第七十六話『勇者からの小さきお贈り物』

 

「……良し」


 しおりサイズに圧縮された、個人認証式・結界侵入用の魔道具。


 手紙に入っていたのは、実に三枚の栞。


 其々一つ一つに名前が記載されている。


 僕、モイラ、ガレーシャと。


 栞は結界の門戸もんこ……つまり入り口と出口に位置する箇所にペタっ、と貼り付けることによって効力を発揮する。


 で、僕達の目の前にあるこの門が、正にその結界の門戸。


 降雪が門で止まっているのも、外界からの隔絶を図っている結界が張られているからである。


 僕は手慣れた手付きで、栞を門に、横並びで貼っていく。


 ……栞は消耗品だ。一回しか使えない。


 でも、それで充分。


 これには、個人認証用の魔力が込められている。


 其々それぞれ、僕含めた三人の魔力がね。


 そして栞を結界に貼った今、この瞬間。


 僕達は『この先に入って良い』という権利が与えられる。


 だから。


 ……ギギギ、と。


 何の動力も用いずに、重厚な門はゆっくりと開かれた。


 同時に、青く光って燃え尽きる栞。


 結界が『門の開閉』と言う動作によって、門戸を開けたのだ。


 これで、僕達は客人として認知された。


 その名も被視認性事象操作魔術結界。


 それも高度な、古代技術並みの強さを誇る人除けの結界。


 権利がない人間は立ち入ることすら出来ない。


 その他一目では理解出来ない技術が、其処そこ彼処かしこに散りばめられている。


 正に、神術と言えようか。


「……奇妙ですね」


「ここは、こう言った物がじゃんじゃん出てくるからねー」


「そうなんですか……なんだか私、ワクワクしてきました!」


 モイラとガレーシャの和気藹々わきあいあいとした会話の横で、僕はガレーシャに向けて特殊結界を張る。


 この先は寒いからね。対策しないと凍え死ぬし。


 で、それに何故か気付かないガレーシャに向け、僕は言った。


「兎に角、進んでみよっか」



 ♦︎



 尖塔に近い、武器として使えそうなくらい尖った雪山。


 その麓に、僕達はいる。


 ……まあ麓というか、その前にある豪雪地帯って所かな。


 豪雪地帯という名の通り、ここにはかなりの雪が降り、積もっている。


 周りの針葉樹林のお陰で、歩けないほど雪が積もるという事は無いみたいだ。


 いやそもそも、僕達が歩いている山道には雪が積もってすらいないけど。


 積もった跡すらも。


 何かこう、神様が海をスッパリ、と割ったみたいに。



 ……あ、神さまここに居たね。



 兎に角、簡単に説明すると。


 この白銀の世界に、青く光った一本道が雪を押し退けて存在している。


 その道は常々降り頻る雪を消滅させ、人を導く絶対の道標にまで昇華している。


 それに、一人の魔導師は、


「この道自体が魔道具と化しています……こんな無駄ーーじゃなかった。こんな発想の魔法技術あり得るんですか?」


 ガレーシャは、魔法の道を歩む若き者として、この技術に芯から驚嘆している様だね。


 確かに、この時代にはあり得るテクノロジーではあるけど、こんな風に使う発想は無かっただろうからね。


「まあそうだね。この雪山の所有者の中には、こんな無駄な物を作る物好きもいる、と言う事さ」


 微笑で答える僕。


 しかも、上には鳥型の魔道人形も元気に飛んでいると来たもんだから、本当にここは摩訶不思議だ。


「所有者、ですか……さっきの結界と言い、この魔道具と言い……そして周囲に飛んでいる鳥型の魔道人形も含め、この雪山の所有者って、どんな人なんですか?」


「うーん……そこら辺は、彼女が説明してくれるんじゃ無い?」


「……彼女?」


 首を傾げるガレーシャに、僕は怪しく表情を笑わせながら言った。


「居るじゃないか。君の後ろに」


「……え?」


 恐怖を煽る言葉に、ガレーシャが恐る恐る振り返ると……。

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