第二十七話『それだ!!』

 

 彼は話してくれた。この空間について。


 彼は言った。ここは閉鎖空間だと。


 彼は汚い椅子から腰を上げ、埃を払いながら、


「外へ出ろ。そこで色々分かる……あと、他の魔族達にもお前達は悪くない奴だと言っておく。好きな格好で、準備ができたら出て来い」


 と、光る赤眼を見せ付けながら廃屋を出て行った。


 あの赤眼は……。


(魔眼だった。だから僕達をすぐに信用したのか)


 あれは魔眼だった。主に人の情報を解析する事に長けた暴露の魔眼。


 ……僕とモイラは身体にあまり情報を暴露されない様に結界を張っているけど……まあ『いい人』という事くらいは盗み見られちゃうか。


 そして僕は振り返り、モイラ達に聞いてみた。


「……行ってみる?」


「行ってみましょう!古代遺跡の中の魔族達の暮らし……見てみたいです!」


 ガレーシャは食い気味に言った。


 モイラも「行きたい!」とはしゃいでいる。


 ……即答か。


 まあ僕も古代遺跡内部の街について、見てみたいかも。


「なら、街探索に行こうか」


 そう言って、僕は埃臭い廃屋の扉を開けた。




 ♦︎




 待っていたのは繁華街への道だった。


 夜を彩る、ネオンの明かり。


 通り過ぎて行く魔族達。漂う肉の焼ける匂い。



 ……こんなに栄えているとは、凄いね。



 扉の横には、いつのまにか綺麗な服に着替えた、あのネズミ君がいた。


 さっきまでの汚らしい雰囲気が消え、清楚な感じを漂わせる……ネズミだけど。


「終わったか。早かったな」


 腕を組んで待機していたネズミ君は、今度こそ僕の顔を見て軽く頷いた。


「来い、お前達が見たいものがある所に案内してやる」


 案内してくれるのね。


「ちょっと待った」


 僕はネズミ君を止めた。


「……どうしたんだ?」

 その上で知らなければならないことがあるから。


「……名前、教えて」


「あ」

 やっぱりネズミ君の顔を見るに、忘れていた様だ。目がキョロキョロしているのが見える。


 だけどその困惑も束の間。


 彼はすぐ様態度を戻し「忘れて」と言わんばかりに振り返ってぎこちなく自己紹介した。


「俺はラット。……お前達は?」


 そのラットと言う名前を聞いて、モイラが「名前もネズミさんなんだねー」とか言っていたけど、触れたらめんどくさいので無視し、僕は答えた。


「僕はユト。横に居るのがガレーシャ。そしてモイラ」


 そして僕は全員の紹介を簡潔に行った。


 ラットは僕含め一人ずつの顔を伺い、それぞれ名を唱えた。


「ユト、ガレーシャ、モイラ……分かった。じゃあ行くぞ」


 ラット君がモイラと言う名を唱えた途端、目が細まった様に見えたけど、気のせいか?



 ♦︎



 そして今はラット君の先導で繁華街を歩いている途中だよ。


 僕達は周囲の人々からの視線を感じつつも、そのまま彼の話を聞いていた。


「この街は孤独の魔族街、死零しれいのネズミという所だ。此処では沢山の魔族達が住んで、助け合っている」


「……結構不気味な名前をしている癖に、活気は物凄いんだね」


 僕が軽く周りの繁華街の活気に皮肉を飛ばすと、ラットは笑った。


「はは。確かに俺もそう思った。だけど、俺達は騒ぐしか出来ないんだ」


 だけど直ぐに暗くなり、彼は含みのある言い方をした。地雷踏んじゃったかな。



 ……まあ、廃屋の時に言った『閉鎖空間』と言う言葉が関わっているのだろうけど。



 だから僕は聞いた。


「それって、此処が完全なる閉鎖空間と言う事が関係しているのかい?」


 その質問に彼は、肩を落として答えてくれた。


「関係ありまくりだ。俺達はその所為でここから出られない。そしてそのまま、世代を重ねて生きてきた」


 その言葉に、僕は考えた。


(……確かに、この空間を見る限り出口は無い。けど……)


(僕達がこの空間に入って来た時の様にその時、その場に出口が存在するという事があるかも知れない筈……何故五億年の時を掛けても尚出られないんだ?……まさか、この子達も花の魔人の様に)


 僕は察してしまった……けど、そんな呪いらしき痕跡は見当たらない。


 不思議がって探しても見当たらない……。


 だから僕は小声でモイラに助けを求めた。


 観察術なら、彼女の方が長けているから。


「モイラ、君の目から見て……あの子に呪いがかかっているか分かるかい?」


「……機能が制限されててよく分からないけど……呪いなんて掛かってないのは分かるよ」


 そんな事を言うモイラ。僕達は溜息を吐いた。


 モイラも、ラット君達が何故出られないかを知りたがっていたみたいだ。


 だけど、何も無かったとして僕と一緒に落胆している。


 でもそこで、一緒に会話を聞いていたガレーシャが活路を開いた。


「あの……出られないのなら事象操作を使えば良いんじゃ無いんですか?」


 僕達はその言葉を聞いて目を合わせ……。



「それだ!!」



 と大声で歓声を飛ばした。その歓声は余裕で繁華街に響いた。


 だから……。


「お前ら静かにしろ!」


 うるさすぎたのかラット君に怒られてしまったよ。

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