第百九話『次回、誰か死す!』


 ユークリッドが、何故かモイラへスイーツを奢ることとなった今日この頃。

 準々決勝後半が終わり、次は準決勝だと言った所で。

 モイラは、先刻終えたばかりの戦いを影ながら、スイーツを頬張りながらに思い出していた。

 少し気になった点が二つほどあった為だ。


 一つ。

 ユークリッドが、やけに早期決着を望んでいた点。

 これは、何らかの事情があっての事なのだろうが、真意は理解できない。

 ただ単にユークリッドが、早めに戦いを終わらせたいタイプだったかも知れないから。


 二つ。

 モイラが最後の攻撃を仕掛けた際に、ユークリッドはわざと攻撃を受ける様な構えを見せた事。

 モイラの切り下げに、ユークリッドは何故か首を曝け出したのだ。

 防御も取らずに。

 明らかに故意としか考えられない。

 証拠もある。

 と言うのもモイラ自身だが。

 兎に角ユークリッドは、それ以前の戦いでは、実に強敵だった。


 彼女の戦い方を簡単に評価すると……。

 ───堅実。それでいて美しくて無駄のない槍術。

 相手を常に見据え、様々な種類の攻撃で相手を追い詰める技巧派。

 流水の様に流れる槍捌きに、時々烈火のような猛攻を織り交ぜてくる。

 だと思ったら魔法などの、予測出来ぬ攻撃をしてくるしで───。

 本当に、相手を翻弄させる攻撃ばかりだった。

 頭をフルに回転させて動いている、熟練の戦士なのは確か。


 ──────けれど、あの時だけは油断したのか、彼女は自分から首を差し出した。

 結果、モイラの寸止めによる即死判定で、ユークリッドは敗北した。


 しかも、その後の表情だ。

 激戦だったのにも関わらず、息を切らさず『敗北』をどうにも思っていない顔振りだった。

 仕草もそれほど鈍っておらず、単にモイラは『勝ちを譲らされた』と言う雰囲気に陥った。

 ただ淡々と、やる事を終えた仕事人の様な……。

 まあそれ以上、本人から何も言ってはいないので何とも無いと思うが───。


 ♦︎


 数日後。

 習慣になりつつある酒場での語り合いを、今僕達はしている。

 気付けば、もう明日に準決勝が控えるまでに日付は進んでいた。


 ───もう一度言うが、僕達はそんな緊張するべき時に酒場へ入り浸っているのだ。

 理由はまあ……色々あるが。


「いよいよ明日からだったか?準決勝」

 酒を呑み、酒豪の如く酔わず聞いてくるユークリッド。

 もうラム酒数杯は飲んでいる筈だが、言語能力に支障すら出ないとはね。

 今回、横には剣聖バージョンのアーサー君を置いている。

 以前の様に、酔って手に負えなくなったら大変だからね。人格を替えてもらった。


「……そうだね。───でも、心配する事は無いと思うよ」

 僕は頷いて答えた。

 手前の水を飲みながら。

 言っておきますが僕『見た目は』少年なんだ。

 酒なんて頼める筈もない。

 それはモイラも同様。

 過去をなぞる様にオレンジジュースだ。

 つまり酒が入っているのはアーサー君とユークリッドのみ。


 僕達はノット飲酒。オーケー?

 と言う訳なので、そこだけは理解して頂きたい。


「確か、ユトは勝ちを譲って欲しいって言ってたよな?」

 アーサー君は、瓶一杯の酒を飲み干しながら聞いてきた。

 相当、剣聖の方のアーサー君も酒豪の様だ。

 ……と、それは置いておくとして。


「うん。フォークトだけは、僕が倒さなきゃいけないんだ」

「……だが、それってデキレースになるんじゃ無いかね?」

 ユークリッドは、僕の呟きにすぐさま反応した。

 フォークトについて何も聞いてこないところから察するに、モイラ含めて僕の過去他言無用と約束したのを守ってくれているみたいだ。

 いやはやそれにしても、口が軽い創造神を持つと事後処理に疲れる。

 兎に角。

 僕はユークリッドを見据え、凛々しく告げた。


「───そこを激戦に仕立て上げるのが、僕達だよ」

 僕は、戦士として───経験積んだ化物として、不敵なる笑みで返した。

 それにユークリッドは、一瞬キョトンとした顔で動きを止めたが、直ぐに笑った。


「……フ。愚問だったか───だが気を付けろよ、観客席にはロベリアも確実に出向く。そこで何をしでかしてくるか分からんから、油断は禁物だぞ」

 されど最後には真摯な眼で。

 ロベリアの危険さを再確認させる様な真面目な表情で、ユークリッドは言い放っていた。


「確かに、言う通りだね。気を付けて行くさ。───モイラもね」

「了解。逆境窮地地獄……はやだけど、何でもござれだよ!じゃあまず戦いに備えて英気を養おう!オーナー、オレンジジュース一丁!」

「……はぁ。本当に大丈夫なんだろうか──────」


 活気溢れる酒場。

 騒がしい酒場は、創造神を渦にして更に盛り上がりを増して行く。

 それを横目に語らう三人には、もう友情と呼べる絆が育まれていた。

 どれだけ戦っても、いつかは仲間として最後には共に戦い合う。

 まるで盃を交わし合った兄弟の如く。

 そうして彼等は決意を抱き、共に勝利を語り合うのだ。

 けれど。


 ──────その内の一人誰かは必ず明日……死ぬ。

 鮮血、裏切り、人殺し。

 屍の血肉を得てして、血の歯車は狂気で動き出す……。

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