第七十七話『神術の三大勇者』

 

 ガレーシャが、恐る恐る後ろを見ると……。


 其処には、青くなった女性が静かに佇んでいた。


 本当に、そのままの意味で。


 ヒュードロドロ、とか効果音が鳴りそうな、完全にホラーな佇まい。


「きゃあッ!……な、誰ですかこの人!?」


 それにガレーシャは咄嗟に飛び退った。


 その顔は恐怖を隠しきれていない。


 恐怖の視線の先には青く、そのままの意味で透き通った身体の女性がいる。


 そもそも人間なのかすら分からない。


 理由。


 ……彼女は魔力によって作られている様だからだ。


 出力元は……この魔道具の道か。


「多分案内役だと思う。人を驚かせる機能付きの……かな?」


 挨拶混じりに僕は冗談を。


 すると青い女性はフォーマルに、


「……そんな機能は主人から付けられてすらおりません。ですが、案内役なのは確かなので、案内致します。ユト様、モイラ様、ガレーシャ様ですね。こちらへ」


 スルリ、と女性は煽りを回避。


 で、そのまま魔道具山道を突き進んでいく青い女性。


 ……無駄な行動はせずの、効率的な行動。


 正に。


「人工知能って訳かー。なんかサイバー感」


 モイラの通り、あれは人工知能。


 この時代に、完全自律型のAIを作るとは……。


 ……あまり凄くはないけど、この時代の人が下手に見たら完全にオーパーツだと思われるよ。


「さ、サイ……ヴァー?」


 そして、未来にしか存在しない用語の連呼にガレーシャの脳はパンク。


 止まって足踏みする彼女達に向け、僕は忠告、


「困惑してないで。あの子に置いてかれちゃうみたいだよ?」


 僕の言葉通り、青い女性はスタスタと歩んで行っている。


 止まる気配も全く無しで。


「あ」



 ♦︎



 空には雪。


 横には針葉樹林。


 下には、三人と一体の人物達が歩く。


「目的地までの退屈な道のりの間にさ。暇潰しに少し話でもしない?」


 仲良くなる為に。


 人工知能だから、語り合う知恵くらいは搭載されている筈。


「何をですか?」


 うん。行けそうな雰囲気だ。


「いやさ。この雪山も含めて、君を作った主人達の説明を聞きたいんだよ。主にガレーシャが」


 突然の名指しに、ガレーシャは不意に声を上げる。


「……うぇ?あ、まあそうですね。知りたいって言ったのは事実ですし」


 少々取り乱してはいるが、流石に事実。


 それは青い彼女も知っているので、


「……了解致しました。ここの特徴をお教えしましょう」


 そして彼女はゆらゆらと身体を揺らし、語り始めた。



 ♦︎



 約百年前、世界には悪逆と殺戮を良しとする魔王が存在した。


 魔王は大国メイゼラビアンや、リアン王国からの猛勢を跳ね除け、他国家を幾つも破滅に追い込むなど、かなりの力を持っていた。


 その力は人々に『禁忌』と言わしめるほどであったという。


 魔族の頂点に位置する人型邪龍でさえ、簡単に手駒に取られる程であった。


 その軍勢は、例えリアン王国であろうとも太刀打ちできなかった。


 魔王は世界を滅ぼし支配するという強い願望を持ち、その野望は誰にも止められない。



 ……人々は恐怖した。


 止められぬ支配。


 尽くされる悪逆。


 その度が過ぎるあまり、魔王軍側に付く人間も居た。


 魔王出現から数年と経たずに、世界は闇に包まれた。


 そのまま人類は、完全に破滅の一途を辿る……。



 ーーそう、思われた時だった。



 世界に、三人の勇者が現れたのだ。


 祖は。


 一人は世界を聖光で包まんとする、唯一の剣聖。


 一人はその拳のみで世界を突き進み続ける、唯一の神拳士。


 一人はその頭脳で世界を慈愛で満たした、唯一の神導師。


 ……かの名は『神術の三大勇者』


 他世界から遣わされた、世界の絶対なる抑止力そのものである。

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