第十二話『未来視は最悪だが役に立つ』

 遺跡内部。


 僕は未来視の情報を頼りに着々と進んで行く。


 古代兵器が『あるであろう』所に向かうルートは既に記憶済みだ。間違いない。


 幸運な事に後続も居ないから尾けられる心配も無し。


 これならば、安心して……落ちれるよ。


 僕は遺跡の床のタイルを引っぺがしてその奥を覗き見る。


 そこにあったのは……。


「……穴だね。後続も居ないから、行くよ」


「……え?落ちるんですか?この底の見えない……大穴を?」


「遠慮せず行くよ」


「きゃああっ……!」


 僕は怖気ずくガレーシャの手を引いて、そのまま穴の奥へと落ちて行く。


 叫ぶ彼女。平静の僕。


 ……落ちていて分かったけど、やっぱり傾斜がある。


 ちゃんと怪我なく落ちれる様に作られてるあたり、やっぱり人の手が掛かってるね。


 僕の未来視がわざわざこの道を通ったと言う事は、これが正規のルートの様だ。


 つまり、はやって先に行った冒険者達は……苦戦を強いられている筈だね。


 いやー。未来視様様だね。癪だけど。


 ……後、ガレーシャが意外とうるさい。


「死なないから大丈夫だよ」


「ええっ……!でもこれは……っ!!」


「もうすぐ着くから我慢ね」


「……」


 ガレーシャは涙目になって我慢を始めた。


 これで騒音問題は無くなった。


 次は……と、もう着いたか。傾斜の奥に光が見える。


 降り切った僕は軽く着地し、落ちてくるガレーシャを受け止めた。


「あ、有り難うございま……はあっ!?」


 感謝を言いかけた彼女だが、目の前の光景が入ってしまい、叫ぶ様に驚く。


「……ああ。ただのジャングルじゃないか」


 当たり前の様に言う僕。……下見済みだからね。前情報なしだと驚くのも無理はないけど。


「ただの……って私達遺跡に居た筈ですよね!?」

 ガレーシャはカクカクとした動きで感情を表現している。


 ……驚き過ぎだって。


 僕は警戒する様に周りを見渡しながら、


「少し落ち着いて。騒ぐと気付かれるよ」


「……気付かれるって、何に?」


 僕は背後に揺れ動く気配を察知する。


「こう言う獣達に!」

 草むらから勢い良く飛び出てきた虎の様な動物。


 体長一メートル程ある凶暴そうな動物。


 それを僕は、振り向きざまに拳で鉄拳制裁した。


 一発K.O。虎の様な動物は意識を失い、気絶。


 ふとガレーシャの方を見ると、腰を抜かして倒れていた。


「こんな事で驚いてる様じゃ世話ないよ」


「そう、ですね……」


 僕はガレーシャを起こしながら周囲の気配を探る。


 異常無しとか言いたい所だけど、どうやらそうも行かないみたいだ。


「唸る獣の気配複数……ここは動物園じゃ無いんだから……」

 溜息を吐き、僕は言う。


「ガレーシャ、獣退治と行こう」


 さぁ、ハンティングの始まりだ。



 ♢



 超獣ハンターの真似事をしている僕達だけれども、案外上手く行っている。


 僕は拳で迫り来る超獣達を叩き落とし、ガレーシャは遠方の超獣達を魔法や事象操作を使用して撃ち落とす。


 それで五十体程の超獣を排除している。


 だけれども……だ。


「……減らないね。この超獣達」


「確かに、キリがないです」


「そろそろ、突破口を見出せる頃だけど……ガレーシャ、耐えれる?」


「出来ないなら伊達に貴族やってないですよ」


「……頼れる仲間で助かるよ」


 僕は迫り来る超獣を叩き落としながら、その機会を待つ。


 あの未来視の結果を体現する。


 マニュアル通りに。溝をなぞる様に。


 未来を確定させるのだ。


 それならば、確実に僕の有利になる今を創り出せる。


 それは、既に眼前に迫っている。


 それが……突破口だ。


「来るんだ」


「へっ……?でもまだ獣が……」


「信じて」


 僕は驚く彼女の手を引き、超獣と木の間をくぐり抜けて『見た通りに』進んで行く。


 僕が左に避ける時、さっきいた場所は火に焼かれていた。


 僕が跳ぶと、地面は吹き飛んでいた。


 焔、衝撃、レーザー、蒸発。


 それら全てを僕は紙一重で避けて行く。


 いや、最早攻撃自らが避けている様に見えるのだろうね。


 ガレーシャも「何で当たらないんですか!?」とか言っているが止まったら彼女が死ぬので無視するしかない。


 そして多数の攻撃、立ち並ぶ木々の間を通り抜け、その奥へと突き進んだ。


 ……概ね、未来通り。


 僕は引いていたガレーシャを出口の所へと押し、力を見せる。


「ユトさーーー」


 多数の超獣の攻撃が僕に向かって放たれる。


 だけども……関係無い。


 それら全ては、僕によって潰えるのだから。


消滅イレーズ……記録レコード


 僕は囁く。


 轟音と共に、事象は発生する。


 これは簡単だよ。全て無くなる。


 圧倒的な力を振るえば、超獣など意に介さず全て……消え去るのだ。


 残ったのは……ただの空間だ。


 さっきまで元気に飛んでいたり走り回っていた超獣達は全て居なくなり、残ったのはジャングル地帯を作っていた空間だけ。


「消滅確認。行こうか」


 僕は振り返り、ガレーシャに言った。


 ガレーシャは言いたげにこちらを見つめてきたが、諦めたのか溜息をついた。


「……分かりました。行きましょう」



 ♢



 ジャングル地帯を抜けた僕たちは進んで行った。


 回廊を歩んでいる時にガレーシャが声を漏らす。


「灯りがついてる……最近まで発見されなかった古代遺跡の筈なのに、人の手で整理された様に感じますね」


「不浄や永遠の属性を加えられた物質で作られている様だね。如何にもって感じだ」


「……回廊の作り込みから察するに、やっぱりこのルートで正解だったんですね」


「信じてって言ったでしょ?


「そうですね。更に、信じさせて頂きます」


「有難い事だね」


 僕は回廊の終わりを感じる。


「次だ。攻略するよ」

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