 理由は無い。だが呼び名が無いと可哀想だからな。


 キアもそれで喜んでいた様だから、良いのであろうが。



 三十八日目


 仲間達が近隣の村を襲おうと言ってきた。


 ……却下出来なかった。


 決行は明日の夜だ。


 我に最高の人間を食わせてやると、仲間達は言った。


 ……どうしたら良いのだろうか。


 人間が好きな我と、オークリーダーとしての我。


 どちらを取っても、仲間とキア、どちらかを裏切る事になる。



 我は……。



 三十九日目


 どうやら、我の洞窟内に侵入者が来た様だ。


 冒険者の様だ。何人か仲間が殺されている。


 ……我に人は殺せない。キアで分かった。


 行くしか無いのだろうか。




 ……仲間の悲鳴が聞こえた。



 ……行かなくては。せめてキアだけでも守るのだ。



 キアだけは殺させない。



 ーーー我の希望なのだから。

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