第百二話『あのクソカマ……』
重く、それでいて気合の入った足取り。
籠手を握り込み、他武器を携えぬ佇まい。
薄暗い、ランタンの光がボンヤリと
彼は服の若干の乱れを直し、息を吐く。
そのまま目を見開き、そこから数歩歩いて。
少年は、目先の光と歓声に身を投じた。
♦︎
第一ブロック覇者ユト・フトゥールム。
第二ブロック覇者アーサー・アスタチン。(偽名アリ)
両者とも、激戦を勝ち抜いてきた戦士。
だからこそ、観客は燃え滾る。
歓声と期待。
よもや東京ドーム程の敷地を有するまでになったアリーナには、絶えず声が鳴り響く。
観客席はすりきり一杯の大盛況。
ロベリアの狙い通り、僕達は闘技場を盛り上げ、金を稼ぐ為のファクターとなった訳だ。
……不快だけれど、今はあのオカマを手にかける時じゃない。
悔しさか戦いへの矜持か、僕は拳を握りこんだ。
瞬間、アリーナ中に怪奇な声が鳴り響く。
いつもの実況かと思いきや──────。
「こんにちワ☆今回のファイター紹介はワタクシ、裏闘技場管理者ロベリアが行うわ♡」
元々実況する筈だった人物の魔法
「嘘っ!?」
更に驚きで飛び上がる観客席のモイラ。
突然なるロベリアの介入に、大勢の観客達は歓声を忘れ、静寂に呑み込まれた。
続け、ロベリアの狂気的な声がアリーナに響き渡る。
「……右が、お馴染みユト・フトゥールム。可愛い少年ね、食べちゃいたいくらい☆それでも彼は籠手一つのみで勝ち上がって来た化物♤今回もどんな戦いっぷりを見せてくれるのかしらネ!」
ロベリアが息を継ぐ途中に、僕は嫌な雰囲気を感じてロベリアを睨んだ。
先程の文章に嫌悪を呈したい箇所が一つあったからと言うのもあるが。
すると、特別観客席の玉座に居座ったロベリアはそれに嗤い返した。
……フッ、と。
それも狂気的に。絶対何かある。
──────と、そう思った時はもう遅かった。
「……そして〜。左がアーサー・アスタチン。神術の三大勇者の一角にしてリーダー。うん。魔王軍を打ち倒してくれた剣聖様がわざわざ参加してくれたのね♡ワタクシ、管理者として嬉しく思うワァ〜」
暴露。完膚なきまでの本名暴露。
アーサー君が剣聖だと知れたら大変な事になるから、偽装魔法と偽名を使って防いでいたのに。
あのクソカマ、ロベリアスの管理者なだけに、こんな所で権利を悪用しやがって。
あのオカマはどれだけ注目と金が欲しいんだ?
よっしゃ、後でアイツ処す。
……けれども。
──────僕が茶番を繰り広げている間にも、その『剣聖が居る』という暴露の波紋は広がっている。
───『アーサーだと!?なんでこの闘技場に……?』
───『そもそも、剣聖って最初から大会に参加してたのか?』
───『そうじゃないか……?理由は景品の金目当てか?』
と、言った風に。
疑問が困惑を呼び、観客席は更にどよめきを増していた。
もう、隠し事なんて効かない雰囲気なのは目に見えて分かってしまっている。
僕と相対するアーサー君は諦めて偽装魔法を解き、かなり大きい溜息を吐いていた。
気の毒に。一番の被害者は間違いなく君だろう。
モイラとユークリッドも、観客席で騒いでいるのが聞こえる。
僕が静かにロベリアの事を「どう言う事だ」と睨むと。
ロベリアは「後で記憶消しとくから」と受け取れる仕草を取っていた。
……ふざけている。
これがロベリアの商売か。知恵効いてるね。
僕は頭を掻き
「……はぁ。まあ仕方無い。戦うと決めた以上、それは剣聖だと知れていても全うせねばならないからな。来るが良い、ユト」
アーサー君は仕方なさそうに剣を構えた。
瞬間、観客席は先の困惑を忘れたのか騒ぎ出した。
『よく分からんがやっちまえェェ!俺たちは戦いを楽しめりゃそれで良い!』
ふとすれば、観客席からは困惑では無く、またも歓声が飛び出す様になった。
御託は良い、良いから戦いを楽しませろ、って事か。
──────ならばやってやろうじゃ無いか。
僕は緩んだ拳を握りこんだ。
「……了解。神童が剣聖を喰らう様を、お見せしようか!」
──────そして、戦いのゴングは甲高く鳴らされる。
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