第十一話『僕は、ハーレムが嫌いだ』

 

 僕は今、ガレーシャを抱きながら空を飛んでいる。


「きゃあぁあっ……!?私、空飛んでる!?」

 固まった状態から意識を取り戻したガレーシャが僕の腕の中で暴れる。


 今はかなりの高高度だから、危ない。


「騒ぐと落ちるから、気を付けてね」


「え……あ、はいぃぃ……」

 ガレーシャが赤面して僕の胸に顔を埋めてきた。


 それを気にせず、僕は飛んで行く。




 五分程で首都リリアンに着き、僕はガレーシャの根回しによって他の冒険者達とは一足先にクエストを受けられた。


 流石受付嬢だね。


 ガレーシャが途中「なんでこのクエストが貼り出されるって分かったんですか?」とか言ってきたけど、僕は「勘」の一文字で終わらせた。


 その方が手っ取り早い。そしてガレーシャは疑いすら持たずに納得した。


 明らかに勘で片付けられる問題じゃないのに、見落としてしまうのは彼女の気質の所為なのかもね。


 そして三日ほど経った時に、国から召集が掛かった。



 ーーーどうやら、ダンジョンの国メイゼラビアン王国へやっと行くらしい。



 ♦︎



 そして、今はゆらりゆらりと波に揺れている。


 そう、僕達は今船の中にいるのだ。


 大体千人くらいを乗せられるほどの大きな船。


 それに僕達は乗っている。


 ふと外を見ると、僕達の乗る船の前で先行して先に進んでいる豪華な船があった。


 僕達の船とは作りや強度、飾りなどが全て違う。


 あれは貴族や国直属の兵士達が乗る船だろう。


 そして、噂によるとリアン王国第二王子も乗っているそう。


 出来れば見つかりたくない人物だ。



 僕は座っていた椅子から腰を上げる。


「……何処へ?」

 ガレーシャに理由を聞かれた。


「ちょっと潮風に当たろうと思ってね。ガレーシャも来るかい?」


「……良いですね!」


 僕達は上甲板への階段を登って行く。


 そして踊り場的な所に来た時に突然声を掛けられた。


「フトゥールム様」


「ん?」

 突然の敬称付きの名呼び。


 振り返ると、そこには女性五人程で構成されたパーティが居た。


 何故か跪いている。


 ……まさか。


 僕は嫌悪の表情を隠しながら笑顔で言った。


「何故僕の名前を?」


「先の決闘……覚えていますか?」


 その言葉を聞いて、嫌な予感が的中したと確信する。


 ……はあ……やっぱりこう言う系か。


「……最近の事だからね、覚えているよ」


 その僕の言葉を聞くと、彼女達は更に頭を下げ、


「私達は、フトゥールム様の以前の決闘を見て、その実力にお見それ致しました。是非、私達を貴方様のパーティーに入れて下さいますでしょうか」



 ですよねー。


 覚悟はしていたけど、こう言う子達が来るかもしれない事は予想していたよ。


 その上で、言わせてもらう。


「ごめんね。人がこれ以上増えると困るんだよ。後、女性がこんなに居るのは好ましくない。だからその要求は拒否させて貰う」


「そんな……!?」


「……」

 ジーッとガレーシャを見つめる彼女達。


「……え?」


 彼女達の不満がガレーシャに集中するのが目に見えて分かったので、早めに引き上げて僕達は上甲板へと駆け上がった。


 後ろで何やら彼女達が騒いではいたけど、無視するに限る。



「あれで良かったんですか?あの人達銀ランクの冒険者でしたよ?」


 ガレーシャが引き止める様に言う。


 ……確かに、あの子達は銀ランクだ。実力はあるのだろう。


 だけども、僕はあまり女性からの好意を好まない。


 あの子達の顔から伺える感情は、僕に向けての恋情そっくりだった。


 だから、嫌なんだ。


 ただ僕は『伴侶としての仲間』が欲しいんじゃなく『背中を預けられる頼もしい仲間』が欲しいんだ。


 単純に僕が、ハーレム物が嫌いという事もあるけれど。


 だけども。


 女性六人に対し男一人って、問題しかないでしょうよ。



 ……男性冒険者達の視線が痛いし。



 ガレーシャ一人でさえそうだったんだから、あの五人の冒険者達を引き入れるとどうなるか。


 男達からの羨望の眼差し。嫌悪の表情。


 それを一挙に僕は引き受ける事になる。


 それは単純に精神にくる。


 船内部にいた時も、冒険者達の視線が痛かったんだ。


 だから僕は上甲板へと来たんだよ。



 僕の精神を逆撫でることはやめてくれ、本当に。



 ♦︎



 そして僕達はメイゼラビアン王国へと到着した。


 船から降りる際、かなり手間が掛かったよ。


 ……千人の冒険者達が居るのだから、それはもう暑苦しい。


 そして今僕達は、その熱気を体に浴びながら、長ったらしい遺跡の説明を受けている。


 僕は遺跡の事を未来視で知っている。出てくる魔物の強さも。


 ガレーシャにだってそれについて話した。かなり奇抜な道を辿る事になるからね。


 だから、聞いたことのある説明をされて、正直僕らは暇だ。


 周りの冒険者達の歓声とか、強そうな冒険者達を目で探し回るしかないんだよね。


 そんなどうしようもない暇を感じている僕の耳に、冒険者の祈る様な声が聞こえてきた。


「創造神、モイラ・クロスティー様。どうか我等冒険者を護り給え……」


 創造神?


 しかも、モイラ・クロスティーだって?


 僕は眉間にしわを寄せ、疑問を抱く。


 創造神とは何か、とガレーシャに聞いた。


「創造神、モイラ・クロスティーって?」


「この世界を作ったとされる神です。存在していたとされる記録もあって、人々の信仰の対象となってます」


「モイラ、ね」


「……何かあるんですか?」


「いや、何でも無いよ」


 ……これは確かめる必要があるね。



 ♦︎



 そして、長い説明を終えた後、やっと遺跡へと入れる様になった。


 濁流の様に流れ込む冒険者を横目で見つつ、僕達は一番後ろの後続として行く事にした。


 ……やっぱり、皆先頭を所望の様で、すっかり冒険者達が居なくなっている。


「そろそろ行きます?」


「……ちょっと待っててね」


 僕はガレーシャを置いて、近くの建物裏へと、『ある事』をしに行った。



 ♦︎



「終わったよ。行こうか」


「分かりました!行きましょう!」


 一分程で僕は帰り、元気なガレーシャの笑顔を拝みつつ遺跡へと入った。


 後ろに誰も居ない事を確認して、僕は覚悟を決めた。



 ーーーー僕は、古代兵器を破壊する。



 それが、僕に課せられた使命なのだから。

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