第十三話『遺跡の中の宇宙』

 

 古代遺跡の回廊を抜け、その先にあったものは……


「う……宇宙……?」


 ガレーシャがその光景に驚きの声を漏らした。


 それもその筈。宇宙なんて初めてだろうからね。レプリカみたいな物だけど。


 この空間……宇宙空間の様なこの場所は、足場が無い。


 いや、無いことも無いけど何も無い空間に立っている様な感じと捉えて良い。


 浮いている様に見えるけどちゃんと重力は働いているし、死ぬことも無い。ただ宇宙の壁紙を空間に貼り付けたみたいな感じだね。


 さっきのジャングルの様に。


 ……つまり今は安全だけど、直ぐに敵が来ると言うこと。


「油断しないように。ここもさっきのジャングルと同じ様な感じなら、直ぐに……」


「ブグァァ!」


 遠方から聞こえる魔物の叫び。


「……来た様だね。ガレーシャ、やるよ」


「分かりました!」



 ♦︎



 戦闘中。


 で、この宇宙空間特有の魔物は、ブラックホールとか本来の宇宙で発生する事象の具現化とか星を具現化した魔物とか。


 量も質もさっきのジャングルとかの比じゃ無い。


 未来視的には、直ぐに突破する事は叶わない。


 あと五分位は耐えなければいけないけど、案外簡単そうだ。ガレーシャが有能だからね。


 遠距離も近距離も対応出来る柔軟さも、対応力の高さも評価出来る。


 正直言って、逸材。


「よくやるね、ガレーシャ」


「有難うございます!」


 ガレーシャは片手間に僕の背後の魔物を魔法で撃ち落とす。


 精度も魔力量もバッチリだ。これなら良い仲間として働いてくれそう。


 そして、ガレーシャが頑張ってくれたお陰で時間を稼げた。これなら未来を再現できる。


「行くよ、ガレーシャ。付いてきて」


「え?でも、まだ魔物が……って無用な心配でしたね」


 僕はさっきの様に文句を言わないガレーシャを引き、魔物達の間を紙一重でくぐり抜けて行く。


 全て軽やかに。危なげなく。攻撃全てを余裕で避けて行く。


 魔物が僕達の背後を付いてくる。……このままでは追いつかれる。


 なので僕はガレーシャを抱え、未来視通りの速度で空間を駆けて行く。


「へっ!?ユトさん……ああぁっ……!?」


 ガレーシャがうるさいが、そんな事気にしない。


 投げてやろうかと思ったけど、冗談にならないのでやめておこう。


 空間を閃光の様に走っている時に、僕達の前に立ちはだかる大きな物体があった。


 僕は止まった。


 それは多少の炎と長刀を携え、数十メートルもあるその体で道を塞いでいた。


 生きている様で、死んでいる。ここのボスか。


「ゾンビみたいだね」

 僕は僕の腕の中で震え始めたガレーシャを離し、目の前の敵と背後の魔物に集中する。


「うぅう……」

 低く、唸る様な声で、その物体は威嚇する。


 ……この魔物は結構まずい。ガレーシャでは、善戦はするだろうけど結果負ける。


 それに、背後の魔物も居る。それの対処はガレーシャに回したい。


 つまり、この死骸は僕単騎で倒す。


「ガレーシャ、背後頼むよ」


「……あの物体を、単騎で倒すつもりですか?」


「それ、僕に聞く?」


「失言でした。じゃあこっち、任せてください!」

 元気にガレーシャは答えた。頼れる仲間で安心するよ。


 なら僕は、ただその信頼に応えるのみだ。


 僕は、武器の施錠を解放した。


「じゃあ、やるか」



 ♦︎



 僕の本当の武器は、今までの様に拳……とか考えてる?


 残念ながら、僕の専業は遠距離なんだ。近距離も出来るけど、得意なのは遠距離。


 弓とかの自分の手を使わなきゃいけない武器じゃなく、ただ自分の意思のみで動く武器が僕は得意。


 ただ物体に頭で語り掛けるだけで忠実にそれを全うしてくれる従順な武器。


 それが……僕の【忠節無心カラクリキコウ】凡ゆる命令にも、どんな形状にだってなってくれる、最高の武器。


 僕の頼れる相棒さ。


 今回、僕がする要望。


 ・円状の刃チャクラムとなり、敵の喉を搔っ捌け。


 ・如何なる攻撃にも耐え抜き、障害は全て斬り伏せろ。死ぬまで。


 ・僕の思い通りに動け。


 とね。


 そして、彼は僕の要望通りに動き、円状の刃チャクラムとなって、敵の首へと向かって行く。


 その刃は、既に敵を絶命させる、という事のみに動いており、なんの因果にも縛られる事はない。



 ーーー最も、主人がそれを許さない。


「うぅう……」


 呻きと共に、敵は炎を纏った長刀を振り回す。


 粗野ではあるものの、降った時に飛ぶ火の粉が、隙をカバーしている。


 ……だが、それら全ての抵抗は円状の凶撃によって無に帰される。


 風切り音と共に敵へと進んで行く刃。火の粉を物ともせず、堂々とした直線の移動で向かって行く。


 敵が振るう長刀も、直撃はした……が。



 火花も上げずに、その長刀は両断された。



 一刻。


 それ程の時間を要すれば、かの敵の喉元へと、刃は到達する。


「ぅ……?」


 声を上げ切る暇も無しに、敵の首は……飛んでいた。


 塊が宙を舞い、糸の様に断面から赤い血が垂れて行く。


 ゴトン、という鈍い音が鳴り響き、首は地面に無残に転がる。


 だが、それで終わりでは無かった。


 ユトが言った要望を、覚えているだろうか。


『如何なる攻撃にも耐え抜き、障害は全て斬り伏せろ。【死ぬまで】』


 そう、死ぬまでだ。


 ーーーだから。


「ぅう!」


 円状の刃は止まらない。


 敵の生存を確認したから、主人の要望通りに。慈悲など与えずに排除する。


「ぅうう!?」


 以前止まることを知らない刃に困惑しているのか、敵は首を落としたその体で抵抗の意志を示している……だが。


 残虐に、非情に。


 その刃は戦う心も無い敵を、薄情に切り刻む。


 それがユトの意思であり、要望だから。


 ……僕が、どれだけにあの敵を、物質を敵対視しているか。


 ーーー死なないというのは、普通に脅威だ。首を落とされても生きているのなら、それは尋常じゃない敵として認識していい。


 あの敵は死んでいる。だから死なない。


 それを脅威に感じたからこそ、相手に戦う意思が既に無いとしても脅威と認定したならば、刃の攻撃は緩まない。


 相手の身体中の血が踊る様に撒き散らされているのを、僕は油断もせずに見据える。


 それが敵への敬意でもあり、僕のちょっとした相手への慈悲でもある。


 そして、敵は跡すら残らず消え去った。


 僕の忠節無心カラクリキコウは、死体処理もしてくれる。いい子だね。


 そして僕は任を終えて帰って来た相棒を受け止め、戻してあげた。


 そして、さっきの敵君がいたところに、僕は敬意を持って言った。


「君も、身に課せられた永い命令を、全うしたかっただけなんだよね。だけど、僕も仕事の為だ。消えてもらったよ」


 まあ、これもお世辞。


 僕には弱者の考えなんて理解できないから、君の事も、考えなくていいと思んだ。



 ーーーーそれで、充分でしょ。君と言う化物には。

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