第五十三話『作戦決行。直ぐ爆撃』

 

 ローズ本社倒壊。


 そんな凶報は、直ぐ魔族街中に響き渡った。


 イエロウズ・タワー創設に携わったアリエット社社長家族含め、従業員猟奇的殺人事件の翌日だ。


 無理も無い。


 合間を持たさず、たった二日の内に、二つの大企業が潰されたんだ。


 完全に、反社会的勢力が関わっている、と思われてるよね。


 そして……生活の基盤を作っていたローズ本社が崩されたことにより、住民は嘆いている。


 街は混乱している。


 今まで感じたことの無い『脅威』に、魔族街の住民達はかなり愁傷しゅうしょう気味。



 ……もう既に、魔族街は錯乱中だ。



「早くも街の窮地か……もう決めに行くしか無いか」


 まあ、現状況は今までの静かな水面に波風が立っただけ。


 でも、いつかは大波となり得る。


 早急に対処せねば、魔族達の精神に危害を加える可能性がある。


 という事で、今僕達は作戦会議中だ。


 ラット君が貸してくれた部屋の中で、いつものように。


「決めに行くって、何か足掛かりでもあるの?」


 僕がそれとなく呟くと、モイラが反応した。


 ので、分かりやーすく説明を始める。


「うん。僕達が以前見た『巨大物資生成機械』って言うのが、足掛かりになりそうなんだよね」


「ああ、ローズ社が作ってるあれか」


 その単語に、ラット君は想起した。


「うん。その幹部クラスであろう魔人君から聞いたんだけど……あれ、古代兵器の技術を流用しているみたいなんだよね」


 静観していた二人の目が見開く。


「嘘!古代兵器ですか!?」


「……古代兵器ってなんだ?」


 太陰太極図のような、ガレーシャからラット君への真反対な流れる反応に。


「だけど、夜な夜な調べてみた結果、ほぼ全ての巨大物資生成機械に、ローズ社が付けたであろう安全装置があった」


 僕は無視し、そのまま夜の作業で分かった事を告げた。


 ……正直この二人の喜怒哀楽よりも、機械についての情報の方が重要だし。


「安全装置か?」


「そう。ある一つの機械を除く全ての機械に、分解されたら情報ごと爆発するという安全装置が付いていた。恐らく……見られたくない情報が、あの機械には詰まってるんだろう」


「見られたくない情報か……そこに、あいつらの情報があるんだな」


 僕に質問したラット君と、その説明に嫌悪を示すラット君。


 流れる様にローズ社を恨む発言を、彼は告げた。


 魔族達の代表の様に、彼は正義感でそれを語っているのか。


 或いは……。


 ……彼を懐疑の視線で見つめる僕宛に、モイラからの伝書鳩が届く。


「ただ一つを除くって……もしかしてそこをユトは叩くの?」


 僕は笑った。


「ご名答。孤独の魔族街死零のネズミ、五丁目第十三番地にポツリと存在する、小さな廃屋……そこに、情報がある」


 全員が、固唾を呑み込んでいるのが分かった。


 続け、僕は言った。


「決行は早朝四時。多分これが最終決戦だ。準備を怠らない様に」


 僕は、そんな全員の目を見ながら、一人一人の相槌を確認した。



 ♦︎



 ……作戦決行。


 僕達は、更に混乱渦巻く街を駆けていた。


 四人の人影はいずれ、目的地へと辿り着く。


 天を貫く線が伸びた廃屋の目前。


 静寂に包まれた、光の刺さない裏路地。


 トタンと埃被った、咳込む様な空気を感じる。


 足跡は、僕達以外に無い。


 匂いも、音も聞こえない。


 他、付近に何も痕跡がない事を確認し、僕はラット君に告げる。


「見張り、宜しく」


「分かった」


 相槌を交わし合い。


 僕は扉を開けた。


 二人の精鋭を引き連れ、その先へと侵入。


 ラット君の送り視線を背に感じながら、僕達は機械を探る。


「……かなり、埃被ってますね。その見た目の通り」


「だね。っとここかな」


 モイラは、舞い上がる埃の多さを感じながら、無理矢理錆びた機械に穴を開ける。


 ガコン、と。


 傍目から見れば、随分と強引でガサツな行為だが、これはちゃんと安全を考慮した上での破壊行為だ。


 どこに穴を開ければ、内部構造に損傷を付けないか、とかはちゃんと馬鹿モイラでも分かってる。


 というか、やっぱり爆発しないんだね。


 まあ、取り敢えずモイラが僕を手招きしてきたので、歩み寄り。


「どれ、ちょっと見せてみ……」


 僕は、空いた穴から内部の構造を解析する。


 こういう解析は、ガレーシャより僕の方が得意だ。


 未知の、古代兵器の技術を流用して作られてるものだからね。


 ガレーシャを見ていて分かったけど、未知の技術に対しての対応力があまり無い。


 分かるところから、魔法回路を突き詰めるのも出来るはずだが、彼女はそうしない。


 いや、そう出来ないと言ったところか。


 ガレーシャのそういう弱点は、早めになんとかしなくては……っと。


 終わった。


「まあ、終わったは良いけど……やっぱり損傷が激しい。この機械が二千年おきに、記録と機能ごとリセットされているという事しか……」


 疑念の表情で、僕達は機械を覗き込む。


 取り敢えずで僕の言葉に会釈する彼女達だが……。



 ……そんな事など、どうでも良くなるほどの号砲が鳴った。



「お、おい!不味いぞ!」


 ラット君が、何かに怖気付く様な声を叫び上げた。


「どうしたんだい?」



「ーーー敵襲だ!!」



 瞬間、僕らは爆撃を受けた。

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