第二十五話『未知との遭遇』
爆破に巻き込まれそうになったガレーシャを僕は助け、ホッと息をした後に、その光景を目にした。
「家……だね」
僕はそう呟いた。多少驚きながら。
「家ですね」
「家だね」
そして、僕の呆気にとられた様な声と共に、彼女達も僕の言葉をリピートした。
「……」
そして、静寂。それを理解するのに時間をかけている様だ。
その中で、僕は見えているものの全てを解析してみた。
後ろにあるのは扉。
金属製の、苔や錆が出来たその汚らしい扉は、状況から察するに、僕達はこの扉からやって来た……という事を指し示しているんだろうか。厳密に言えば。
でも、もうこの扉を開けても花の魔人が居た空間には辿り着けない……それは魔力反応から見ても一目瞭然だ。
恐らく、たまたま開いた空間の扉に、僕らがたまたま同じ時間に入ってしまったんだろう。
そして、次に来たのは鼻に付く様な埃の匂い。
……ちゃんと掃除して。
しかも、折れた木が跳ねた壁や地面で元気良く走り回る、蜘蛛やゴキブリども。
はあ。滅したい。
今直ぐにでも掃除したい。
そして、極め付けとも言わんばかりに宙を悠々と舞う蛾。
バタバタと音を鳴らして近寄ってくる蛾への感想は、うざいの一言に尽きる。
横にあるのは、ろくに整備もされていない、曇りに曇って遂に外の様子すら映せなくなった窓。
天井のランプはぎこちなく点灯し、時々光を灯すのをやめたりする。
横にある椅子やテーブルも埃被ってて、座ったら一生そのズボンが着れなくなるほどに汚くなっている。
床にも、かなりの量の埃が積もって、それはもう真っ白だ。
……しかも今は夜の様。
天井に貼った大きい蜘蛛の巣も相まって、なんだかお化け屋敷の様な雰囲気を醸し出している。
……そんなとこ。見る限り廃屋の、馬鹿みたいに汚い所なのは分かったよ。
そして、静寂は解かれた。
「……いや!おかしいじゃないですか!?古代遺跡の中なのに家なんて!!」
ガレーシャは思い出したかの様に叫んだ。
ほら、虫どもも危険を察知したのか隠れちゃってる。いつか駆除してあげるから震えて待っててね。
……その前に、ガレーシャの言った言葉に対してだけど……それ普通じゃない?と僕は言いたい。
なので、それを申す事にした。ちょっと嘲笑う様に正しながら。
「いや。古代遺跡というのは古代人が作った物だから、家があってもなんら問題ない、けど……」
そして、僕は今気付いた事を口に出した。
含みのある言い方をした僕の言葉に、案の定ガレーシャが引っかかった。
「……けど?」
本当に、君は聞き手としての才能あるよ。コメディー界でやってけるんじゃない?キャラも行けそうだし、オススメするよ。
……と、冗談は心の中だけにして。
僕は、溜息を吐きながら言った。
「人が居るなんて、聞いてーーーーー」
「ああ?あんたら誰だぁ?」
だけど、そんな僕の言葉を遮って、男の声が廃屋内を駆け巡った。
♦︎
放たれたのは怒声のような、不思議がっているような……まあそんな声だった。
それは僕たちから見て、右奥の曲がり角の方から聞こえた。姿は見えない。
……魔物かも知れないけど……。
ドスが効いたその声の主は、どうやらこちらを敵視している訳でもなさそうなんだ。
そもそも、その角から出て来てもらわないと姿共に分からないけど。
その角から勢い良く飛び出して来て、「はい魔物でしたー」とか言われたら、そのまま駆除するしか無いよね。この虫達と共に。
ギシギシと脆い木材の音を立てて、その声の主達は進んできた。こちらの方へ。
……そして、その姿を見せた。
「……ネズミさん?獣人ですかね」
ガレーシャはその人物に聞こえないように小声で言った。
……その言葉通り、姿を見せたのは成人男性位の背丈を有した、二足歩行になったネズミみたいな生物。
背筋が悪いのが目立つ。そして彼?はガレーシャ達の顔を見上げる。
背筋が悪すぎて、顔の位置が低くなっている所為か。
……と言うか、僕のこと目に入ってなく無い?この子。
背丈が小ちゃいから見えなかった、とか言ったら撲殺したくなるけど。
……取り敢えず、僕はそのネズミを解析し、分かりやすくガレーシャに説明してあげた。
「このネズミっ子君は獣人じゃ無い……魔族だよ」
僕はそう言ってそのネズミ君の体を見回った。
……汚らしい、埃やカビが入った服を着たその魔族は、見る限りこの廃屋に住んでいるか、溜まり場として利用しているか。
どっちでも良いけど、注目するのは……この古代遺跡に魔族が住んでいる、という事。
解析を重ねてみた結果、この子は大体二十五歳辺りの育ち盛り。
身の内に魔族の血を入れた、正真正銘の魔族。姿はネズミだけど。
……そこで、疑問が浮かぶのは当たり前。
『なんで、古代遺跡に魔族が住んでいるの?』という疑問がね。
そう。そうなんだ。この子は二十五歳。
花の魔人の言葉から察するに、この古代遺跡が出来たのは、少なくとも五億年前。499.999.975年足りない。
この魔族の子に不老の呪いがかかっていない事を見ると、この子は二十五年前にこの空間で誕生し、この空間で成長して来た、と考えるのが妥当。
……この子一人で生まれて来た訳じゃ無い筈だ。
花の魔人の出生地はここの様だね。この空間に帯びている、他には無い特殊な魔力……花の魔人はこれと同等の魔力を帯びていた。
つまり、五億年前にもこの空間には魔族が住んでいた、という事。
恐らく、五億年前からずっと、生命を繋いで来た様だ。
それでも、昔の魔族達の外見とあまり変わらないのは、全く進化していないのか、もしくは進化できない種族なのか……。
そこで、魔族の子から声がかかって来た。
「あんたら、見た事ねえ面だな。……人間か?」
……あれま。やっぱり聞いてくるのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます