第七十八話『魔王討伐を果たした勇者、エンドクレジット後の世界で雪山生活』
三大勇者は、その『抑止力』としての力を存分に発揮した。
天命を全うした、とも言えるか。
……勇者は闇夜に沈む常世をその聖光で照らした。
それはやがて、魔王軍に破滅をもたらす。
着々に、着実と。
世界の闇は光によって打ち消され、世界を照らす導きとなりて。
世界の癌と成った魔王軍は、少しずつ勇者軍に劣勢を取って行った。
気付けば……軍は完全に形成逆転。
そのまま、止まる事を知らない三大勇者は魔王軍統領、つまり魔王すらも屠り。
世界を救う抑止力として、人々に凱旋をもたらした……。
……と。これが、過去に起こった惨劇と救済の物語の全容。
「そして、今もその勇者様方はこの雪山にて、世界を幽寂と見守っています」
締め括る人工知能。
「魔王討伐を果たした勇者……エンドクレジット後の世界で雪山生活って事ね」
うんうん、と勝手に頷く僕。
と、その後ろで騒ぐ声が。
「嘘……!雪山に住んでいる人は只者では無いと思いましたが、それが三大勇者ですか……!」
ピクピクと震え始めるガレーシャ。
……確かに、この時代に生きる人間にとっては【神術の三大勇者】なんて人生で一つお目にかかれるかどうか分からない大物……大英雄だからね。
そう驚くのも無理はないし……。
その勇者達の土地に難なく入れる僕にも、多分その驚きの矛先は向く。
だから……プイっと。
疑念の表情を浮かべたガレーシャの眼差しは、そのままこちらへ。
「……何か?」
「いや。……何か?じゃ無いですよ!なんでユトさんがそんな勇者さん達とお知り合いなんですか!結界に軽く入れたって事はそうなんですよね!」
「まあ……うん、そうだけどそうじゃ無いっていうか……」
「どういう事ですか!」
……そんな僕とガレーシャとの、新婚夫婦の様な仲睦まじい会話が飛ぶ中。
モイラは人ごとの様にそれを笑いながら、
「ねえねえ、さっきのを踏まえて聞いちゃうけど……やっぱり君とこの雪山のちょっとしたサイバー感を作り出したのって、やっぱり三人の勇者の誰かがやったから?」
青い魔力で形作られた人工知能に向け、モイラは探求心を満たす為に絶賛質問中。
目の前の、僕とガレーシャの言い争いを背景に。
仲睦まじい会話?を完全無視で、二人は話し合う。
「そうですね。神導師様がこの雪山の、近代的環境をお創りになりました」
モイラは微笑し、俯きながら小さく呟く。
「……あの子と組ませたら面白そうだなぁ」
「どうかしましたか?」
疑問に、モイラは誤魔化し笑いを浮かべ、
「あー。いや、何でも無い。忘れて忘れて」
「あはは」と。
モイラは疑念を噛み砕き、話題を無かった事に。
途端、その横で僕がやっとこさの帰還。
「ふはぁ……言葉責めは辛い」
「いや、まだ聞きたい事があるんですが……」
ガレーシャも一緒に、続いて登場。
そんな追い討ちも僕は華麗に避け……というか無視し。
「……兎に角先行こっか!」
僕の童顔に見合った無邪気な笑顔で、そのまま進行を良しとさせた。
♦︎
そして、そこから少し歩いた先。
ガレーシャの言葉責めも見納めた頃に、それは見えた。
……白銀の世界に建つ、木造の建物。
青い魔道具の道が突き進んだ先に待ち受けた、コテージ風の別荘。
窓からはみ出る暖色系の灯りが、生活感を見せつけてきて。
屋根からは黒めの物体が、屋根に積もる雪を押し退けて少しはみ出している。
他に別荘は無く、その代わりなのか、本当に豪邸と呼べそうな程コテージは大きい。
さっきの灯りを見る限り、人が住んでいるのは間違いない様だ。
「……コテージ、山荘だね。ここが終点かい?」
僕が聞くと、人工知能君は頷いて、
「はい。この中で主人様達は待っております」
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