第百三話『籠手の可能性』
先手を取ったのは勿論僕。
籠手のみで戦う以上、こう言った所で素手独自の機動性を発揮せねば遅れを取る。
相手は剣。
それも、振り回しやすくアーサー君の体付きにあった物。
見た限り剣には特殊な構造は見受けられず、正当な両刃剣と伺える。
もう一度言うが。対して、僕は籠手。
そもそも、籠手など剣と真っ向から打ち合う為に作られた武器でも何でもない。
籠手は元より剣での勝負に於ける腕の防御手段。
つまりそれを攻撃の主軸に置くなど、ほぼ愚行に等しいのだ。
けれど……それを僕が使ったらどうなるか、剣聖に身を以って知って頂こう。
「……くっ」
拳と剣は拮抗し、熱く火花を散らす。
今は、アーサー君の方が
続け、僕は攻撃を放つ。
疾風の如く突きを。
流れる様に連続させて。
されど精緻に隙を見逃さず。
少年からの猛攻に剣聖は防戦を強いられている。
散る火花。
燃え滾る観客。
舞い上がる汗の中で、両者は睨みを交わす。
──────瞬間。
(……見えた)
アーサー君は、隙を見計らって僕を剣で吹き飛ばした。
一応僕も籠手で受けたが……。
───ドン。
勢いのまま、小さな体はいつしか壁に叩きつけられていた。
大量に巻き上がる土煙。
アリーナの中心から端まで吹き飛ばされたのだ。
勿論、観客は一時の歓声が飛ぶが。
──────これで終わるはずがない、と剣聖は強く剣を握り締めていた。
そして、その幻想は現実に変わった。
土煙は、突然晴れ。
中からは、無傷の少年が。
それは、気付けば消え。
……剣聖の喉元を横切っていた。
「……」
喉の薄皮が剥がれる。
けれど、剣聖は焦らない。
以前、少年に教えられた事だから。
───『露骨さを捨てろ』と。
さすれば、剣術はそれに応えてくれる。
だからこそ、彼は振るう。
少年に応える為に。
「……ッ。ふーん」
背後を取ってからの空中攻撃は、難なく防がれた。
こちらを見ずの、引き際の剣撃によって。
僕は一度感心するが、追撃を食らわす為に思考を切り替え。
──────着地と共に拳を突いた。
けれど、されど。
拳の攻撃は宙を射抜き、火花と同じく空を散った。
……剣で軽くいなしたのか。
ふむ。ならばこれはどうかな。
続け、僕は拳のみならず足を使ってアーサー君を追い詰める。
「ぬ……ッ!」
魔力で強化された拳と蹴りは、計り知れない威力を以って対象を狩る刃と化す。
鍔迫り合いなど起こらない。
格闘独自の隙の無さと、僕自身の技量。
それらが加算され、並の剣撃以上のスピードと威力を発揮していた。
残像が残る程の猛攻。
烈火の如く襲いかかる攻撃に、剣聖は防戦一方。
隙を見せればそこを容赦無く突かれるので、アーサー君は下手に動けずにいた。
──────だが『攻撃を受け続ける』と言うのも、僕にとって悪手に映る。
「なッ……!?」
僕の前では、一度繰り出した攻撃・太刀筋は通用しない。
もう、覚えてしまったから。
見切ってしまうから。
それを恐れて別の剣筋を取ろうと、体付きからも攻撃を察せてしまう。
さぁ、アーサー君。
──────君は、何回同じ行動を取った?
僕はその小さい体躯を生かして剣聖の懐へ潜り込んだ。
彼の剣は先程放ったアッパーによって、腕ごと上に打ち上げられている。
……
けれど、僕は早期決着を望まない。
ここは投げ飛ばしておくか。
僕は突いた拳を開き、アーサー君の襟を掴んだ。
そして、そのまま。
後方へと投げ飛ばした。
「く……」
無様に空中を舞うアーサー君。
けれど彼も雑魚では無く、簡単に受け身を取って剣を握り返した。
だが、それも隙。
「ぐぅっ……」
──────彼は、竜巻の如く飛来し、勢いをつけた突きを食らってしまった。
一応剣を盾にしていなした様だが、それでも数メートルは仰け反った。
けれど、直ぐ立ち直って切っ先を向けるアーサー君。
土を被った彼に、僕はゆっくりと歩み向かう。
引導を渡してやる、と言わんばかりに。
でも、この時の僕は少し感じていたのかも知れない。
……剣聖には、まだ何かあるると。
──────そして、その勘は現実となった。
『……俺にやらせて下さいッス』
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