第十四話『知らない筈の秘密』

 

「排除……完了」

 僕は淡々とそう告げる。


 血や肉塊すらなくなったその場所を背後に、後ろで頑張っている筈のガレーシャの様子を見る。


「おお、上手くやってるね」


「もう終わったんですか?」

 ガレーシャは疲れの色や、汗すら流さずに答えて見せた。


 背後の魔物は既に、焦げ上がっている。

「僕が敵を相手していたのはたったの数十秒なのに、もうあの数の魔物達を排除し切るとはね……」


「いや、たったユトさんが数十秒であの敵を排除するのがおかしいんですよぉ……」


「そんな事は良いんだ。進むよ」


「分かりました。お伴します」


 僕達は謎の宇宙空間を後にした。


 ……ボスが倒された影響か、魔物はもう出て来てこない様だ。


 あれ?もしかしたらさっきのジャングル空間を吹っ飛ばした時に、そこのボスを巻き込んじゃった?


 だから続く魔物が出てこなかったのかな?


 ……まあ、気にすることでもないか。



 それ以前に、だ。



 この通路を行った先が、僕の未来視の終着点。


 古代兵器が『あるかもしれない』所。


 まだ一回目の未来視で確定は出来ないから、後で視直す必要があるのだけれど。


 とりあえず下見する必要があるのは変わらない。あわよくば、古代兵器があったら破壊するまで。


 僕たちは暗い通路を歩き続け、それを目にした。


「何ですか……この巨大な扉は」


 僕は辺りを見回す。


「扉しか無いわけじゃないけど、行くしか無さそうだね」


 扉の横には途方も無いほどに伸びた通路がある。だが、その通路には、何も無いのがわかる。


 だから、この見上げるほどに大きな扉を押し進めるしか無い。


 僕は扉の前へと歩み、その扉を軽く押した。


 ……普通ならば、コップを揺らすだけの力でこの大きい扉を開けられる筈は無い……けどね。



 ーーー激しい金属音と轟音を立てて、大きな、実に大きな扉は開く。



「機械仕掛けみたいな軽さだね。見掛け倒しにも程がある」


「流石古代遺跡ですね」


 そして僕たちは、開き切った扉の奥でその光景を見る。


「……何も、無いね」


 待っていたのは、ただ白色の空間だった。少し明るさがなくて暗いが、何も無いのは一目瞭然。


「ですね。こんなにも大きな扉で閉められているのに、何も無いと……怖いです」


 僕は更に歩み出し、本当に何も無いかを確認する。僕たちが入り切った瞬間に閉まる扉。


 何かあるかもしれないという妄想に縋り付きたい訳じゃ無いけど、確か……。

「……何も無いですよ、そこには」


 ガレーシャはそう言うが、僕は気にせず床を探る。


 そして探り続ける僕の気配探知に、動く気配が入ってきた。


「……人」


 来てしまったか……人が。




 ♦︎




 扉が強引に蹴破られるのと同時に、部屋中に男の怒声が響き渡る。


「ちっ……ねえな古代兵器。……第三王女さんよ、本当にここにあんのか?」


 ……は?古代兵器?


「記録には、そう書かれています。間違いない筈ですが……」


「はあ、こんな意味ありげに馬鹿デケェ扉があるのに何も無えのかよ」


 そう声を荒げ、溜息をつく、底意地の悪そうな男。


 そして、その男の後ろに控える清楚な感じな女性。聞く限り、国の第三王女の様だけど。



 ……あ。とりあえず、今の僕の状況を説明するよ。



 僕達はあの子達の気配を感じ取った後、咄嗟にガレーシャの魔法で気配と姿を消した。


 そのおかげで、勘付かれていない状態であの子達の会話を盗み聞き出来ている、ってこと。


 当然、ガレーシャも僕の横に控えている。


 彼女は、顔を埋めて恐怖に支配されているが。



 ……いや、そんな事はどうだって良い。



 あの口の悪そうな男が言った『古代兵器』という単語が気になってしょうがない。


 古代兵器の存在を知るのは、世界の情報を取り込み、未来視でこの遺跡に古代兵器があると予測した僕だけな筈。


 記録が無いから、世界の情報に写らなかったと言う事。


 記録が無いという事は、古代兵器の存在を知る者も居ない、と言う事。


 だけど、この子達は古代兵器の存在を何故か知っている。


 しかも、古代兵器を探している。


 その上に、だよ。



 ーーー記録に書かれているって、どう言う事?



 第三王女と言われる彼女。


 古代兵器を探す彼。


 ……そして、今見えたけどその二人を警備している兵隊達。


 元々古代兵器がある事と、古代兵器があるこの遺跡が出てくる事を知っていたかの様に。



 ーーー確かめるとするか。



 僕はガレーシャの魔法を解く。


「え?何を……」


 ガレーシャの引き止めを無視し、僕は無言で歩き、視界端の文字を確認する。


『了解!すぐ行くよ(^∇^)』


 僕の口角が上がるのを感じた。


「誰だっ!!」


 僕の出現に騒ぎ立てる兵達を置き去りに、僕は嗤う。



「ーーーなんで、君達は古代兵器の事を知っているんだい?」

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