第八十九話『燃ゆる闘技場』

 

 僕は、第一ブロック第一回戦を勝ち抜いた。

 その余裕綽々たる勝利に駆けつけた、ウザったらしい観客の所為で疲れはしたけど。

 威圧の視線と「近寄るな」オーラを出しておいたから囲まれる事はなかったけれどね。

 けれど、この戦いの所為で色々とヘイトを買ったのは言うまでも無いらしい。


 ───休憩所でちんまりと座っている僕への視線が痛い。


「あいつに弱点とかあるのか?」とか「チビだから、膂力は無いように一見見えるが……」とか。

 もうファイター達は僕の解析を始めている様だ。

 対戦相手の解析は必要だけれど、もうちょっと隠れてやるもんじゃないのかな、それって。

 本人の目の前でやっても意味ない気がするのは……僕だけでは無いはず。


 それはともかく、完全に脅威として見られちゃってるのは確定だね。


 ─────まあ……取り敢えずそこのチビって言った奴表出ろ。


「ひっ……」

 僕が一度睨むと、その他多勢のファイター達は怯える様に走り去っていった。

 ふむ。


 僕を敵として認識するのなら、あれで逃げちゃ駄目でしょうに。

 肝っ玉が座って無いと言うのは、ファイターという稼業に生きる以上致命的なデメリットになる気がするけど。

 周囲に誰も居なくなった休憩室で、僕は溜息を吐く。

 瞬間。


「あ、居た」

「いい戦いだったッスよー、ユトさーん」

 僕に声を掛けてくる人物達が居た。

 一人は声音的にモイラ、で確定なのだが。

 ……もう一人、誰?


 それを知る為、僕がその声に振り返ると。

 そこには何時ものモイラと、オールバックにアホ毛が生えたアーサー君が居た。


「……ああ、君達ね。そのアーサー君も、久しぶり」

 忘れかけていたけど、アーサー君は二重人格者。

 これはおちゃらけた方の人格だ。


 最近、陰気な方のアーサー君しか見てなかったから存在すら忘れてたよ。


「久し振りッス先輩!」

「……先輩呼ばわりは良いから」

 軽々しく『先輩』と敬って来るアーサー君に、僕は呆れたように手を振った。

 そのまま二人は休憩室の椅子に座り込んだ。

 位置的にテーブル越しだ。


 僕は対面で、ふとアーサー君の顔を見て疑問が浮かんだ。


「……あれ?今思ったけどなんで人格ごとに髪型変えてるの?」

 すると、アーサー君は笑った。


「なんでって……区別しにくいでしょう?」

「……確かにそうか」

 帰ってきたのは、実にもっともらしい回答だった。

 それに僕は、頷くしかなかった。


「というかさ──────」

 それに継ぐ談笑。


 そしてそのまま、第一ブロック第一回戦は終了していった……。


 ♦︎


 地下闘技場、幻の五十一階。

 そこにある裏闘技場ロベリアスは今……。


「勝ったァ!勝ち抜きましたモイラ・クロスティー!創造神の名を冠すもの、その間に恥じず第三ブロック一回戦勝ち抜きです!」

『うぉぉぉぉ!!!』


 ──────燃えていた。


 全ブロック五回戦が終わるまでは一日一回、ブロックの回戦が行われる。

 順番で言えば一から五まで、順々に毎日回戦が行われる、という事だ。


 今回は、三ブロック目の第一回戦が行われている最中と行ったところか。

 さっきの実況の通り、三ブロック目の優勝候補であるモイラはその第一回戦を余裕で勝ち抜いた。


 当然、昨日行われた第二ブロックの第一回戦では、アーサー君も勝ち抜いた。


 それもまあ序の口。

 まだまだ七回戦も残っている以上、油断は禁物。


 アリーナに僕達を弱体化させる魔術が掛かっているからね。

 例で言えば、僕の満目蕭条ノ眼ボーダムアイはアリーナに入れば無力化された。

 モイラの神眼も同様に。


 流石に特殊結界とか、忠節無心カラクリキコウ因果剣リアリティ・アルターなどは使えるみたいだけど。


 ……まあ、これらは強過ぎるので使用はあまりしないでおくけど。

 魔術を無効化出来なくも無いけど……。


 ───それをするなら、それ相応の目的と覚悟。そして相手を持たねばならない。

 それが、僕が自分自身に定めたルールなんだ。


 ♦︎


 と、それはともかくとして。

 第二回戦、第三回戦、第四回戦と僕達は勝ち進んできた。


 その内第二回戦を振り返ると。


 僕の第二回戦の相手は弓兵だった。

 相手全ての弓矢を全て弾き落とし、腹パンで勝利。


 アーサー君の第二回戦の相手は槍兵だった。

 陰気な方で戦ったアーサー君は軽く相手の懐に入り、寸止めでの即死判定で勝利。


 モイラの第二回戦の相手は剣士だった。

 モイラも因果剣リアリティ・アルターを使わずの借り物の剣と、剣同士の戦いだったが、手数の多さで勝利。


 そこから第三回戦を簡単に省略すると……。


 僕の相手は拳闘士。そして勝利。

 アーサー君の相手は鎌使い。そして勝利。

 モイラの相手は魔法使い。そして勝利。


 そして続く第四回戦を勝ち抜いた僕達は、他ブロックの対戦も見てみようと思い。

 モイラの第四回戦が終わった次の日の、四ブロックの第四回戦の観客席に出向いた。


 ♦︎


「───すっごい観客だねー!」

 モイラは圧倒されていた。

 アリーナの広さもさる事ながら、持て余す事はせず、結果として大盛況のアリーナに。

 アリーナには見渡す限り観客しか居ない。当たり前だけど。


 観客の数は……ぱっと見で数百人位はいる。

 ……何処から来たんだろうか。


 と言うより、ロベリアは観戦に来ていないみたいだ。

 僕やモイラ、アーサー君の試合は欠かさず来て、その狂気的な目をジッ、と向けてくるくせに。


 ……まあ、いいか。あの怖いオカマの事だ、何か理由があるんだろう。

 そう思い、僕はその事について見切りを付け、モイラの言葉に頷いた。


「確かに。観客席の広さも、僕達の第四回戦の時の、サッカー場みたいなアリーナとほぼ同じみたいだね」

 本当に、魔法異次元空間って凄い。

 こう言った空間も、米粒くらいのサイズに圧縮出来るんだから。

 僕がそう納得していると、横のアーサー君が声を上げた。


「それだけ、注目されているという事か……どんな奴なんだろうか、第四ブロックの優勝候補は」

 僕の言葉に、完全に一観客として呟くアーサー君。

 まあ、彼の言う通り観客は多い。

 第四回戦で、ファイターも八組しか残っていないとは言え、一つの組にこれだけ集まっているところを見ると、やはり観客からしても目玉のようだ。


 ……む。どれ程の強さなのか、ちょっと気になるね。

 モイラと対戦するかもしれない相手だろうし。


「でもなんか新鮮だねー。他のファイターの試合を見るなんて」

「そうだね。と言うか、他人の戦闘を外から見るなんて久しぶりだからね」


「……お喋りは無しで。二人共、そろそろ始まるみたいだぞ」

「お、やっとか」

 アーサー君の忠告。

 談笑モードから僕達は観戦モードに切り替え、ついでに椅子に座り直し、その四ブロック優勝候補の出場を待った。

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