第九十話『出待ち』
四ブロック優勝候補。
モイラには、それが誰なのか……少なからず予想が付いていた。
だが、それだけで────彼が反応する事は、予想外であった。
♦︎
裏闘技場、第一空間。魔法異次元空間内の巨大アリーナ。
そこにて開催された四ブロック第四回戦には、けたたましい実況が鳴り響く。
「──────さぁ登場致しました!四ブロック第四回戦一組目。左は穿てば必殺。技巧派で狙った獲物は逃さない、必殺神弓のアーティ!」
「右は刺せば必中、凡ゆる計算によって相手の行動を予想する頭脳派。その槍の滑らかな動きはほぼ神槍と言っても過言では無い槍の使い手、オラーシェ!!」
……その他、有象無象の観客の歓声は省略。
実況と共に出て来たファイター達は、二人共女性であった。
片方は弓を構え、もう片方は槍を持って。
双方の表情の冷静さから、両方とも場数を踏んでいるのが分かる。
魔力の清廉さや強大さ、コントロールの巧さからしても、両方魔導師としても優れているようだ。
二人共最強格なのは間違いない。
武器の持ち方や構え方からも、双方熟練の戦士だと言うことが伺える。
両方共優勝候補と言うか、強者なのは見て取れるけど……。
僕が気になると言うか推したいのは槍兵の、オラーシェというファイターの方だ。
見た目、その少女のような
実際、僕が見ているのは見た目ではなく、その身に掛けられていた魔法なのだ。
──────偽装魔法。
その身に何故か掛けられている魔法を抜きにすれば、オラーシェというファイターは怪しくも無いんだ。体の動きにも、全く不思議な点は見受けられないしね。
でも、その魔法の所為で不審。圧倒的不審なのだよ。
しかも、謎にその偽装魔法が超高度。
魔法に包まれた中身の女性も、見る限り不審な所は無いしね。
それを含めて怖い。実に怖い。
疑心暗鬼な目でオラーシェを見ている僕の横で、アーサー君は目を擦った。
「……どうしたの?」
僕の心配も、アーサー君は聞かず。
彼は客席をただ一人立ち上がり、何やら現実では無い様な表情で、こう呟いた。
「ユー……クリッド?何故ここにいる……?」
その表情は、久し振りに友人と
「……知り合いなの?ユークリッドさんと」
そう聞いたモイラの口調も、どこかユークリッド、とやらの人物と、馴れ馴れしそうなものであった。
僕は未だ理解出来ないが。
それを以て、アーサー君は頷いた。
人格を変えて。
「はい。あれは─────あの人、ユークリッド・ミリアさんは俺達の戦友ッスよ」
♦︎
戦友。
剣聖と呼ばれた勇者アーサー君は、そう懐かしげな目で告げた。
その目線のいく先はただ一人。
しっかりと槍兵のファイター、オラーシェを見詰めていた。
敬意を持ち、その凛々しい女性を敬うように。
どれだけ未熟でも、アーサー君は一世界の危機を救った勇者───剣聖である。
そんな君がそれだけ敬う相手、戦友と呼ぶ相手。
ユークリッド・ミリアとはどんな人物なのか、ちょっと僕、気になって来たぞぉ。
──────そんな訳で僕達は、出待ちしている。
各ブロックの第四回戦を勝ち抜いたファイターとして、ちょっとだけ闘技場の奥深く……。
ユークリッドに用意された裏闘技場アリーナの、対戦用武器庫に、今僕達は潜入している。
ちょっと面倒臭い、色々なコネを使って逃げられない出待ちしてくる厄介なファンの様にね。
……迷惑だとは思う。犯罪に近いとさえも。
けどモイラの押しと、アーサー君の全力の「会いたい」発言によって、こういった常識を知らない奇行に及んでしまっている。
済まないユークリッドとやら。
意味もないのに会いに来てしまって。
非礼を、先に詫びておくよ。
「……本当に良かったのかい?これって、結構な迷惑行為なんじゃないの?」
一応の警告をしておく僕。
本当に一応、だ。
ここまで行ってしまった馬鹿たちが引かないのは、もう分かってしまっている。
経験が諦めを誘ってしまっているのは癪だけど。
「いいのいいの!多分ユークリッドさんはいい人だから!」
「……はぁ」
多分かい。
モイラの自棄になる様な、そんな軽い説得につい溜息を吐いてしまう僕。
「実際もうそれは良いけどさ、無駄だし。───でもさ、そもそもユークリッドって誰?ガレーシャの母親とか?」
僕の疑問に、おちゃらけた方のアーサー君は笑い。
「まずそれッスよね。ミリアさんが試合を終えて帰って来る前に、ちょっと説明しますよ────」
そして、僕はユークリッド・ミリアという女性について、簡潔に説明された。
いやまあ、貴族だという事とかガレーシャの母親だとか言う、簡単に推理出来そうな内容だったけれども。
それでも、未だ理解出来ない事があるのは確かだった。
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