第百八話『闘い終わりの負け惜しみ』
準々決勝。
ユト・フトゥールムとアーサー・アスタチンの戦闘は、ユトの勝利という形で幕切れとなった。
観客も、アーサーが剣聖だと言う事をすっぽりと忘れていた。
ロベリアが言った通りに観客から『剣聖』と言う
けれど───。
敗者アーサーは、どこか腑に落ちずに居た。
拳を握りしめ、尚も暗い顔をして思っていた。
先程の戦闘で、自分は───手を抜かれていたと。
自分が負けたのが不服な訳では無い。
あれが熱き戦いだった事も否定しない。紛れも無い事実だ。
だが……。
───敗北を、こうも喜べないとは。
かつての自分だったら、それを糧にして進んだだろうな、と。
『戦いの負けは、お前の終わりでは無い』
自分の師匠の言葉だ。
師匠は───「不敗の戦士など居ない。お前の目の前に立つのはそう言う輩だ」
そうも言っていた。
その時の自分は、本当にその通りだと思って───信じて鍛え続けた。
負けても次がある。
そうしたらいつか勝てるって。
だが、ユトの場合は───違った。
──────圧倒的実力差。超えられない壁。
小さな少年の様な体躯を持つ人間に、自分は抵抗出来ずに打ち負かされた。
油断も、隙も無かった。
少年は全てを見透かし、その拳のみで自分を負けさせた。
こっちも、それ相応の覚悟で相対した筈なのに……。
それら全ては、焦りを見せる事なく対処された。
観客からしたら接戦に映っただろう。
あれは両者共力を振り絞った戦いだったと、誰もが言うだろう。
だが、それを真っ向から否定出来てしまうのが……相対していた自分自身だ。
ユトは
使えた筈なのに。
使えばリーチの差など無かった事に出来るのに。
───だが彼は何故かそうしなかった。
戦いを終えた今なら分かる。
ユトがそれを使わなかったのは───自分が弱かったから。
使うべき敵ですら無いと判断されたんだ、自分は。
はぁーあ。
どんな敵だって、いつかは超えられると……自分はいつの間にか過信していたんだろう。
けれど、いざ先輩と戦ってみたら───世界の広さって物を見に染みて理解させられた。
──────悔しいさ。
自分の弱さが憎い。
自分の覚悟の脆さが嫌い。
今すぐ逃げて……泣き叫びたいくらいだ。
もっと素直で、ガキで居たかった。
じゃなきゃ───こうして嫌いな負け惜しみする事も無かったのにさ。
だけど、これだけは言わなくちゃならないんッス……先輩。
「──────良い戦いだったッスよ、ユトさん」
そして、熾烈を極めた準々決勝前半は終わりを告げた……。
♦︎
準々決勝前半が終わった以上、次に開催されるのは後半。
今度は第三ブロック覇者と、第四ブロック覇者の戦いが始まる。
当然、戦うのはモイラとユークリッド。
両方とも、色々頭のネジが外れてそうな二人組。
その対戦が、前半戦から五日経った今に開始される。
そう。もう───今に。
アリーナには二人の女性が並び、順々に紹介されている。
勿論、こっちの後半戦も大盛り上がり。ロベリアも当然居る。
そして歓声、罵声、発狂。
色々な声が会場の隅から隅まで行き渡る。
つまり、不快だ。
ロベリアも、それへ露骨に嫌な表情を浮かべていた。
───あ、いや。ユークリッドの説明の時だけだ。
何故かは分からないけど、どうせ「あの女にはキョーミ無いわ」とか言ってるんだろう。
ユークリッドも強いと思うんだけど、彼女の何処が気に入らないんだか。
取り敢えず始まるみたいだから、外野の僕達は黙って観戦しておくとするか───。
♦︎
「よぅお〜し!モイラさん頑張っちゃうぞー!」
「元気なのは良いが、あまり飛ばし過ぎるなよ?」
アリーナにて睨みあうモイラとユークリッドは、戦前の会話を行なっていた。
相手の油断を誘う訳でも、騙し討ちしようとかの目論見は一切無い。
ただ、女子トークをしているだけだ。
「了解了〜解!……っでユークリッドさん、準備オッケー?」
「───いつでも」
「じゃぁじゃあ勝った方美味しいスイーツさん奢りで──────いざ、参る!」
「なんか聞き捨てならない単語があった気がするがまあ良いアタァック……ッッ!!」
そして、ふざけた様で真剣な戦いは始まり──────。
♦︎
「勝ッッたー!ユークリッドさんスイーツ奢りっ!」
「……はあ」
そして終わった。
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