第二十六話『ネズミ様』
ネズミ……しかも魔族達から見たら、人間の僕達は違和感がありすぎるだろうから、聞くのは当たり前か。
魔族の君には無い肌色。体毛が薄く、しっかりとした服を着込んでいる。
君が裸足なのに対し、僕らは靴を履いている。
しかも……この子は一人じゃ無い。気配がこの廃屋の近くをうろついているのが分かる。
だが、こちらの事を気にしていない様だ。……気付かれていないという事。
つまり、僕達の存在に気付いているのはこの目の前のネズミ君だけ。
……殺しても良いけど、上手く言いくるめれば利用できる。
他の気配を察するに、外にいるのも魔族。その中には、ネズミ君の様なオーラを放つ魔族もいる。
それがネズミの魔族だと仮定し、他にも違うオーラを放つ魔族が居る所も入れてみたら、ここは様々な魔族達が五億年もの間過ごして来た空間という事になるのだろう。
それは、この空間の時間の流れ方と、外の時間の流れ方が一緒だと言うことで裏付けられる。
気配の人口密度的に街だろう。しかも広さは花の魔人の空間の比では無い。
……古代遺跡の中の街、か。
面白い。利用できそうだ。
ならばこそ、だ。
「なぜ魔族が……」
と、魔法の発動をしかけたガレーシャ。
暴れられては困るので、軽くモイラに僕は目で止めさせて、と送った。
モイラは快く頷き、ガレーシャの魔法の発動を遮った。
「まあまあ。この子は悪い魔族じゃなさそうだよ?」
「……分かりました」
ガレーシャはモイラの静止によって平静を取り戻した。
……まあ、焦ったのもネズミ君が持つ魔力が、結構強大な物だったからだろうね。
見窄らしい格好なのに、このネズミ君は結構な魔法の才能を有している様だ。
僕は怪しく口角を上げた。
……素晴らしい。使い捨てにはなるだろうけど、良い情報源になってくれそうだ。
そして僕はそのまま、奥のガレーシャ達の会話を怪しそうに見ていたネズミ君に語りかけた。
「僕達は人間だよ。君達が居る古代遺跡が発見されて、その探索に僕達がやってきたという訳だ」
「……人間?」
僕の言葉に、敵意の様に魔力を高ぶらせて聞くネズミ君。
「まあまあそんな硬くならないで。悪い様にはしない。ただ、聞かせて欲しい事があるだけさ」
僕の説得に納得したのか、ネズミ君は魔力を引っ込めて、安堵の表情を浮かべた。
「……ああ、あんたら、良い人間だったのな」
……信じるのが早い気がするけど、それはそれで丁度いい。
僕は続けて話した。
「なら、聞かせて欲しい。……何故、君達はここに居る?」
そうしたら、ネズミ君は笑った。
「ーーーー神様のお陰だよ」
僕は、モイラと見つめ合った。
♦︎
ネズミ君は汚い椅子に座りながら、色々話してくれた。
この空間がどの様に成長して来たのか、どの様に自分達が生きながらえて来たのか。
まず、最初に話してくれたのは、ネズミ君が言う神様と言う存在について。
その前にモイラにも小声で聞いてみたんだ。
「君の他に神って居たのかい?」と。
そうするとモイラは記憶を探った後に「居なかった。断言できるよ」と、言った。
……つまり、ネズミ君が言う神様とは……もしかしたら古代兵器の事なのか?
それなら、神様と言われるだけの知能を有していない筈がない。
……これで確信に変わったよ。
ーーー古代兵器には、確実に知能がある。しかも、かなり高い知能を。
そして僕はそのまま、ネズミ君の話に耳を貸した。
聞くと、その神様というのはネズミ様と呼ばれているらしい。
「……ああ、だから外にネズミの魔族が多いんだね」
と、僕が言うとネズミ君は、
「よく分かるな……まあその通りだ。俺たちの先祖はそのネズミ様って奴に育てられたらしい」
「育てられた?作られたんじゃなくて?」
「……それ以外は分からない。俺は歴史には興味がないからな。これも昔教えられただけだ」
そう、彼は言った。
……仮とはなる、けど、育てられたとなると、モイラの様な人を作れる神とネズミ様は少し違う様だね。
それならネズミ君達が全く進化していないのにも理解できる。育てられた時に色々細工されたと考えるとね。
そしてガレーシャが「外にもネズミさんが居るんですか!?」とか驚いていたけど、無視しておいた。
僕は次に聞いてみた。
『君達はどうやって、生命を絶えさずに過ごして来たんだ』と。
さっき、色々体を弄られて進化していないのは分かったけど、食料問題や交配問題、人口問題などには説明がまだつかない点がある。
……主に食料問題だ。生命である以上、食料は必要だ。
しかも、透視してネズミ君の中を見ると、まだ食料が胃の中に残っているのが見える。
そこがおかしいんだ。
この空間は確かに広いけど、作物を育てられる環境が既に無いことくらいは分かる。
だから聞いた。
何故食糧を作れないのに生きられているんだい?と。
そうするとネズミ君は、
「それも、神様のお陰と言っても良いかな」
と、笑い混じりに言った。
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